貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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268話

『さあ各ウマ娘がゲートに入りました。3000mの道の世界へ漕ぎ出す優駿達、最も強いウマ娘が勝つとされる菊花賞。勝つのは無敗の二冠、ミホノブルボンか。それともライスシャワー、マチカネタンホイザがそれを阻むのか。それとも他のウマ娘達が予想を裏切るのか―――スタートしました!!選び抜かれた18人の優秀達がスタートしました。ミホノブルボンが出ていきますが、それを上回る程の大逃げを打つウマ娘がいるぞ!!』

 

遂に始まった菊花賞。開始の合図はブルボンの逃げだと思っていたが、それをも上回る程の大逃げを打つウマ娘が居た。

 

「あんたに勝つにはやっぱりこれしかないのよねぇ!!さあどんどん飛ばしてくよ~鏑矢の如くぅ~!!」

 

『ご存知大逃げウマ娘、キョウエイボーガンです!!前日のインタビューでミホノブルボンに先頭は譲らない、その宣言通りの大逃げを打ちました!二番手にはミホノブルボン、その後方にマチカネタンホイザ、そしてライスシャワーがこれは良い位置についている!!』

 

キョウエイボーガン。彼女の走り逃げのスタイル、つまりブルボンと同じ。故に彼女は分かっている、一度でもブルボンに先頭を譲ってしまったら絶対に勝てないと。だから大逃げを打った、彼女には尊敬するウマ娘が三人いる、一人は伝説のダービー大逃げを達成したカブラヤオー。もう一人はドッカンターボのツインターボ、そして世界最速と最強のウマ娘のメジロランページ。逃げウマ娘としてこの三人を目指さない訳には行かないと彼女はずっと三人の研究を続けていた。その力を今こそ見せる時だと、大逃げをした。

 

「矢張り、そしてあのスピードと加速……成程、メジロランページさんの大逃げを研究した結果だと判断しました」

 

だが研究しているのはボーガンだけではない。逃げウマ娘にとってランページの走りというのは一つの究極系、常に先頭を走り続ける、逃げにも拘らずに差しウマ娘のような末脚を発揮するスパートの伸び。当然ブルボンもその研究は行っていた、特に自分のトレーナーの黒沼の元にはランページのトレーニングメニューの監修をしていた時に得た情報まであるのだから余計に役になった。それも使って―――自分はシンザン鉄で坂路を走って来たのだ。

 

『最初のスタンド前に入って来たのはキョウエイボーガン、ミホノブルボンとは2バ身差。そのミホノブルボンの左後ろにピッタリと付いているのがライスシャワー、そこから1バ身の所にマチカネタンホイザ。そこから7バ身程離れた所にデュオプリュウェン、タイショウコウジンが続きます』

 

先頭を行くボーガンを追いかける展開となっている事だけが予想外ではあるが、概ね予想通りに展開と言える。一つ思い違いと言えば……

 

「行けええボーガン!!!」

「そのままそのまま逃げ切れ~!!」

『GOGOボーガン、GOGOボーガン!!』

 

史実はこの菊花賞に出たことで運命が狂ってしまったキョウエイボーガン、ウマ娘である彼女はかなりの人気があるという事である。というよりも逃げウマ娘というのがここ数年で人気になっている。まあ間違いなく自分とターボのせいなのだろうが……ボーガンもこの菊花賞では5番人気。十分に勝利が期待出来るとされるウマ娘の一人という扱いを受けている、それを感じて思わず笑ってしまった。

 

「ンだよ笑いやがって」

「いえ……如何です日本の声援は」

「悪くねえな、どのウマ娘にも確りとファンが居て全員に勝負が熱望されてる」

 

サンデーからすれば初めての日本のG1レースの見物になるが、かなりの好印象。海外のレースには特定のウマ娘を勝たせる為だけの役職を背負ったウマ娘もいたし逃げが大人気というのも新鮮で面白い。そして何より日本の応援はかなり熱が籠っている、まるで自分がレースで走っているかのような熱量で実に面白い。

 

「サンデーさんから見て如何思う、こっから」

「ボーガンだったか、中々良い脚を持ってるな。根性次第で上位に食い込めるだろうが……相手が悪りぃな」

 

既にスタンド前を過ぎて向こう正面へと入ろうかという所だが、ボーガンの走りは揺れが見え始めて来た。流石に3000m初挑戦にも拘らず大逃げというのはリスキーすぎる、自分だって3000mを大逃げしきる自信なんてない。自分ではなくパーマーを参考するべきだっただろうと思う、そんな中で向こう正面に入りボーガンが少しずつペースが乱れ始めた。所々でそれを正して走る、サンデーの読み通りに根性は良い方だろうが……その後方から迫ってくるウマ娘とはレベルが違い過ぎたのが唯一の不幸だった。

 

『第三コーナーを過ぎた、先頭は未だキョウエイボーガンっと此処でミホノブルボンが先頭を取った!!キョウエイボーガン、流石に苦しいか!?ライスシャワーとマチカネタンホイザも上がって来る!!さあ他のウマ娘達も迫って来る、がキョウエイボーガン此処で意地を見せるぞ!!他のウマ娘を抜かせまいと再加速!!なんという根性!!』

 

第四コーナー直前の攻防、先頭を走り続けて来たボーガンが遂に脱落。ランページのようなペースで菊花賞は流石に無理があったという事だろう、だがそれにも最早根性のみで突き進み続けている。そんな彼女の先を走るブルボン、そしてライスとタンホイザ。特にライスは常にブルボンの後方に付き続けていた。

 

「流石はライス……ですが、負けません!!」

「―――ッッ!!」

 

後方に感じる異様な存在感の殺気、この殺気が常に自分に差し向けられ続けていた。重苦しく、空気を幾ら吸い込んでも苦しさが取れない。ブルボンだけに向けられたライスのそれはブルボンにとって大きなデバフとなっていた。それを強靭な精神で抑え込みながらもそれに惑わされまいと走り続けるブルボンも流石としか言いようがない。だけどあと少し、あと少しでゴールが見えた時、後方から一気に風が吹いた。

 

「いやああああああっっ!!!」

 

『こ、此処でマチカネタンホイザ!!第四コーナー終盤でマチカネタンホイザが先頭に躍り出たぁ!!凄まじい脚だ、凄い加速でミホノブルボンとライスシャワーを抜いたぁ!!念願のG1初勝利をクラシック三冠の最後の一冠で飾れるのかぁ!!?』

 

サンデーサイレンスというレジェンドから指導という名の追い回しを受けていたタンホイザが此処でトップに立った。元から総合力で言えばカノープスでも上位に入るタンホイザがレジェンドから逃げ続けるという事を達成した事で得た脚力は相当な物でブルボンやライスさえも抜いた。それは声にも―――

 

「後ろからサンデーさんが来ているつもりで―――いやあああああああああ!!!」

 

「おいなんか違う意味ですげぇ事になってんだけど何やってんだよアンタ」

「何もしてねぇよ、見所あったからちと気合入れて追いかけまわしただけだ」

「それでああはならんやろ」

 

気合を入れたのは確か、確かなのだが……

 

『待てやゴラァ!!』

『いやあああっ怖いいいいいいいっっ!!!??』

 

マジ顔になったサンデーサイレンスに追いかけまわされるという一種の恐怖体験をしてしまったタンホイザはその時の事を思い出す事で一種のリミッター解除を行っていた。その効果がこれだから本当に笑えない。そして遂に最後の直線に入る、先頭は必死に背後の幻影から逃げるタンホイザ―――だが此処でブルボンが一気に加速する。

 

『ミホノブルボン此処で伸びる伸びる!!一気にマチカネタンホイザを射程圏内に収めてそのまま抜いたぁ!!なんというウマ娘なんだ、まるでメジロランページを思わせるようなスパートであります!!!』

 

自分にも意地がある、そして勝ちたいという欲がある。自分は勝ちたい、貴方達に勝ちたいんだという思いがある。だから私は負けない!!と言わんばかりにブルボンは疾駆する。そして―――

 

「Operation:Rampage turboを発動します!!!」

 

最後の駄目押しと言わんばかりに、ランページの全身走法とターボのドッカンターボの複合の切り札を切った。更に加速して完全にタンホイザを追い抜いてゴールにまで突き進む。誰もがブルボンの勝利を胸に抱いたがそれが即座に否定されてしまった。

 

『外から、外からライスシャワーライスシャワー!!ミホノブルボンが全く振り切れない、寧ろどんどんライスシャワーが距離を詰めていきます!!』

 

後方に付き続けていたライスが遂に牙を剥いた。ブルボンの背後で気を伺い続けていた仕事人、乱れる事も焦る事もせずに待ち侘びた勝機。それが未だと言わんばかりにライスの瞳がより爛々と赤く光り、轟々と青い炎が燃えた。

 

「ライスは―――ライスは……負けないっ!!!」

 

その時、ランページは思わず目を見開いた。その時にライスが行ったのは唯のスパートではない、目の前を走っているブルボンが行っている複合を完全に自分の物にした上に一段と加速した。青い炎の奥から見える赤い瞳が見たブルボン、自らの走りをライスが奪ったかのようだった。そしてどんどんと加速していき、遂にブルボンを超えた。

 

『ライスシャワー躱した!!ライスシャワーがミホノブルボンを抜いた!!ミホノブルボンも伸びるが、タンホイザも迫ってきている!!ライスシャワーが完全に抜け出した!!!ミホノブルボン2番手!!ライスシャワー先頭、今そのままでゴールイン!ライスシャワーがやりました、無敗の二冠ウマ娘ミホノブルボンを破っての堂々の勝利!!菊花賞ウマ娘はライスシャワーです!!2着にはミホノブルボン、3着にはマチカネタンホイザ、4着にキョウエイボーガン、5着にデュオプリュウェン……とこのタイムは!!3:04:8!!レコードです!!ライスシャワー、レコードタイムでの勝利です!!』

 

菊花賞に勝利したのはライスシャワー、遂にライバルのブルボンに勝った。ランページはその事に震えそうになったが同時に不安もあった。がそれはいらぬものだったと直ぐに分かったのだ、何故ならば―――大歓声が沸き上がったのだ。

 

「やったぁぁぁぁぁ!!!」

「ライス~!!!」

「おめでとう~!!!」

「感動じだぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ブルボンよく頑張ったぞ~!!」

「凄い走りだった~!!」

「最高のレースだったぞ~!!」

 

「タンホイザもよく頑張った~!!!」

「今度こそG1勝利頼むぞ~!!」

「可愛かったよ~!!」

 

心配していた沈黙などはなく、寧ろ喜びの声で溢れていた。確かに残念さを噛み締める声があるのは確かだが……それを直ぐに声援に変えてエールとして応援する者しかいなかった。この菊花賞において、悪く言われるウマ娘は一人も存在しなかった。

 

「ライスが、ライスが……ブルボンさんに勝った……?」

「見事でしたライス、完敗でした……」

 

未だ状況が飲み込み切れていないライスは自身が勝利した事に困惑している様子だったが、ブルボンから握手を求められると少しずつ理解し始めたのか耳を動かしながらも恐る恐るその手を取りながら漸く笑顔になった。そこへタンホイザもやって来てライスの勝利を祝った。

 

「本当に凄かったよライスちゃん!!私も全力だったのに追い付けなかったもん!!」

「で、でもタンホイザさんは一回ライスを抜いてたよ?」

「ええ。あの走りは本当に凄まじかったです」

「いやぁサンデーさんのお陰だよぉ~」

 

激闘の後とは思えぬ程に笑顔と楽し気な雰囲気に包まれているそれを見ていた黒沼には悔しさは無かった。自分の担当ウマ娘は自分に出来る最大限を発揮した、そしてその末に偉業では得られぬ最高の物を手にした。心の奥底から勝ちたいと思えるライバル、今度こそそのライバルに勝ってみせるという気持ち。それを得たブルボンが笑っている、それだけで黒沼は満足なのである。

 

「良かったなブルボン……さて、次はジャパンカップだったか……忙しくなるな」

 

口角を持ち上げながらも黒沼はそう呟いた。彼の中では次のレースで走るブルボンの姿が既に映っていた。

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