貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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286話

12月27日

 

年末のこの日、クリスマスが終わって僅か数日である筈の日本国内はそれまでのクリスマスムードが消え去って大晦日へと向かっていく筈、それが毎年恒例―――もう一つの恒例が日本中を、いや世界中を高揚されていた。URA主催グランプリレース、有記念。国内最大G1レースとして名高いこのレース、中山レース場で行われる一大レースは日本中の視線が集まる、が今年ばかりは世界中から注目されていた。なぜかと言われれば理由は簡単だ。

 

世界最速にして最強 メジロランページ引退レース

 

無敗にして最強、最速にして神話。30戦目を迎えるこのレースを最後にランページは自らが打ち立てた伝説によって彩られた花道を降りることになる。ドリームトロフィーリーグには進まずに選択した現役の引退、もはやそれはだれにも止められない。ならば最後は、この目で、この目で全てを焼き付けなければと日本全国から中山レース場へと人間が集まった。既に収容人数は限界を越えている、その人数はライアンが制した日本ダービーの20万人を凌駕し、レース場に入りきれない人々がレース場屋外に急遽設置された大型モニター前に集まっていた。

 

それ以外でも来れない人々は自らの家のTV、スマホ、街頭TV、集会場、それを甘受出来る場所へと集っていた。最早暴動と言い換えてもいいはずの人間が集っているのにも拘らず、中山レース場は荒れる事もなく平常の運営が出来ていた。URAもこれは驚きを隠しきれず、協力を要請していた警察と共に顔を見合わせてしまう程だった。理由は至極単純……暴君の最後のレースを汚したくなかった。それに尽きた。

 

「今日でこいつも見納めか」

 

控室で一人、椅子に座りながらも蹄鉄を見つめるウマ娘、ランページの姿があった。今日、自分のレースは終わる。そんな思いを巡らせながらもランページはシューズに蹄鉄を打つ。日本で使っていたレース用の蹄鉄ではなく、海外で使っていたランページ鉄を。

 

「……」

 

普通に考えれば軽い方がいいだろう、だが此方の方が気合が入るし海外を走った事で強化された自分の脚力に適応出来るのはこの蹄鉄しかない。一応しっかりと許可も取ってある、本当にこれで走るのかとは言われたがこれでワールドレコードだって出したのだから文句は言わせない。嵌め込んだシューズを履く、脚に来る重さが自分のレースの糧になる。

 

「―――フゥゥゥッ……」

 

ハーブシガーを吸う。別段落ち着きたいからというわけではない、ただなんとなく吸う。意味もない、だからこそ意味がある。

 

「世話になったな」

 

―――メジロランページさん、間もなく本バ場入場になります。

 

「ああ分かった」

 

最後に勢いよく息を吸い込んでからハーブシガーを消して投げ落とす。最後の一服は実に美味かった、お陰で気合も入った。最後のレースを、全力で楽しむ準備は整った。

 

「さぁて……準備は万端行こうか」

 

 

『この時が、来てしまいました。毎年この時を待ちわびておりましたが今年ばかりは来ないことを思わず願ってしまった方々も多かったと思いますが時というものは残酷にして正確、今年もこの日がやって参りました。暮れの中山レース場、G1有記念が開幕いたします。間違いなく今年の総決算に相応しい激しいレースが繰り広げられる事でしょう』

『私も今回ばかりはこの日が来ることを思わず拒んでしまう自分が居ました。同時に楽しみにしている自分が居て苦しみました、ですがもう腹を決めました。今日を見ずしてこれからのウマ娘レースを見るわけにはいかないんですから!!』

 

実況と解説の言葉にも熱が込められている。もう抑えきれないと言わんばかりの熱狂を言葉という形で排熱を行うが、それでも間に合わない。それでも実況者という自覚と解説者という意地がここから離れることを許さない、ここに座っていることこそが自分の人生の中で最大の幸福であることを理解しているがゆえに。

 

『有記念は紛れもなく、歴史、いや伝説となることは必至!!日本の誇り、世界の暴君、最速にして最強の、メジロランページのラストレースが行われます。この日本という地で再び彼女の走りを見られる事を誰もが願っておりましたがその願いは最後のレースという答えになってしまいました。だからこそこのレースに臨むウマ娘たちは全力で勝ちに行くのです、私たちもそれを見たい、暴君が勝ち無敗の伝説としてなって去るのか。それともその伝説をわがものとして新たな伝説となるウマ娘が世界に自らの名を放つのか!!』

 

そうだ、悲しむ余裕なんてない。涙で視界が霞む事すら許されない、瞬きで決定的な瞬間を見逃すなんて万死に値する、このレースを生で見られる事は一生の宝になる。そう断言されるの程のレースが行われる、本バ場入場が行われるがどのウマ娘の仕上がっている。誰が勝ってもおかしくはない、そう思わせる。

 

『1枠1番ナイスネイチャ!!ダービーウマ娘にしてカノープスのチームメイトが一番乗りです、トウカイテイオーの最大のライバルの一人として、ランページのチームメイトの一人として戦いを挑みます!!続きましては2枠2番メジロマックイーン!!メジロ四天王の一角、名優が登場です!!名優は暴君相手にどのような演技を見せるのでしょうか』

 

「やれやれ凄い煽り方するなぁ……まあその期待にこたえようと思ってるアタシもアタシだなぁ」

「同感ですわ、同時にメジロ四天王の筆頭を奪う活躍をしてやろうという野心も芽生えますわね」

「うわぁこわ」

 

『3枠3番は大逃げ宣言、メジロ四天王の一角、ご存じ大逃げステイヤーのメジロパーマー!!今日こそはG1を取る、そして暴君を超える大逃げウマ娘になるというコメントも残しています!!同じく大逃げウマ娘の対決も期待できます!!3枠4番は鉄の貴婦人と共に暴君と最前線で争い続けた大華、ジャパンカップを制したアグネスフローラ!!』

 

「今日も爆逃げするぞぉ!!!」

スゥゥゥッ……今日こそ勝ぁぁああああああああああつ!!!!

「うわぁびっくりした!!?ならこっちも、爆逃げするぞぉぉぉぉ!!!!」

 

『おっとアグネスフローラ気合十分です!!ここまで響いてくるような咆哮です!!メジロパーマーも負けじと叫び返します!!これはいいレースが期待できそうです!!おっときたぞぉっ!!暴君との最後の戦いはリベンジマッチ、1年前の敗北を勝利という伝説で塗り替えられるか!!4枠5番トウカイテイオー!!それに続くのは彼女に続いて三冠を目指した坂路の申し子、正確無比のペースでタイムを刻むサイボーグ、4枠6番ミホノブルボン!!』

 

「トウカイテイオーさん、私は負けません。あなたに続くことはできませんが同じダービーウマ娘として貴方にも挑戦します」

「いいよ、ボクは誰の挑戦でも受けるし絶対に負けないから!!」

「私もです」

 

『続く5枠7番は―――連続して三冠の登場!!去年のレースで彼女が刻んだレコードもワールドレコードでした!!メジロの三冠ウマ娘、メジロライアン!!今年もあの走りを見せるのか!!?5枠8番にはメジロパーマーの盟友、太陽のような笑みを浮かべて全速力の走り屋ウマ娘のダイタクヘリオス!!今年のレースも大逃げウマ娘が大集結だぁ!!』

 

「ヘリオスも今日はよろしく、全力で楽しんでいこうね」

「モチモチ♪ほらほら一緒に笑っていこうよウェ~イ!!」

「えっ一緒に!?」

「そそそっせ~の!!」

「ウェ~イ!!」「ウ、ウェ~イ!!……少し恥ずかしいかも……」

 

『さあ大逃げの流れはまだまだ収まらないぞ!!6枠9番からは3代目トリプルティアラ、その二段加速は誰もが虜になってスピード狂へと一直線!!驚愕のスーパーターボパワーのツインターボ!!菊花賞では惜しくも3着、ですがその実力は紛れもなくG1クラス、このメンバーの一人として数えられても全く見劣りしない笑顔の満月、6枠10番マチカネタンホイザ!!』

 

「ターボが来たぞ~!!お~人でいっぱいだ~!!あっ秋山の兄ちゃんに和美姉ちゃんだ~!!」

「あっ知り合いなの?お~いターボがお世話になってま~す!!!」

 

「見てよ兄貴、ターボさん手振ってくれてる!!」

「全くスゲェ大物だよ、応援してるぞ~!!」

 

『このウマ娘を語らずして誰が暴君を語れましょうか、アグネスフローラよりもずっと前からメジロランページと常に最前線で争い続け、誰よりも多く競い続けた鉄の貴婦人、天皇賞(秋)、エリザベス女王杯からジャパンカップ、ランページローテを乗り越えてここまでやってきた!!7枠11番、鉄の貴婦人ことイクノディクタス!!そして7枠12番にはメジロライアンと日本のダービーを競い合った風の神がご登場!!あの逃げを見せてくれるのか、アイネスフウジン!!』

 

「凄い人なの!!こんな中でレースができるなんてワクワクしちゃうなぁ、ねっイクノ!!」

「ええっまったくもって……高揚感が止まりませんね」

 

ここまで12人の優駿が姿を現した、だがあのウマ娘はまだ姿を見せていない。誰もがその姿を待った、次が、それとも最後なのか……そんな人々の期待にこたえるかのように地下バ道からそれらは見えてきた。同じように、赤い瞳に青い焔を携えるようにして……。

 

『さあ、どうやら最後は同時にご登場のようです。ほぼ同時に姿を現しましたが、敢えて彼女から紹介しましょう。菊花賞ではあのミホノブルボンを下して制した漆黒のステイヤー、2500というこの舞台でもその資質は開花するのか、8枠14番ライスシャワー!!!』

 

青い炎を灯しながら歩くライス、その表情にはお姉様を慕う妹の姿ではない。真っ向から勝ってやると言わんばかりの闘志に溢れた戦士の姿。クラシッククラスからの参戦なんて関係ない、このレースは誰が勝ってもおかしくないんだ。そして―――ついに来た。

 

『29戦29勝。三つのワールドレコードは自らが戴冠した三つのティアラと同じ、それこそが己の勲章、文字通りの伝説の軌跡(レジェンドレコード)を作り上げた神話にして伝説、そして今日それに幕が下ろされます。自らの手で幕を下ろすのか、それとも他者がその幕を引くのか、それを決めるのはこのターフに集った者たちに与えられた栄誉!!世界最速にして世界最強!!メジロ四天王筆頭にして世界の暴君!!!8枠13番、メジロランページィィィィィィッ!!!」

 

誰もがその先の言葉をこたえようとするランページを切なげに見ていた、言わないでくれ、だが彼女は無慈悲と思えるほどに流れるような動作で応えた。

 

「―――待たせたな」

 

ああっ……待ったよ、待っていたよ……その言葉に答えるかのように爆発でも起きたような歓声が中山レース場から、レース場外からも溢れ出した。

 

1枠1番ナイスネイチャ

2枠2番メジロマックイーン

3枠3番メジロパーマー

3枠4番アグネスフローラ

4枠5番トウカイテイオー

4枠6番ミホノブルボン

5枠7番メジロライアン

5枠8番ダイタクヘリオス

6枠9番ツインターボ

6枠10番マチカネタンホイザ

7枠11番イクノディクタス

7枠12番アイネスフウジン

8枠13番メジロランページ

8枠14番ライスシャワー

 

正真正銘、最後のレースの最後の挨拶。文句など許さないと言わんばかりの堂々の一番人気、誰もが見に来たレースが、有記念が始まる。

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