ジャパンカップ。例年よりも遥かに盛り上がっているこのレース、矢張りランページというウマ娘の影響なのか。あのワールドレコードを打ち破ってやると言わんばかりの意気込みが見える一方でそれにとらわれ過ぎる事無く自分らしく走ろうと必死に自分を諫めているウマ娘も見られる。此処でワールドレコードを出したとしても、きっとランページを越えたという事には絶対にならないからだろう。理由は単純
『メジロランページのワールドレコードは最悪のコンディションのロンシャンだからなぁ……』
という意見が根強いからである。ハッキリ言ってあんな所でワールドレコードを出せるあれが化物過ぎるのである、なので当面の目標とされているのがジャパンカップで出したレコードタイムとされるのが一般的。それに挑戦するために海を渡って来たウマ娘達が今か今と時を待ちわびる中、一人のウマ娘がターボへと近づいた。
「あ~……えっト、ツインターボ?」
「んっ何何っ?」
元気いっぱいに振り向くとそこには何とか日本語で言葉を作ろうとするシルバーストーンの姿があった。一応日本語の勉強はしてきたつもりだが、それでもいざ話そうとすると言葉に詰まってしまった。それを見たネイチャが手を貸そうとするのだが―――
『英語なら大丈夫だよ、ターボ分かるから』
『た、助かるわ。ごめんなさい日本語で話すのが礼儀なんだろうけど……』
『気にしない気にしない、難しいよねターボもよく間違えてランに注意されるから。今日は宜しくねシルバー、負けないから!!』
『ええ私だって負けないわよ!!私の方が速いって事を証明してみせるわ!!』
とターボが流暢な英語をしゃべり出した事に思わずネイチャは固まった。あのターボが、授業も寝てる事が多いターボが英語を喋ってる!?しかも結構綺麗な発音!?とショックを受けているとイクノに肩を叩かれる。
「なんでも、海外遠征を視野に入れる為に勉強したそうです。そこでランページさんに英語に慣れる為にゲームを英語に変える事を薦められたようです」
「あ~……そっか、ターボってやる気さえあればそっち方面って普通に優秀なんだよねぇ……」
考えてみればターボは趣味として動画の編集をしたりしていた、故かパソコンの単語やプログラミングにも強いのでその延長で英語も覚えようと思えば覚える事も出来る。問題なのはそのやる気を向けられるかどうかなのだが……如何やらランページがそれを上手く矯正してくれたらしい。これで他の勉強面も頑張ってくれたら……と思っているとターボとシルバーがハイタッチしながらイエーイ!!と賑やかになっていた。本当にジャパンカップか、と言いたくなるような空気が流れる中で二人は旧知の親友のように手を振りながら自分のゲートへと向かって行く。それを見て二人もゲートへと向かう―――一方でターボの瞳は鋭くなった。
ゲートへと入り、世界が狭まる。今にも飛び出したくなる、ゲージは既に満タンで漲っている。腰を落とすターボは集中した、ライスのそれに倣いながら瞳を閉ざして耳を澄ました。
『ターボ、耳を澄ませ。ウマ娘なんてその気になればゲートの開閉の兆候を捉える事は出来る』
今日までの特訓でターボはランページの走りを叩きこまれた。全身走法は流石に無理だったが出来る限りの事は叩きこまれたつもりだった、その内の一つが―――
『スタートしました綺麗なスタートですが一人大きく飛び出したウマ娘が既に3バ身差を付けている!!ツインターボだ、ツインターボ!!トリプルティアラのツインターボがロケットスタートを決めました!!だがシルバーストーンもほぼ同時に飛び出している!!二人は互角やシルバーストーンが僅かに先頭!その後方に二冠ウマ娘のミホノブルボン、レリックアースが内から行きます。イクノディクタスが最ウチから、そしてその後ろにトウカイテイオーとナイスネイチャが控えます』
「ポールポジションは貰ったぁ!!もう、誰にも譲らない!!」
流石はランに認められるだけのウマ娘だと思いながらもターボは少しだけ抑える、それでも他のウマ娘からすれば速い部類。ブルボンも二人の様子を見つつ抜け出すタイミングを見計らっている。大逃げのウマ娘が先頭を取っている、下手に追いかけすぎると自分がガス欠を起こす、だがセーブし過ぎると手遅れになる。大逃げが厄介だと言われる所以の一つだ。
『先頭はシルバーストーン、ツインターボ、ミホノブルボンが先頭集団。此処でややドクトルディアーが上がって来たが、レリックアースは4番手、慎重に様子を見極めている。トウカイテイオー、イクノディクタスも様子を見ているが此処でナイスネイチャが上がり始める、さあ坂を登りつめてこれから下り坂に入ります』
シルバーは日本の芝の走りやすさに心地良さを覚えている、なんて速く走れるコース何だろうか。空気が肌を流れていく感触も風も素晴らしい、そんな心地良さに身を委ねつつも視界の端に映った観客席の一角が映る。そこには外国人の集団が占領しているに等しい状況だった。他者に迷惑こそかけていないが、大人数が力を合わせて必死の声援を送っていた。それを見て思わず笑う、何せあれは自分の親が所属するF1チームの皆さんなのだから。
『シルバー行けええ!!』
『そのままそのまま、行ける行ける~!!』
日本の応援の熱さに影響されているのか同じように声を張り上げている、ジャパンカップはアウェーになってしまいがちだが今日ばかりはそんな事は無かった。家族の応援さえあれば自分は絶対に負けないと更に芝を強く蹴り上げる。
『さあ大欅を越えていく所で此処でイクノディクタスも上がり始めたぞ、間もなく最後の直線に入る先頭集団に多くのウマ娘が加わっていく!!誰が抜け出す、誰が抜け出すのか!!さあ直線だ、ミホノブルボンが此処でスパートを掛けるぞ!!この距離ならばシニアクラスにも負けないと一気にスパートを掛ける!!それに競り合っていくイクノディクタスとナイスネイチャが一気に上がって行く!!』
「流石です、ですがこの距離ならば私は負けません!!」
「それは私も同じ、何度も走って来たのですから!!」
「私だってそう簡単に譲ってあげる程、優しくはないよぉ!!」
あがり始めていく優駿達、その先頭を駆け抜け続けるシルバー。後方から凄まじい気配を感じる、一気に迫って来るのがある。
『此処でトウカイテイオー!!トウカイテイオーが上がって来た!!無敗の三冠ウマ娘が天皇賞の無念を晴らさんと言わんばかりにものすごい追い上げを見せる!!!三年連続で日本ウマ娘がジャパンカップの制覇、それを成し遂げるのは自分だと言わんばかりの猛烈な走りだ!!』
バ群を突き抜けるかのようにテイオーが一気に伸びた、テイオーステップと全身走法の合わせ技。究極のテイオーステップともいうべきそれでスパートを掛ける、そのキレはイクノやネイチャもランのそれと遜色ない為に驚きを隠せなかった。
「ボクは帝王だ、絶対の帝王はボクだ!!」
『トウカイテイオーが迫る!!ミホノブルボンを捉えるか、そのまま並ばせない!!そのまま抜き去った!!流石無敗の三冠ウマ娘、二冠ウマ娘にこれが格の違いだと言わんばかりの走り!!』
「これが、私が目指した……頂き!!」
ライスに敗れたことで得る事が出来なかった目指したもの。それを間近で見たブルボンは震えていた、喜びで。そして願う、自分はまだまだ強くなれる、故に走るのだと。必死に走っても加速し続けるテイオーに追い付けない、それでも良い、今は―――だがきっと抜いて見せるという覚悟の元で走る。
『さあツインターボとシルバーストーンを捉えたぞ!!ツインターボ、ツインターボに並んだ並んだ!!同世代に三冠同士の競り合い、何方が行くのか行けるのか!!?』
「やぁっターボ」
「んっテイオー」
「「……勝つのは自分!!!」」
一瞬視線が合う、その途端に二人は闘争本能を剥き出しにした。
「絶対の帝王は、ボクだぁぁぁぁあ!!」
「真・ドッカンターボだぁぁぁぁぁ!!」
同時に二人が切り札を切った。此処まで溜め続けて来たターボ、自分の意志でコントロールしたそれで最高のドッカンターボを行った。最後の切り札、急加速によって身体にGと風圧が襲い掛かるがそんな物跳び越えてやると言わんばかりに駆けた。一足、一足ごとに大地を弾ませるように跳ぶテイオー。そのステップはモンスニーが求めた走法の一つの究極系なのだろう。それを見せた。
『ツインターボとトウカイテイオー、トウカイテイオーが伸びるいやツインターボも伸びてきた!!此処できた、これがツインターボの恐ろしい所、二段加速が遂に来た!!シルバーストーンまで後1バ身、抜けるか、抜けられるか!?シルバーストーン粘れるか、後100mも無い!!来た来た来た来た三人の競り合いが続く!!銀色の彗星に帝王と爆速ターボが迫る!!今並んだ並んだ!!そしてそのままゴールイン!!!これは三者横一線!!!誰が1着なのか分かりません!!4着にイクノディクタス、5着にミホノブルボン、6着にナイスネイチャ!!』
死闘の果てに争いは写真判定にまで持ち込まれた。海外の彗星か、日本の帝王か、はたまた二段ターボか。誰が勝者なのかと息を呑んだ。そして余りにも長い時間が経過した末に―――掲示板にそれが乗った。
『結果が今―――出ました!!1着は―――トウカイテイオーだぁぁぁ!!!トウカイテイオージャパンカップを制覇ぁぁぁ!!!2着にツインターボ、しかしその差はハナ差7mm!!3着にはシルバーストーン、しかしツインターボとは1㎝差!!これも凄まじい!!果てしない結果となりましたジャパンカップ!!!そしてタイムはなんと2:22.1!!トウカイテイオー、メジロランページのコースレコードに此処まで肉薄しましたぁぁぁ!!!』
「か、勝ったぁぁぁぁ……」
勝つには勝ったがテイオーは肩で息をしていた。普段ならば笑顔で手を振ったりもするが今回ばかりはその余裕もないのかぐったりとしている。それ程までに自分は疲弊してしまう程のタイムで勝ったのがランページだと思うととんでもないな……と思ってしまった。
「負けたぁぁぁぁ!!」
「私もやられたぁぁぁ!!」
そう思っているとターボとシルバーが大声を張り上げた。二人の走りは完璧だった、テイオーは今回の勝利は僅かに運が自分に巡って来ただけだとすら思える程の接戦だった。そんな二人は一頻り悔しさを吐き出し終わると二人揃って自分に向き直ると拍手をした。
「おめでとうテイオー!!見事に負けたよターボ!!だけど今度は勝つから、覚悟しといてよね!!」
『くぅぅぅっランページのタイムに勝つところだった!!凄かったよ!!』
「あははっ有難う、二人とも」
そんな三人は握手をすると揃って観客の方に向き直ると一緒に頭を下げた後に笑顔で手を振った。そんな中にランページはいた、最高のレースを行ったターボにランページは称賛を送っていた。勝利こそ逃したが素晴らしいレースだったのは間違いない。
「南ちゃん」
「何でしょうか」
隣に居た南坂は此方を見ることなく、淀みなく答えた。
「漸く決心着いたわ」
「ええ、おはこんハロチャオでも良いと思いますよ」
「んじゃそうするか―――URAに一泡吹かせるか」