「たっだいま~!!」
大きく扉を開けながら、くるくるッと回転しながら部室へと入った。その瞬間に部屋の中の全員から一気に視線を向けられる。一人は興奮を、一人は感動を、一人は感激を、様々な感情を一気に発露させた。ずっといなかった存在は極めて重かった、寂しさを感じて幻を見た事すらあった。だがそんな日々とももうおさらばだ、そうだと言わんばかりに真っ先にウマ娘がスタートダッシュを決めて抱き着いた。
「ラン~寂しかった、会いたかったぞぉ~!!」
「お姉様ぁ~……!!」
「ぜんばい~!!!」
ターボ、ライス、ドラランの三人。特にランページの事を慕っていて師弟、姉、憧れと言った他の皆とはまた重い感情を向ける三人は特にランページが不在の間は特に寂しがっていた。思わず涙ぐんでしまっている三人を抱きしめてやると更に強く抱き着いてくる。出張明けのお父さん気分を味わっているとイクノが穏やかな顔で、ネイチャが少しだけ笑って、タンホイザがニコやかに笑って。
「お帰りなさいランページさん、お茶でも淹れましょうか」
「ついでにどら焼きでもお茶請けにしようか、商店街のおばちゃんに貰っちゃってね~」
「他にも色々あるよ!!」
彼女らは普段と変わらぬように努めているが、その瞳は涙によって水気が増していた。ライバルにしてチームメイトだった関係だが、矢張り寂しさはあったのだ。そして後輩たちも同じだった。
「うああああああっ先輩~!!!わたし、わだし、わだじ、もう感動して前が見えなかったよぉおおおおおお!!」
「全く以て凄い人だよ先輩は!!最高のタイマンだったよ!!」
「本当にお疲れ様でした、あの、お邪魔でなければ是非凱旋門のお話を……」
「ラ、ランページさん……お、おおおっお帰りなさい!!!」
泣き癖の後輩は変わらない、タイマン好きの後輩は自分の成果に胸を躍らせる、サクラの後輩は嬉し気にしつつも遠慮気に話を聞きたがり、未来の女帝は恥ずかしがりながらも精一杯の笑顔で祝福を向けてくれた。それらに向けた自分の答えは決まっていたが、まだだ……そして顔を上げればそこには自分の相棒たる最高のトレーナーが唯一、変わらぬ様子と笑みを浮かべたまま立っていた。
「お帰りなさいランページさん」
「応南ちゃん、約束通りにお土産取ってきたぜ。ちょっとばかし豪華になってるけどな」
「BCクラシックに挑むなんて一言も聞いてませんでしたよ、そしてワールドレコードが少し豪華ですか……まあ貴方らしいですけどね」
やっぱり、彼は自分の全てを理解してくれている。品があって自分に理解あって柔軟性があるスーちゃんのトレーナー代理が悪かったという訳ではない、だが矢張り自分には彼が一番だ。理解度と信頼という点においてスーちゃんは勝つ事は出来ないのだから。
「ああそうだ、ついでにちょっと客連れて来たんだけどいいかな?」
「お客様ですか、ええ勿論何方でしょうか」
「お~い入って良いぜ~」
「応―――久しぶりじゃねえか南ぃ……テメェこんな面白そうな奴のトレーナーやってんなら早く言えってんだ」
「これはこれは……お久しぶりですサンデーサイレンスさん。ようこそカノープスへ」
「えっ何知り合いなん?」
「ねえねえっ後でターボと併走しよ!!ターボの走り見てよ!!」
「んっ~ンだチビッ子、俺とやろうってか?」
「チビッ子じゃないもん!!ターボにはツインターボってカッコよくてぶっ飛ぶ名前があるもん!!」
「ハッいい根性してんじゃねえかチビ助、呼び方変えて欲しければ俺に勝ってみろ」
「言ったな~!!?」
「ちょっちょっとターボ……あの、これ緑茶なんですけどどうぞ。あとお茶請けのどら焼きも」
「応、グリーンティーか……アメリカの菓子みてぇに濃い色の癖にこれは全然あれな感じしねぇのは何で何だろうな」
サンデーサイレンスをカノープスの部室へと受け入れて、兎も角軽いお茶会を開く事になった。アメリカで大活躍したウマ娘にも拘らずにガンガンと絡んでくるターボが気に入ったのか、自分の膝に乗せてやりながらも併走の約束をしたりしている。それを見つつも取って来たトロフィーを飾る。燦然と輝く海外G1トロフィーに狼狽えたり、憧れ、様々な感情が向けられる。
「こ、これがランページさんが取った海外G1のトロフィー……!!」
「滾るねぇ……アタイも海外挑戦をしてみたいねぇ!!」
「凱旋門……!」
日本ウマ娘がどれだけ憧れても手に取るどころか近くで見る事すらも叶う事がなかった勝者の証がそこにある。見ているだけでも鳥肌が立って来てしまっている。今すぐにでも走り出したくてしょうがなくなって来た。
「にしても南ちゃんよ、サンデーさんと知り合いだったのかよ」
「知り合いだったというかなんというか……サンデーサイレンスさんを担当しておりましたトレーナーと交流があったんです。その繋がりで顔見知りだったんです」
アンブライドルドの面倒を見ていた時からあったコネクションの中の一つにサンデーサイレンスのトレーナーがあったらしい、彼女も南坂の事は嫌いではないらしい。曰く、風聞などを一切考慮せずに自分のデータと実際に顔を合わせた事で判断したからとの事。
「日本に移住とは……相変わらず破天荒ですね」
「トレーナーも御大も了承済みだ。自立すんだ悪い事じゃねえだろ」
「物は言いようですねぇ……」
だがまあ、確かにサンデーサイレンスはアメリカではもう満足に生きられないだろう。アメリカを完全に見限っている彼女にはもう意味がない、だからこそ新天地で生きるのだ。今度こそ彼女らしく、彼女だけの人生を。その第一歩を言わんばかりにターボを膝から降ろすと思いっきり息を吸ってから、叫んだ。
「まあ一先ずは―――おい小娘共!!テメェらは何時までこいつのケツを追いかけてるつもりだ、それで満足するなんざぁ100年早い!!テメェらは確かにチームだ、だがな同時に最高の環境に居るライバルでもあるんだ、それを理解しろ!!倒すべき相手のデータ、フォーム、練習内容、傾向、全てを掴める場に居んだ!!それを活かせ、テメェら纏めてコースに集合だ!!俺が喝を入れ直してやる!!来たくない腰抜けは来なくていい、根性ある奴だけ来い」
爆音に近い殺気丸出しの叫びに全員は一瞬竦んだ、特にランページの膝の上に居て抱きしめられていたライスは特に顕著だった。だが誰よりも早く鋭い目つきになると彼女を睨み返した。それを見て面白そうに口角を上げると脚で扉を開けた。
「ターボ行く~!!こら待てサンデー!!」
「私も行きます、あそこまで言われて引っ込んでなんていられません」
「ネイチャさんも流石に……黙っているなんていられないね」
「わ、私も!!」
次々と名乗りを上げる、言葉遣いこそ荒いが極めて理に適っている。最高の環境に自分達はいる、それを活かすのは良い。だがライバルであり以上倒すべきである事に変わりはない。
「うううぅぅぅっ私も行く!!不肖ドラグーンランス、サンデーサイレンスの胸を借りに行きます!!」
「アタイも行くよ!あんだけ言われて動かないなんてウマ娘が廃る!!」
「だね、私も行く!!」
「私も行きます、何時か、あの舞台に行く為にも今日を頑張らなきゃ!!」
「わ、私も!!」
部室から出ていく姿を見送りながらもランページは皆に火が付いた事を喜ばしく思う、故に膝の上で抱きしめているライスの事も開放してやらなければ……と腕を緩めるとライスは振り返りながら一度強く抱き着いた。
「お姉様菊花賞、見てて。ライス―――勝つから」
そう言ってからライスは部室を出て行った。あのライスがまさかあそこまで強気な発言をするとは思わず、呆気にとられたが直ぐに成長したんだなぁ……と思って胸が熱くなった。菊花賞……どんな走りになるか、楽しみでしかない。
「ランページさんが居ない間、一番寂しがっていたのはライスさんでした。でもその寂しさに震えているままだと心配だけを掛ける、また慰めてくれる、それに甘えたくないと必死に頑張っていたんですよライスさんは」
「成長しちゃってまあ……お姉ちゃん、嬉しいじゃん……」
相手は無敗の二冠、坂路の申し子、トレセンの龍が育てしサイボーグ、ミホノブルボン。菊花賞、どんなレースになるのだろうか……。
「にしてサンデーさん、マジで何やるんだろうな」
「何だかんだで理論的な教え方も出来るからアグレッサーを御願いするのもありだと理事長はいってましたよ」
「軍隊の訓練じゃねえんだぞ……つうか芝走れるのか?」
「普通に走れますよ、アメリカだとダートの方が注目度が高いからそうしただけだそうです」
「(まあ、産駒を考えても芝適性が無いとは思えないか……)」