貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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275話

甲高い音が一つ、一つまた越える度に激しい音が木霊する。身体中で感じる震動もまた一つの立派な音楽なのだ、芸術とはそう感じ取れるものにしか通用しない。他者が聞いてもこれを芸術と捉える者は限られるしそれを否定する事は出来ない、感受性は人それぞれだ。しかしそれを受け取れるものにとってこれは正しく極上の一時だった事だろう、そんな演奏会を終えると演奏者は観客に声を掛けた。

 

「ご感想は?」

「―――っ最高だったわ!!こういう世界もあったのね、ああっお父さんとお母さんが言っていたのはこういう事だったのね!!」

 

演奏者はメジロランページ、観客はシルバーストーン。そして楽器はランページの愛車であるインプレッサ。ジャパンカップの為に日本に来日したシルバーストーン、そんな彼女の両親はF1チームの関係者。それもあって彼女は幼い頃からF1ドライバーに混ざって体力作りなどを行ってきた、そんな彼女からとある要望がランページに向けられたのでそれを叶える結果となった。

 

「こういう世界もあるのねぇ……お父さんとお母さんが一度体験してみたら良いって言った意味が理解出来たわ」

「俺も俺で専門じゃねえんだけどな……カウンタックでこれやる化物に何度も付き合わされたからな……」

「その人紹介して貰えない!!?」

「ああうん、その内なその内……」

 

それは走り屋である。F1の世界に身を置く両親から日本の走り屋の走りは一度でいいから見ておいた方が良いと言われたらしい。なので走り屋のいる場所を知らないかと言われた、がジャパンカップを控えているウマ娘をそういう所に連れて行く訳には行かないのでマルゼンスキーに夜の峠に連れ出されたり、インプを買ってからも偶に連れ出された事があるランページがその実践をする羽目になった。

 

「整備されたレースコースと違って舗装が崩れていたり、対向車も来るかもしれない環境下での高速バトル……これは見た方が良いと言われたのも納得ね、考える事が多い上にそれらを考えた上で車を操らないといけない……」

 

ブツブツと何やら呟きながらも手帳に何かを書きこんでいる。兎に角満足してくれたようで良かったと胸をなでおろす、何せ自分のインプはカスタムなんて特にしないほぼ純正品。強いて言えばタイヤなどを良く変えたりシートをバケットシートにしている位。

 

「言っとくが俺のテクなんて下の下の俄作りだぞ、本職の走り屋はもっとやべぇ動きする。群だと溝にタイヤ引っ掛けて曲がる走り屋もいるって話だしなぁ」

「―――行きましょう」

「無茶言うんじゃねえよ今行っても走ってる訳ねぇだろ」

 

現在早朝の5時。シルバーが宿泊しているホテルを出発して以前マルゼンスキーに乗せられて走った峠に向かって走ったのでこの時間、そろそろこの峠にも一般車が来始める頃合の時間なのにそんな所に行ったら確実に昼辺り。

 

「そもそもジャパンカップに向けて調整中だろお前、今回のこれだってトレーナーさんに相当に渋い顔されたんだろ?」

「だって、見たかったんだもん」

「だったらジャパンカップの後に鈴鹿サーキットにでも行ってこいよ」

「何言ってんのよ、行くに決まってるでしょ聖地よ聖地」

 

何時から鈴鹿サーキットはF1の聖地になったのだろうか……確かに鈴鹿サーキットは神だと語るドライバーが多いというのは聞いた事があるような気がするが……F1関係者からすれば欠かす事は出来ないらしい。

 

「んで、そっちはジャパンカップに向けての準備は出来てるのか?」

「フフン当然でしょ!!日本の芝にも慣れたわ、欧州と違ってスピードが出しやすいのが最高ね!!」

 

スピードを重要視する彼女からすれば日本の高速バ場はかなり肌にあったのか適応も早かった、その関係で今回のような朝早くからのお出かけが許可されたとも言えるのだが……そのために自分は朝早くから駆り出されたとも言えるのだが……。

 

「んじゃそろそろ帰るか?」

「ええ、タイヤ代は出させて頂戴ね。かなり減っちゃったでしょ?」

「自分で出すわこの位」

 

改めて車を発進させるランページ、シルバーからの要望は叶えてあげた。

 

「ついでで悪いけど、ツインターボに挨拶がしたいわ」

「トレセンに行きたいって事か?」

「ええっ―――あんな凄い走りをするウマ娘と是非話がしたい」

 

最初は僅かに興味本位を疑ったが、ある意味で純粋な興味、憧れと言っても良い光がそこにあった。ターボの走りは海外のG1ウマ娘さえも魅了する程の魅力を秘めている、そう思うとその走りの完成を手伝った自分も少しだけその事が誇らしく思えて来た。

 

「スタートダッシュの加速、そして中盤終盤で行うあの二段階目の急加速なんて並のウマ娘には出来ないテクよ!!あれはシンプルに対策が難しいわ、何度も映像を見直したけど全部タイミングが違っていたんだもの。あれは相当のハイクラステクね、あそこまでバラバラなタイミングで加速できるなんてツインターボってキレるウマ娘なのね」

「―――プッルウハハハハハッ!!!アッハハハハハハハッ!!!」

 

思わずランページは大爆笑してしまった。あのターボが頭がキレるウマ娘、本人を知っている身としてはあり得ない言葉を聞いてしまったので笑いをこらえる事が出来なくなった。だが事情を知らぬものからすればターボのドッカンターボのタイミングのバラつきはそう見えてしまう、後方のウマ娘の気配やレース展開、それらを読んだ上で発動する切り札だと認識されている模様。

 

「えっ何、私なんか変な事言った!?」

「い、言った言った!!あいつが切れ者!?ないないそれだけは絶対にない!!腹筋が今以上に割れちまうぜ!!」

「じゃ、じゃあ……そうか感覚派の天才なのね!!そう言う事でしょ!!?」

 

我答え得たり!!としたり顔をするシルバーにランページは息も絶え絶えになりながらも停車して否定はしないでおいた、間違ってはいない。これ以上は自分で何か言うよりも自分の目で判断させた方が早いだろう。そして邂逅させてみた結果―――

 

「フフンターボの方が速いもん!!」

「いいえ、私の方が速いわ!!」

「ターボだもん!!ランと同じトリプルティアラだし!!」

「私よ、ランページと覇を競えるぐらいなのよ!!」

 

特に問題なくシルバーはターボと仲良くなっていた。自分の速い!!と譲らない二人の姿に此処にスズカ混ぜたらもっとやべぇことになるんだろうなぁ……とそんな事を考えながらもジャパンカップが今まで以上に楽しみになって来た。

 

「こうなったらランに決めて貰おう!!」

「そうねそれが一番ね!!」

「いや、そこはジャパンカップで決めるとかそういう事にしなさいよ」

「「その手があった!!」」

「バカとバカ、ホントバカばっか、俺も結構な馬鹿(・・)、だけどな」

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