貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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262話

「ランちゃんまた来たわよ、取材の申し込みとTVの生放送の出演依頼」

「全部断る方向で」

「アイアイサ~」

 

前代未聞の芝ダートの頂点へと立ったランページ。ドバイワールドカップ、KGⅥ&QEステークス、アイルランドチャンピオンステークス、凱旋門賞、ブリーダーズカップクラシック。僅か1年の間にこれだけのビッグタイトルを駆け抜けて全てを勝利で飾ったランページ。しかも、初戦を除けばレコードタイムを叩きだした上に凱旋門とブリーダーズカップクラシックに至ってはワールドレコード。最早理解の外に飛び出したかのような戦績に誰もが唖然とした事だろう。そんなランページに取材を申し込む者は文字通り星の数ほどいる。全世界から申し込まれている訳だが……それらは断り続けている。

 

「滑稽だな、見ろよ外での狼狽ぶりをよ」

 

窓から外を見れば宿泊しているホテルの周辺に多くの報道陣が群れを成しており、最早暴動と言っても過言ではない事態に陥っている。その為か警察が武装して出動して鎮圧を計ろうとさえしている。既に周辺道路にも大きな影響を与えているし怪我人も出ているらしい……こんな事になった原因はランページだ!!と叫ぶ者も居る訳だが―――

 

「だからって俺が悪い訳でもないっしょ。他人に迷惑かけないようにするのが人として当然の事でしょ、それさえ出来ない奴に取り合ったら逆にこっちに迷惑が掛かる訳じゃないですか。そうなったらあれよ、国が動いちゃう訳。その辺りを全然理解してない彼方さんが悪い」

「ハッキリ言いやがるな、その物言い嫌いじゃねぇな」

 

取り敢えずアイルランドはファイン関連で確実に動くだろうし日本も当然、ドバイも首長に気に入られてるし最悪の場合は石油問題云々に発展しかねない……スーちゃんから通してその事を伝えて引き下がった所もあるのだが……しぶといのも居る。

 

「本当にアメリカの恥どもだ、テメェの行動が一番キモいってのを全然分かっちゃいねぇ。だからこの国は嫌いなんだ」

「そう言う事は言うもんじゃねえぜ、まあ気持ちは分かるけどさ……というかマジなんですかサンデーサイレンス御大」

「御大なんざつけんじゃねえ、サンデーかサイでいい」

「んじゃサンデーさんで」

 

同じホテルの部屋に居たのはサンデーサイレンス、セクレタリアトとの話が終わってから彼女はランページと行動を共にするようになっていた。理由としては来年を目途にアメリカと決別して日本に移住するからとの事。折角だからランページの帰国に合わせて日本に行こうと思ったらしい。

 

「というか、何で日本に」

「知らねぇ訳じゃねえだろ俺の事」

「まあそりゃ……ねぇ?」

 

史実もそうだったが、サンデーサイレンスの人生というのは極めて数奇で苦難の連続だった。見栄えが良くなかったのもあったが後脚は内側に大きく湾曲しているX脚であった為に馬主のアドバイザーからあんな醜い馬は見た事がない、見るのも不愉快だと言われてしまった。ウマ娘の彼女もそれに等しく、母親どころか家族に拒絶され、その後には交通事故に巻き込まれ生死の境を彷徨った。そしてしばらく歩くことすらできなくなるほどの大怪我を負ってしまい、元々悪かった気性に拍車が掛かりこの世を憎むように生きてきた。

 

「俺はこの国が気に入らねぇ。それを全部レースにぶつけて来た、だが手のひらを返したみてぇにすり寄って来るゴミで溢れた。文字通り反吐が出たな、家族が俺になんて言ったと思う、あれはお前を思っての愛の鞭だっただとさ。ハッだったら返してやらねぇと筋が通られねぇよな!!だから俺も愛の鞭を叩きつけてやったのさ、そしたらあいつら情けない声を上げて逃げて行った、あんとき程スカッとした事は無かったなぁ!!」

 

歯を見せながら笑うサンデーの顔は歪んでいた。だが心の奥底からの悦びの感情を爆発させていた、間違いなく本心の言葉。彼女にとって既に血の繋がった家族というのは忌まわしい物でしかなかった。イージーゴアとあらゆる面で対極の持つ者と持たざる者の対決を制した果てに彼女が手に入れたのはマイナスでしかなかった。

 

「俺の人生で信頼と感謝を述べるとすりゃ……トレーナーと御大ぐれぇだ。まともに歩けなかったウマ娘を見て君は頂点に立てる、そこに立って見返してやろうなんて言うバカは他に居ねぇしそれを信じて支援してくれる奴もそうはいねぇよ……」

 

彼女の人生において唯一信じて頼った存在がトレーナー、そして感謝したのがセクレタリアト。この二人以外に居ないし別に要らないとさえ思っている。

 

「恩返しは既にした、だから今度は俺の為だけに生きる事に決めた。だから日本に行く」

「そこで何で日本何だ?」

「どこぞの理事長から誘われたんだよ、懇願ッ貴方の力を日本に、いや私に貸して欲しい!!とさ」

 

脳裏に扇子を広げた秋川理事長がハテナにネコパンチをされた絵が浮かんだ。まあ確かに彼女ほどの実力者もそうはいないし色んな意味で欲しいのは分かるが……どう活かすつもりなんだろうか……トレーナーをやらせるにしても性格が荒れすぎて絶対に向いていないと思うのだが……そう思っていると徐に口にペパーミントキャンディ*1を放り込んだ。

 

「好い加減にアメリカから消えようと思ってたとこだ、飯が美味くてゲームも面白れぇ国なら断る理由はねぇだろ」

「ふぅん……止められたりしなかったの、あの大統領とか」

「うんにゃ、あの大統領は俺の意思を尊重してくれてる。話が分かる人間であいつは好きだぜ」

 

あのサンデーサイレンスに此処まで言わせる辺り、あの大統領の化物っぷりが良く分かる一方で確かに一国の主とは思えぬという意見があるのも納得が行く……まあそれだけで大統領に相応しくないという意見には賛同できないが。

 

「んじゃ日本での拠点とか決まってんの?」

「いいや、適当な所の家でも買うつもりだ。こっちより狭いだろうが金ならあるからな、問題はねぇだろ」

「んじゃ決まるまでメジロ家で住みます?お婆様には俺から話通しとくけど」

「そりゃ楽でいいな、んじゃ頼むわ」

 

軽い勢いで決まったサンデーのメジロ家の居候、取り敢えずお婆様に連絡を取ってみると普通にOKが下りた。寧ろスーちゃんからシンボリ家に来てもいいさえ言われてしまった。そんなこんなでランページはいよいよアメリカを発つ時がやって来た。相変わらずホテル周りは混雑しているのでホテルの屋上にヘリを呼んでの移動となった。

 

「ハッハッハッ!!!こりゃいい、俺も一度乗った事あるぜこれ。大統領のプライベートヘリだな!!」

「良い眺めね~ランちゃんもこういうの買う?」

「維持費が高ぇよ。せめて車をもう一台買う位だよ」

「日本車か、俺も一台買うか」

 

そんなこんなでランページの海外遠征は終わりをつげ、日本へと帰国する運びとなった。日本は今クラシック最後の一戦である菊花賞を控えている、そんな所にランページがサンデーサイレンスを伴った帰国する事になったのでまた大騒ぎになった。

*1
サンデーサイレンスは現役時代からペパーミントキャンディが大好物だったらしく、現役時代からこれを食べると気性が落ち着いていたらしい。カイバの代わりに食べさせたら大層喜んだと言うエピソードがある。似たような話でピルサドスキーの遠征時にも同じようなエピソードがある。




ランページの初期案を決める時に、サンデーサイレンスを少しモデルに使ったりもしました。
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