『つい先日、世界の暴君となったメジロランページの帰国。そしてアメリカにて運命を走り越えたウマ娘と言われるサンデーサイレンスの来日の興奮が冷めやらぬトゥインクルシリーズ、今日ここに新たな歴史が生まれ刻まれる事になるでしょう。3年連続で三冠ウマ娘が達成するのか、それとも、それを阻むウマ娘が自らの歴史を作り出すのか。クラシック戦線最終戦菊花賞!!』
ランページの帰国から数日しか経っていないが訪れた菊花賞。そもそもがBCクラシックが菊花賞の1週間前だったのだから当たり前と言えば当たり前だしそんなスケジュールな癖に十分に休養期間を置かずに日本に帰ってこられるランページの身体の強固さが頭おかしいのである。そんな暴君の帰国だったりサンデーサイレンスの来日と移住宣言で日本が揺れる中で行われる菊花賞。
「オ~レオレ~!!如何だチビ助共~」
『凄い凄い~!!』
「ほら、如何だ!!」
『高い~!!』
そんな中サンデーは全くの無変装。黒いジーンズに白いTシャツに革ジャンという酷くラフな格好で京都レース場に姿を現していた。当たり前の事だが正体は即バレ……まあ隠していないのでバレたという表現も可笑しな気がするが……早速サンデーの周囲には人だかりが出来たわけなのだが―――
「お前らは俺に会いに来たのか、それとも菊花賞を見に来たのかどっちだ」
『勿論ライスが菊花賞を勝つ所を見に来ました!!』
それに即答したのはライスのファンクラブ、青い薔薇の会の面々だった。彼らの言葉に機嫌よくしたサンデーは口角を持ち上げながら言った。
「オラッだったらもっと腹から声出して声援出しやがれ!!テメェらの一言一言があいつの力に何だ、テメェらも自分の推しが居んならそっちを優先しやがれ!!そいつらの一生に一度の晴れ舞台、盛り上げろぉ!」
『お~っ!!!!』
あっという間にその場を掌握してしまったサンデー、元からカリスマ性が高い為か直ぐにその場の空気を自分のものにしてしまった。これから自分に会う機会はあるだろうがクラシックは一生に一度だ、その事を思い出したファン達は懸命に応援の体勢を作った。それにサンデーは満足気に頷きながらも近くに居た子供の相手をしてやっていた。子供好きでもあるらしく、肩に乗せてやったりしている。
「賑やかねぇ……」
「ハッ、チビ助共が元気なのはいい事じゃねえか、おれっとっつぁんかぁちゃんの所に帰れ帰れ~」
『ハ~イ』
やって来た確りと変装したランページに返答しながらも子供を親の元へと返す、バイバ~イと手を振る子供にサムズアップしたりする姿は非常に男前だ。ヒーローショーのヒーロー役か何か、と言いたい気分になる。
「ンで如何なんだよライスシャワーは」
「俺が言うよりも自分の目で判断したら?」
「道理だな」
そんなやりとりをしているとあっという間にゲート入りの時間が迫って来る、地下バ道から出て来たウマ娘が次々とターフを駆けていく。全員調子がよさそうだ。
『無敗の二冠、ミホノブルボンの次に登場しますは―――マチカネタンホイザ!!三番人気です。ライスシャワーと同じく、ミホノブルボン打倒の二枚看板というべきカノープスのウマ娘です。本来の適性は長距離向きとの事ですので、この菊花賞は正しく本領発揮に相応しい場とされており念願のG1初勝利も期待出来ます!』
「タンホイザ~!!」
「頑張れ~!!」
「タンちゃ~ん!!」
「皆応援ありがと~!!えい、えい、む~ん!!」
『えい、えい、む~ん!!』
ファンクラブ繋がりで言えばタンホイザにも確りとしたファンクラブがある、名前はエイエイムーン。よく口にする頑張る時の言葉をそのまま採用しているらしく、ファンクラブの証はそれに掛けてタンホイザが被っている帽子を被った月になっている。中々にお洒落だ。
『そして最後に登場するには同じくチームカノープス、マチカネタンホイザと同じくミホノブルボンを倒す可能性が最も高く、同じくこの菊舞台で最高の力を発揮出来るとされる祝福の星、ライスシャワー!!二番人気です!!』
遂にやって来る打倒ミホノブルボンの大将格、ライスシャワー。誰もがミホノブルボンの三冠を願う一方で同時にライスシャワーとマチカネタンホイザとの好勝負、いやもしかしたら勝つかもしれない展開を望んでいる。この三人は明確なライバル関係であり、絶対的な格差がある訳でもなくブルボンが少し上回っていたり、時の運で二人が勝っていたかもしれないかなり絶妙な関係性。故にこのぶつかり合いは楽しみでしょうがなかった。そして―――遂にライスが登場する……のだが
「フゥゥッ……フゥゥッ……」
地下バ道からライスが出て来た時、賑わっていた筈の大観衆が思わず言葉を失ってしまった。ゆっくりと、一歩一歩を踏みしめるかのようにやって来たライスはこれまでとはまるで人が違っていたから。ライスはレースになると普段とは人が変わったようにスイッチが入る事は有名だが―――今日のそれは一際際立っていた。黒い花嫁のようなドレスの奥の瞳は赤く輝きながらも青い炎を纏っていた。その顔付も鋭く、おどおどして大人しい彼女の普段を知っていれば知っている程に……その姿は余りにも異質に映る。
「あ、れが……ライス……ちゃん?」
「全然違う……普段のヒットマンスタイルからまた進化してる……!?」
「と、兎に角声出して応援だ!!それだけ仕上がってる事じゃないか!?」
「そうだそうだブルボンと戦う為に仕上げて来たって事だ!!」
『頑張れライスシャワー!!』
ヒットマンスタイルとはライスのスイッチを入れた後がまるで刺客のような雰囲気だったからと、付けられた愛称。ボクシングっぽい気もするが気のせいだろう。ファンクラブも驚いてしまう程の凄い集中力を見せているライス、それは此方も同じ。ライスが精神面を重視していたのは分かっていたが……此処までのし上がりを見せるとは予想外だった。
「仕上がってんなぁ……」
「―――良い面してやがんなぁ……なよなよオドオドしてやがると思ってたが、こりゃ訂正しなきゃならねぇな……こりゃいいレースするぜ。あんだけの気迫を持った奴と走りたかったもんだぜ。だがタンホイザの奴も良い仕上がりな筈だからな、なんせこの俺様が散々追い回してやったからな」
「もう可哀そうなレベルでな」
サンデーお墨付き、現役時代に会いたかったとすら言わしめる程に完成したライス。これは間違いなく期待出来る、だがそれはタンホイザも同じ。サンデーに追いかけられながらの走り込みの効果は出ている筈だ。と期待を寄せている中で近くに居た黒沼トレーナーは、思わず言葉を失っていたが直ぐに笑ってみせた。
「ブルボン喜べ……お前はもう、三冠以上の宝を手にした。お前は、幸せなウマ娘だ」
「はい、マスター……私はとても幸せです」
そんな黒沼の意志を理解していると言わんばかりにブルボンはライスを見て呟いた。タンホイザの仕上がりにこれは楽しみだと思った直後にこれだ。早く走りたくてしょうがなくなってきた。
「フゥゥッ……」
「……」
自分の目の前を通り過ぎても彼女は自分の事を完全に無視していた。倒すべき敵だと捉えているはずなのにまるで意識にも上らせていないかのような集中の仕方にブルボンは身震いした。勝ちたい、そんな彼女に勝ちたいと。菊花賞、間もなく出走。