『先頭はランページ、だがこれは如何した事か。本当に彼女は如何したのか!?これまでの彼女とは違うぞ!!』
東京レース場で行われた重賞レース、G3 サウジアラビアロイヤルカップ。マイル1600mのレース、そこに望んだランページはこれまでと同じく大逃げの態勢を作っていたのだが―――これまでのそれとは明らかに違っていた。前回がお粗末な出来だった故か、今回の走りは開幕から違っているのが顕著となっていた。
『開幕からランページが大きく逃げる!!どんどん加速して既に6バ身は離れているでしょうか、そのまま内側に付きながらも後続との差を離して行く!これはマイペースなのか、それとも暴走なのか!?2番手のバーニンムーンとは既に10バ身は離れている!!』
「いっけ~ラ~ン!!GOGOラ~ン!!」
生憎今日は他のカノープスメンバーは不在。ネイチャとタンホイザも別件、イクノはレースも近いので自分の調整に集中している。なのでターボがカノープス代表として南坂と共に応援に駆け付けた。大きな声を張り上げながらも元気よく応援するのはターボ、小さな体には不釣り合い程に大きな声で送られる声援にまるで応えるかのようにランページは先頭を進み続ける。やがて、徐々に他のウマ娘達が追い付き始めていくが、それを見てターボはそれは駄目だよ~と思わず言ってしまった。
『おっと此処でランページが再加速、それを必死に猛追するが後方は既に苦しそうだぞ!?』
「へへん、さあ―――行くぞ!!」
最後のコーナーに差し掛かった時、ランページは今までセーブしていた物を開放して全力で駆け出した。その時に地面の芝が抉られるかのような力で地面を強く蹴った。空気の壁を力ずくでぶち破るかのような突進力で後方との差を更に開けていく。
『ランページ更に加速した!!これはもう彼女の勝ちでしょう、もうこれは届かないしもう届けない!!大差をつけたまま、ランページが今ゴールイン!!正しくこのレースを支配するウマ娘の、独裁政権の樹立だぁ!!!』
ゴールしたランページはまだまだ余裕と言わんばかりにブレーキを掛けながらも腿上げをしながらも軽くバックすると、そのまま回転しながらのリザードンポーズを取った。
「YES!! I am №1!!」
「やった~!!凄いぞラ~ン!!」
「サンキュ~ターボ!!お前の応援届いて俺の燃料になったぜ~!!」
「文字通りのターボになったでしょう~!!」
そんなやり取りをしながらもランページは彼女の応援に心からの感謝を示し、2位以下のウマ娘達から恐れを込めた視線を向けられるのであった。
「し、信じられない……何であのスピードで息が乱れてないの……!?」
「勝てる気がしない……」
「ア、アハハハ、アハ~ハ~……あり得な~い……」
そう言いながらも一人のウマ娘が地面を見た、その視線に釣られるように皆の視線が行く。そこにあったのはランの爪痕だ、地面に刻印された蹄鉄の跡だ。自分の走った証であると言わんばかりの存在感を放つそれは、自らの独裁を証明する刻印のようだった。
「独裁、政権……」
重賞でありながらの此処までの圧勝、それを行ったランページに対して実況が言った言葉は何処までも本質を突いているように感じられた。それ以外の表現なんて当てはまらないかのように……独裁者、いやそれを越えている。
「さあ、ライブも気合入れて行こうぜ?」
手を差し伸べながらも笑う彼女の手を取らないなんて事は許されない、恐怖ではなく、不思議とその手を取ってしまう。
『暴君……!!』
暴君ランページ、皇帝に続く新たな王が、生まれようとしている。
「ハッハッハッ!!いやぁ南ちゃんの言う通りだったわ」
「それは良かったです、ライブも素晴らしかったです。投げキッスも様になってましたね」
カノープスの部室にて、前日の勝利がデカデカと載っている新聞を読みつつも上機嫌なランページ。漸くシンザン鉄による力を正しく出す事が出来たと確信出来るレースだった。上がったパワーに回転速度が上がった走り、それによって生み出されるスピードは素晴らしいの一言だった。出来る事ならばあれを前にやりたかったと言わざるを得ない。
「おっと、俺に惚れると火傷するぜ?」
「私に惚れてこのカノープスに入られたのでは?」
「こりゃ一本取られたぜ」
そう言いながらもイエーイとハイタッチをする二人、ネイチャは仲良いよな~と思いながらも新聞へと目を移す。
「重賞レースを支配する暴れん坊、ランページ!!ってなんか凄い書かれようだねこれ」
「でも私も街頭で見たけど本当に圧勝だったよ」
「私も後で動画サイトに上げられた物を確認しましたが、独裁という言葉は不思議とマッチしていました」
実際其処までのインパクトがあったのだ。仮にも重賞レースであったサウジアラビアロイヤルカップを大逃げで大差勝ち、その圧倒的な勝利を見せた強さにかの皇帝に重ねる者も居た。もしかしたらあのウマ娘は次なる王となりうるのではないだろうか、故に一部の者は彼女の事を今回の事に準えて暴君と呼んでいるらしい。
「さて、次はデイリー杯―――イクノ、お前とのレースだ」
「ええ……望む所です、ランページさん」
次走は11月に行われるデイリー杯ジュニアステークス。そこでイクノとランページが初の正式なレースでの激突となる、同じカノープスメンバー同士の戦い。本来であれば同じチームであるならばぶつかり合いを避けるようにして出走を行うのだが……南坂はそれを一切行わない。何故ならば其処には何物にも代えがたい絶対的な経験を得られるから。
「御二人とも、同じチームでの戦いという事になりますがこれまで通りにメニューはこなしていただきます。避けるべきと言うトレーナーもいるでしょうが、同じチームであるからこそぶつかり合い、そこで生まれた勝利と敗北、それは素晴らしい経験になります。それをどちらが得るのか……競ってください」
「おっ~……トレーナーカッコいい」
「ターボさん達もよく覚えていてくださいね、貴方達もデビューした時に同じ事を体感します。そしてそれを糧にしてどんどん成長してください、仲間がライバルであるという事は何処までも素晴らしいという事を」
本気で競い合える相手が身近にいる、これ程までに幸福な事なんてないだろう。自分にとって一番の大敵とも言えるイクノ、その為にシンザン鉄で走り込んだと言っても過言ではない。先のレースだってその前哨戦と言ってもいい。
「俺は勝つぜイクノ、ライアンと一緒に三冠取るって約束もあるんでね。G2程度で転んでられるか」
「望む所です。最強カノープスを目指すのであれば貴方との戦いは有意義です、何方がカノープスのエースかを競うのも一興でしょう」
早くも火花を散らせ合う二人にターボはおぉっ……!!と目を輝かせ、タンホイザは息を呑んで見守り、ネイチャは冷や汗を流しながらもそれを見る。普段の二人を見ているだけにバチバチに睨み合う二人のギャップに戸惑いを感じずにはいられない。
「―――今日は一先ず、ぱぁっと打ち上げにでも行くかぁ!!」
「良いですね、私のそれも兼ねても?」
「勿論勿論!!」
先程のムードが一気に消し飛んで和やかな物へと変貌した。思わず転びそうになるネイチャだが、この二人らしいとも言える。
「南ちゃん、今日は俺の奢りでどっか美味いとこに行こうぜ。カノープス名義で予約取ってさ」
「フフッ実は既に確保済みです」
「パーフェクトだトレーナー……!!」
「感謝の極み」
「やった~!!ターボ一杯食べるぞ~!!」
「私もいっぱい食べる~!!」
「ちょっとちょっと二人とも、ランとイクノの祝勝会なんだよ?」
「良いじゃねえネイチャ、カノープスらしくてよ」
「ええ、この方がウチらしいです」
地味にイクノも連勝中。伊達に毎日ランと走り込んでないという事で、鉄の女もヴァージョンアップ中。