「えっと、カノープスのメンバーさんだよね?」
「メジロライアン先輩、ですよね?」
「うん。少しだけ話がしたいの、良いかな」
その日、普段通りに授業を終えるとトレーニングに行こうとしている時にあるウマ娘を見掛けて、思わず呼び止めてしまった。その相手はナイスネイチャ、ランページと同じカノープスに所属するウマ娘であり来年デビュー予定。今が大切な時期と言うのも分かるが、聞いておきたい事があったのだ。
「ごめんね突然」
「いえいえ~アタシでよければ話しますけど何を話せば?」
「ランの事についてちょっとね」
内容はランページに就いて。ランページは同じクラスではあるが、特定のウマ娘としか会話している様子を見た事がない。他よりも体格も身長も大きいので敬遠されているのではという不安が何処かにあった。このトレセン学園で上手く馴染めているのか、という事に何処かしら思っていたのでいい機会なので同じチームメイトに聞いてみたかった。
「ランってカノープスだとどんな感じ?上手くやれてたりする?途中編入だから友達としては不安でさ」
「あ~成程、心配無用だと思いますよランは。チーム外でも結構頼りにされてる印象強いし」
「そうなの?あと敬語は大丈夫だから」
「そうですか、なら遠慮なく」
そこから聞けたのは練習中の事や自分とは別行動中のランページの姿だった。自分は自分でクラシックへと向けた練習があるのでランページと一緒という訳には行かないので、改めて彼女の事を知る者として聞いておきたかった事が聞けた。
「強いのに全然偉ぶらないし接しやすいし一緒にふざけられるから先輩って認識は全くないかな。頼りになる姉御肌の友達って印象が凄い強い」
「そう、なんだ」
「ウチのターボと一緒に走って、ターボがギブアップしたらおんぶしてあげたりご飯奢ってくれたりで人の世話を焼くの好きなのかなって感じもする」
自分の知っているランページとは違うが、根底にある物は全く同じなんだなと思う。元のランページは弱気で相手の顔色を窺うようにしつつも相手の事をよく見て心配し、勇気を出して手を差し伸べるという感じだったが今はそれが大きく前進している。
「なんかありがとね、話を聞けて嬉しかったよ」
「いえいえ~こんなので良いんだったら幾らでも話しますよ」
「えへへっランの事宜しくね、それじゃあトレーナー待たせてるからそれじゃ!!!」
「はいはいお任せあれ~」
そう言いながらもライアンの心中は軽やかだった、心に留め続けていた何かを今少しだけ浮かせた。常に彼女の味方であるという気持ち、ではなくこれからは明確なライバルであり共に目標を達成を目指す仲間として……それを掲げた。
「なってみせる―――三冠ウマ娘!!」
11月、肌寒さが強さを増し始めるころなのだが京都レース場は寒さしらずのウマ娘達が集った。これより行われるのは重賞G2レース、デイリー杯ジュニアステークスが開催される。ジュニアクラスで行われる中でG2クラスのレースはこのデイリー杯と京王杯しかない、故にこのレースに臨むウマ娘の気迫による熱気がレース場に満ち満ちている。
「おっランじゃんウェ~イ!!」
「おっヘリちゃんウェ~イ、そっちも来てたんだな。相変わらず元気で羨ましいねぇ~」
「だってG2だしアガるしかなくねって感じ!!」
パドックで準備運動をしていたランページに声を掛けて来たのはパーマーの友人でもあるダイタクヘリオスだった。如何やら彼女もこのレースに出るらしい。相変わらずよく笑うギャル娘だ。
「ウチもさぁ最近パーマーと一緒にマジアガっててさ!!今日のレースはマジ頂き突き抜けてテンアゲでFUUUUU!!って感じ!!」
「なるほろ、元気なのは良い事だ。こっちだって色々と順調なんでね、容赦なんてしてられない覚悟をしておくといい、なんつってな!!兎も角今日はテンアゲで行こうか」
「イエ~イ!!流石ラン、ウチの事分かってんねぇ~!!それじゃあ最後に一発言っとく?」
「言っとく言っとく」
「「ウエ~イ!!」」
周囲からはG2レースなのによくあそこまで騒げるなぁ……と言う目で見られる。普通ならばここで集中力を高めるために使うとか準備運動をするのが普通なのに……緊張していないのか、とヘリオスもマークすべきかと視線を光らせるウマ娘が多い。
「んじゃウチはあっちでスタンバるから頑張ろね~!!」
そう言いながらも腿上げしながら去っていくヘリオスを見送ると、直ぐにイクノがやって来た。
「賑やかですねランページさん」
「ああまあな、ヘリオスはああいう奴だからな。でも強いぜ、多分マークされても笑い続けるだろうからな」
「成程、常にポジティブで圧を感じない……強敵ですね」
ある種、彼女も彼女でランページの天敵に近いかもしれないタイプ。G2故に油断するつもりはないが、気を緩めずに確りと挑む事を誓いながらもレースへと挑む。
「ねえトレーナー、イクノとランはどっちが勝つと思う?」
ファンファーレが鳴り、間もなく出走というタイミングでターボが南坂に問いかけた。何方が負けて何方かが勝つ、いやG2という舞台を考えると何方も負けるという事も考えられるが……この場合は何方が強いのかという質問での意味合いが強い。それに対してネイチャとタンホイザが自分なりの意見を言う。
「やっぱりランじゃない?シンザン鉄でトレーニングしてるのもあるし、あんな超ハイペースで走り切れる訳だから」
「でもイクノだって凄いと思うよ。正確にペース刻みながら相手の作戦を見抜いて抜き去るなんて中々出来ないもん」
二人の意見は的確に両者の長所を表現している、チームメイト故に仲間の凄さと言う物は重々承知しているのでどちらが強いかという議論は中々に終わらない。だからこそターボも自分に聞いて来たのだろう。
「難しいですね。確かにランさんの走りは素晴らしいですが、ランさんにとってイクノさんは天敵です。ペース変更による揺さぶりが彼女には通じません、このレースでそれをやるという事はイクノさんに勝利への隙を見せる事になります」
「つまり―――ランはお得意のペース変更走法が封じられる?」
「はい、ですので勝負は……純粋な勝負になるでしょう」
『各ウマ娘、体勢整いました……今スタートしました!!』
その言葉の直後にスタートとなった。1枠1番を引いたイクノと大外枠となったランページ。対照的なスタートとなっているが、お互いは自らを貫くような走りをしている。そしてその先頭にあったのはランページとヘリオスだった。
『矢張り先頭を行きますのはランページ、そしてそれに続いて逃げるのはダイタクヘリオス。この二人がペースを握りますがぐんぐん加速していく、正しく大逃げのダブルスタート!!』
「アハハハッ本当に速いねぇランってば!!ウチだって負けないからウェ~イ!!」
「俺だって、負けてやるつもりはねぇよ!!」
二人の勢いは衰え知らず、淀の坂と言われる第3コーナーへと差し掛かってもキープし続けている。流石にヘリオスは常にトップスピードと言ってもいいランページと比べたら多少なりとも抑えているようにも見えるのだがランページは全く抑えていない。
「すっごいラン!!あの坂をぐんぐん登ってく!!」
「いや待って、鉄則知らない訳じゃないよね!?」
「鉄則?」
「何だっけそれ?」
「いやこの前話してたじゃん!!」
とぼけたタンホイザとターボも思わず突っ込むネイチャ。淀の坂、京都レース場の第3コーナーにある坂の事で丘のようになっており、緩やかな坂を登った後は急な下り坂になっている。京都レース場の淀の坂はゆっくり上り、ゆっくり下るのが鉄則と言われているのだが……ランページはそんな事お構いなしと言わんばかりに加速し続けている。寧ろ―――
『ランページ速い速い!!下りでも一切速度を緩めない、寧ろ下りを使って更に加速している!!鉄則など知った事か、自らの走りこそがルールだと言わんばかりの傍若無人ぶりぃ!!』
『ダイタクヘリオスは抑えていますね、彼女の走りの方がどちらかと言えば一般的なのですが』
下りの勢いを使えば遠心力で膨らんでしまう、だが彼女は必要以上に膨らむ事は無かった。シンザン鉄によって鍛えられたコーナーリングとパワーで外へと膨らむ事も無く曲がる事が出来ていた。
『さあ第4コーナーを曲がり切った。先頭は依然ランページ、2番手にはダイタクヘリオス、っと此処で後方から凄い追い上げをしてくるウマ娘がいるぞ!!ランページと同じように坂を凄い速度で下っていく!!そして内を突いている!!ピッタリと内を抉って来る!!』
「来たか!!」
「逃がしませんよ、ランページさん!!」
『イクノディクタスだ!!イクノディクタスが一気に上がってくる!!ランページへと一気に迫る!!ダイタクヘリオスを抜いてそのまま一気に詰め寄った!!さあ更に行けるのか、それとも彼女の台頭を許さないのかランページ!!』
坂を加速しながら下る、普通ならば恐怖を覚えるがイクノは持ち前の冷静さでそれを抑え込み、身体を倒し込みながらコーナーを曲がる事で最短距離でコーナーを曲がって来た。そのままランページを射程距離に収めて後は末脚のキレ味勝負となる。イクノのそれが勝つのか、それともランが逃げ切るのか。
「やるじゃねえかイクノ……だけどなぁ、俺はまだまだ行けるんだよぉ!!」
「知ってますよ、そんな事は!!」
「「勝負!!」」
同時に二人の瞳が輝くと更に強く地面を蹴った。圧倒的な力で地面を蹴って疾駆するランページ、それに喰らい付きながらも残してきた力を開放して更に追い込みをかけるイクノ。
『イクノディクタスが更にスパートを掛けるがランページも粘る!!あと2バ身、イクノディクタス行けるか!?徐々に縮まっていくが、距離が足りないか!?ランページ、此処でさらに伸びる!!そしてそのままイクノディクタスを振り切ってゴールイン!!やはり強かったランページ!!2着はイクノディクタス、3着にはダイタクヘリオス』
「ハァハァハァ……駄目でしたか……」
「ひゃぁ~びっくらこいたぜ全く、イクノよくもあんなコーナリング出来たな……」
ゴールしたイクノにランは驚きを隠さずに言った。彼女の精密でブレない走りは知っていたが、まさか淀の坂で加速しつつも内を抉るようにして自分との差を埋めて来るとは思いもしなかった。自分の脚でも膨らみ過ぎるのを抑えるのが精一杯だったのに……。
「トレーナーさんにお願いして、特訓をお願いしました。矢張り、貴方を捕まえるには坂を最短に駆け抜けるしかないと思っていましたので」
「こっわいウマ娘だよお前」
幾ら特訓したと言っても本当にそれが出来るのがどれだけいるだろうか、しかも淀の坂で。普通なら精神的にブレて出来なくなっても可笑しくないのに……矢張り彼女は自分の天敵だ。
「ウェ~イ!!二人ともマジ卍じゃね!?あの坂であんな風に走るとかマジテンアゲだったよ!!」
「ははっヘリちゃんだって3着おめ、三人でライブだな」
「ええ。ですが次はセンターを頂きますので」
「ハッやらねぇよ」
「おおっ何々ガチ燃えでメラメラバーニングなん!?」