白熱した菊花賞、その勝者となったのは無敗の二冠ウマ娘であるミホノブルボンを破って勝利をもぎ取った漆黒のステイヤーのライスシャワーだった。彼女にはその名が如くの溢れんばかりの祝福が向けられた。
「確かに三冠は叶いませんでした、ですが私はそれ以上の価値あるものを手に入れる事が出来ました。死力を尽くして勝ちたいと思えるライバル二人……これ程の宝はありません、故に私はライスさんとタンホイザさんに勝つ為に更なる鍛錬をマスターの元で積みます。そして次こそ勝ちます」
ブルボンのこのコメントもそれを後押しする形となった。三冠よりもずっと価値がある、確かにそうだと思う者が大多数。そしてあのブルボンにそこまで言わせるなんてやっぱりライスとタンホイザは凄いウマ娘なんだという流れを助長した。
『漆黒のステイヤーライスシャワー、菊花賞を制す!!』
『二冠ウマ娘ミホノブルボンの最大のライバル、ライスシャワーとマチカネタンホイザ』
とこのような見出しの雑誌が出てるのも当然だった。勿論一番大きく書けているのはランページ贔屓の出版社。ランページの信用というネームバリューもあるしライスもタンホイザも安心して取材を受ける事が出来た。が、その中で不快感を感じる記事を載せる雑誌があったのも確か、ブルボンの三冠を阻止した事をあからさまに強調して恰もライスをヒールに仕立てているかのような書き方をしていた。
矢張りブルボンの無敗の三冠に期待してファンも多い為に、敗北を悲しむファンが多いのは確かだ。その出版社もきっとその内の一つなのだろうが……あの菊花賞を如何見ればヒールに見えるのだとランページはその雑誌を見た瞬間にキレた。
具体的にどんな風にキレたかと言えば……
「南ちゃん、ちょっと電話してくる。お婆様に顧問弁護士使っていいのか聞かねぇと」
「ストップです」
ガチで裁判を起こそうとする程度にはキレていた。南坂の説得でそれはやめておくことにしたがその代わりに―――
「ライスの事をヒールって言う奴もいるんだよなぁそれだけブルボンに向けていた期待の裏返しってのも理解出来るけどよ、そのブルボン自身が最大のライバルとして認めた上で三冠よりもずっと価値があるって言ってんだからそこでも解決してるのになんでヒール扱いしてるのか理解に苦しむわ。というのが俺の意見だ、えっハッキリ言い過ぎ?だったら真正面から俺に待ったをかければいいだろ、何時でも相手になってやる」
このように配信で堂々と自分の意見を発表した。流石にやり過ぎなのでは……と思ったが矢張り思う者も多かったのか、同意見の嵐でその出版社には抗議の電話やアンチコメントで溢れ返ったとの事。改めて自分の影響力ってエグいなぁ~と思ったの瞬間だった。
「お、お姉様ライスの走り如何だった……?」
「凄かったぞ、というか俺の走りもしてたよな?」
菊花賞後、改めてライスと話をした際に菊花賞での自分の走りについて尋ねられた。高められた精神性が肉体と技術のレベルを底上げしていたのは間違いないがそれ以上にラストスパートでの走りが一番気になった。
「うん。ずっと近くで見てたから、こっそり練習してたの」
ランページが海外に行くまでの間にも数えきれないほどの併走をして貰っていたライス。その目にはランページの走りが焼き付いていた、そして記録映像なども南坂が全て保管しているので練習するには良い環境が揃っている。なのでライスは最後の切り札としてそれを隠し持っていた。
「でもあの時はブルボンさんがターボさんのドッカンターボもやってたから、やってみたの」
「それで、出来たと?」
「うん。練習はしてなかったけどよく見てたから」
それを聞いて改めてライスもテイオーと同じく天才の部類何だなぁっと実感する。それらを総合してライスは進化しているという結論に至った、ライスの領域が相手の領域を吸収して自分にも適応可能にしたと言った所だろうか。相手に関わる辺り自分の影響されているなぁ……と思ったりする。
「次は折角だから有馬記念でも目指してみるか?」
ステイヤー気質であるライスにとって有馬記念は力を発揮出来るレース、故に出走して上を目指すのもあり。ネイチャやイクノ、ターボも出るだろうが……本質的に長距離こそが本領であるライスならばシニアクラスの彼女が相手でも十二分に戦う事は出来るだろう。ライスは少し考えるような仕草をする。
「お姉様は出るの?」
「ちょっと考え中」
これでも一応2500のワールドレコードホルダーではあるが、本質的に自分は2400までが本来の主戦場。2500は限界を超えるか超えないかの瀬戸際。だが同時に有馬記念に出たいという気持ちも相当に大きい。あの時のレースは本当に心が昂った。あの時と同じメンバーというのも難しいだろうが出れる物ならば出たいという気持ちがあるのも事実。
「お姉様が、出るなら……ライスも出たい、な」
「そう言ってくれると嬉しいけど自分の意志で決めな、ライスのレースなんだから」
「……うん」
少しだけ複雑そうな顔になったので頭を撫でてやると直ぐにフニャフニャになって耳と尻尾を嬉しそうに動かし始めた。妹の可愛さに癒されながらも同時にある事を考えていると部室へとターボが入って来た。
「ラ~ン!!おっとライスもいたのか、菊花賞凄かったぞ!!」
「あ、有難うターボさん」
先輩として鼻が高いぞ!!と言いながらもランのように頭を撫でるターボ、少々荒っぽい撫で方だったがライスは笑顔のままだった。
「ンで如何したんだよ、俺を探してたのか?」
「あっそうだった!!ターボね、今度のジャパンカップに出るんだけどそこにランと同じレースに出てた名前があったの!!」
菊花賞が終われば次にやって来る秋シニア三冠のジャパンカップ、この三冠の制覇を狙うのは春シニア三冠というルドルフも達成した事がない偉業を達成したテイオー。が、残念ながら天皇賞(秋)ではテイオーは敗北を喫している。テイオーの前年の三冠、ライアンがメジロ家のウマ娘としての意地を見せ付けて勝利を収めた。だがこの程度でへこたれてられないとテイオーはジャパンカップの出走を直ぐに表明したとの事。ターボも出走していたが4着。3着にマックイーン、2着がテイオーだった。
「って事はお前エリ女には出ないって事か」
「出たかったけどトレーナーに止められた、イクノはそっちにも出るけど」
「イクノさん凄い……」
流石は鉄の貴婦人、この程度のハードなスケジュールなど問題ないと言わんばかりにエリ女に出走するらしい。まあ自分もそれはやったが。それはさておき自分と同じレースに出た名前があると言ってたのでもしやと思って確認してみると聞いた事のある名前だった。その名もシルバーストーン。
「シルバーストーンってアイルランドチャンピオンステークスに出てた?」
「だな、そうかあいつお前にも挑戦したいって言ってたなそういえば」
「ホント!?よ~しターボのドッカンターボでぶち抜くぞ~!!」
「そう簡単な相手でもないけどな、ほれっ練習して来い」
「お~っ!!」
そう言って部室から飛び出していくターボを見送った後に再びライスの頭を撫でてやる事にした。時間がどんどん進んでいく、自分はどうするべきなのか、少しだけ迷うが最後というべきものは決めているがそれまでの道のりは如何するかはまだ。矢張り南坂と相談しながら行くしかないだろうな……と思っていると扉が蹴り開けられた。
「応そこに居たかラン、テメェも顔出せ。これから日本が誇る三冠の実力って奴を俺自身の脚で確かめてやる所だ」
「アンタねぇ……会長にちゃん先輩、シービーさん辺りと走るのかよ」
「テイオーとライアンも混ざんぞ、お前もやらねぇか?」
「まだ休養期間中だぞこっちは」