貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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281話

「海外ウマ娘のトレセン入学希望者が?」

「ええ、たづなさんがそう仰ってましたよ」

 

漸く休養期間が開けて練習の許可が下りたランページは早速ランページ鉄を付けてのトレーニングを行った。暫く洋芝を走っていたせいで慣れるのに時間が掛かると思っていたが、思った以上に日本の芝の走り方は分かっているのか無意識的に走り方を適応させていた。考えるよりも先に身体が動く、一流はそういう物だと南坂に言われる中で自分の活躍に呼応するようにトレセンも活気づいてるという話になった。

 

「ウマ娘のレースの中に二つの流れ、その両方を制した暴君を生んだ国である日本。その日本の環境で自分を育ててみたいという方が増えているらしいですよ。と言っても国内でも中央に限らずトレセンに入学希望者が増えているのでそれらを全員受け入れるというのは難しいですけどね」

「地方のトレセンでも言われたよ、嬉しい悲鳴だって」

 

地方ではどちらかと言えばダートレースの方が主流、故か地方ではダート志望ウマ娘も多い。これまではダートは得意だが、芝の影に隠れてしまうダートは……という感じで消極的になってしまうウマ娘が多く折角の新しいスター候補が居ても入学してくれないのも多かった。

 

「にしても海外か……リスキーな選択でもあるな、日本と海外の環境の違いはデカいし幅広い適正が要求されるだろ。まあ海外を視野に入れずに日本で走るってんなら別だが、ンな事言ったらウチのアマちゃんだってアメリカからだしな」

「んっなんか言ったかい先輩」

「ああ、ちょっち流れで名前出したんだ。ローレルとドラランのタイム確り頼むな」

「このアマさんがミスる訳がないだろう!!」

 

カノープスのヒシアマゾンも元々はアメリカ生まれ、史実で言う所のマル外、外国産馬が入って来るという所だろうか。来年度からで言えば……タイキシャトルにシーキングザパール、グラスワンダーにエルコンドルパサー、メイショウドトウと有名どころが毎年のように入って来る事になる。黄金世代とも言われる世代も近い。

 

「日本の環境ねぇ……時代遅れとも言われてるのにそこに突っ込む意味なんてねぇと思うけど……」

「時には立ち返りというのは大切ですよ、何時の時代も未来に進む為には一度過去を顧みる事で現在を見つめ直して歩き進む物です」

 

何より日本にはランページが居る。世界を渡り歩き、その全ての戦いに勝って来た最強最速のウマ娘が。そのレース映像は脚質に関係なく見ない選択肢はない、生でその走りを見られるならばそれ以上の宝はない、話を出来たならば自慢にしていい、もしも指導を受けたなら……誇りにしていい。という扱いをされていると南坂は言う。

 

「俺はUMAかなんかですか、新手の縁起物扱いされてるじゃねえか」

「いうなればUMA娘ですかね」

「はっ倒すぞ南ちゃん」

 

しかしまあ自分はそういう扱いをされてしまう程の所まで上り詰めたという証明でもある。改めて世界最強にして最速という名前に重みを感じる―――訳でもない。どうあっても自分は自分だし、そんな風に言われているならカノープスはどうなるんだ。

 

「ラストォオオオオ!!!」

「はあああああああ!!!」

「そのまま、ゴール!!結果は―――ローレルの勝ち、タイム差は0.61!!」

「また負けたぁぁぁぁ!!」

「フゥッ……」

 

「次はホープフルステークス、勝つぞぉぉぉぉ!!」

「今度こそG1勝利ぃぃぃ!!」

「負けないっ……!!」

 

そういう意味ではカノープスは最早称えられても可笑しくないレベルで恩恵を受けている。ターボに至っては自分の弟子を認めてしまったし、ライスやタンホイザには惜しげも無く技術を教えているしイクノとネイチャはライバルでチームメイト。海外からすればリギルやスピカ以上にカノープスの評価の方が高いのだろうなぁ……

 

「もうちょっと抑えないと、ランページを意識し過ぎてる」

「わ、分かっている……分かっているが……」

「憧れの先輩だもんね、気持ちは分かるさ。でもだからこそ自分に倣い過ぎるなって言われてるんでしょ、応えなきゃ」

「分かっている事を言うなたわけ、私だって分かっているんだ……!!」

 

そんなカノープスで努力するエアグルーヴ、憧れのランページという手本があるがそれがもう直ぐ引退してしまうという事もあってか彼女は最近少しばかりスランプ気味になりつつあった。自分らしい走りをしなければいけないと分かっているのに頭の中にあるランページの走りを真似てしまっていて、サブトレーナーではあるが経験を積む為に彼女を中心に見ている佐々田トレーナーには感謝しつつも少し当たってしまっている。

 

「良くも悪くも俺の引退は影響する、か……」

「カノープスはランページがリーダーとして引っ張ってきましたからね、チームとしても戦績としても」

「こういう場合って野球みたいに次期キャプテンって指名すんの?」

「それこそ個人の自由だと」

 

元々海外遠征をしている間に調子を落としていたのがライスシャワーとエアグルーヴの二人、姉と慕うライスと違ってエアグルーヴのそれは憧れの存在が近くに居ない事から来る物だが……トレセン学園に入り憧れの人と一緒のチームになれたと思ったら数か月もしないうちにその人は海外へ、凱旋したと思ったら今度は完全な引退宣言でエアグルーヴの情緒はかなり不安定になってしまっている。

 

「やっほ~たわっじゃなかった佐々田ちゃん、如何よいい加減慣れた?」

「その言い方本当にやめて、エアグルーヴにもよく言われてるんだから……まあ慣れたと言えば慣れたさ、流石に南坂トレーナーには遠く及ばないけど」

「そんな気概では何時までも立っても卵の殻を脱げんぞたわけが」

「そうだそうだ、たわけじゃなくて炎山って呼ぶぞ~」

「何で!?たわけ以上に意味が分からないんだけど!?」

 

意外に通じなかった事に驚きつつもランページはエアグルーヴの頭を撫でる。ライスもライスで寂しがっていたが、彼女は寧ろ―――

 

『お姉様、ライスが勝ちます。だから、だから―――真剣に勝負して下さい』

 

という挑戦状を叩きつけてきた。あんなライスにそんな事を言われてしまうと思わず震えてしまう、姉としても万全の状態で戦わなければならないので準備は怠れないが……カノープスのリーダー的な存在としては今のエアグルーヴを放置する訳には行かない。かと言ってもどうするべきかと思った時に思い出したのはファインだった。

 

「エアエア、ちょっち」

「な、なんですか?」

「ちょいとお耳を拝借」

 

ワザとらしく座り込むランページ、そんな自分の膝の上にエアグルーヴを乗せながらその耳にこしょしょと耳打ちをする。何を話しているのか佐々田は興味を示すのだが

 

「乙女同士の内緒話を盗み聞くと重罪だぜ」

「あっそうかゴメン……って君が乙女……?」

「良いから離れろたわけ!!」

 

佐々田の顔にエアグルーヴのシューズが投げつけられた。ギリギリで回避して大事は無かったが、当たっていたら痛かっただろう……何せ蹄鉄付きだ。シンザン鉄じゃないだけマシだろうが……そんなこんなで少し遠くで何を話してるのかなぁ……と様子を伺っていると次第にエアグルーヴの表情が明るくなっていくのがわかった。そしてランページとハイタッチをすると直ぐに自分の近くに落ちていたシューズを履き直した。

 

「さあ早く構えろ!!私のトレーニングの続きをするぞ!!」

「えっ何、何でこんなやる気になってんの?何吹き込んだの?」

「不思議な呪文コールしただけ」

「古くない?」

「良いから早く準備せんかたわけ!!」

「ああ、もう本当に名前で呼んで貰いたい……」

 

元気を取り戻したエアグルーヴは早速新しくメニューに取り組み始めた。佐々田もそのテンションの落差に驚いているがやる気を見せてくれた事に意欲を見せてそれに付き合った。そんな姿を見つつ南坂はランページに語り掛ける。

 

「慕われてますね」

「こういうのも俺の役目だからな……さてと、坂路行くか……何本だっけ?」

「鈍りを直す為にも3本で」

「相変わらず多いわ~……」

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