貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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287話

『さあ間もなくゲートインですが聞こえるでしょうかこの中山の大歓声!!日本だけではありません、世界中から暴君メジロランページのラストランを見ようと世界中から人々が集まっております!!アメリカ、イギリス、アイルランド、ドイツフランスニュージーランドドバイ!!彼女が走った国々から集った観客の声が波となって放たれております!!』

 

本バ場入場を行った際に彼女の仕上がりを見て誰もが理解した、あれが世界最速にして最強だと言われるウマ娘の姿なのだと。何も聞かずとも納得するだけの風格と威圧感、カリスマ性、全てが備えられていた。ゆっくりとゲートへと入っていくウマ娘たち、ゲート入りを嫌がるものが居ても可笑しくは無い筈だが今日ばかりはそんな様子を見せるものは一人も居らず素直にゲートへと収まっていった。

 

『さあ舞台は整った!!優駿が飾るは次の時代への花道か、新たな伝説への花道か!!第37回有記念今スタートしました!!メジロランページ良いスタートを切りました!!大外のメジロランページ絶好のスタートを飾った!!そのまま先頭を取りに行く!!だがそれに続くのは此方もロケットスタートのツインターボ、ダイタクヘリオスにメジロパーマーも続く!!昨年のグランプリと同じだが今年はそこにミホノブルボンとアイネスフウジンも戦線参加!!なんという幕開けでしょうか!!スタートしたばかりだというのに逃げウマ娘たちの激しい先頭争い、それを制して先頭を行くのは暴君メジロランページ!!緑と白、黒いロングコートを靡かせながら今先頭、小回り中山六つのコーナーの最初から次へと向かいます』

 

「真・ドッカンターボォォッ!!」

「アッハハハハハッ!!アタシもターボダッシュ成功~!!マジパないっしょ~」

「練習してたの知ってたけど、マジでやるってマジなのヘリオス!?」

 

スタートダッシュをドッカンターボで加速するターボに競い合うように伸びていくヘリオス。地道に練習した結果、ドッカンターボではないがスタートダッシュは真似出来るようになったらしくスタートの伸びは格段に良くなったとの事。そんな二人を追走するパーマー、これで大逃げウマ娘が4人、ではない。その少し後ろにはブルボンとアイネスが続いている。逃げウマ娘が6人で作る先頭集団という異様な光景が出来上がっている。

 

『そして少し離れたところにメジロマックイーン、アグネスフローラ、トウカイテイオーが続きます。そこから1バ身程離れたところにライスシャワー。イクノディクタス、ナイスネイチャ、メジロライアンとマチカネタンホイザと続いております。さあ今正面スタンド前を通過します!!観客はみんなあなたの走りを待っていた、この日本で走る貴方の姿を待っていたんだメジロランページ!!これがラストランメジロランページ!』

 

「ターボさんがんばれ~!!」

「まだまだこっからだ、飛ばし過ぎるなよぉ~!!」

 

正面スタンドの良い位置を取ることが出来ている秋山兄妹、当然応援するのはツインターボ。ランページが繋いでくれた不思議な縁、どちらかといえば車の方に夢中になっていた自分をウマ娘と引き合わせてくれたランページには感謝している。自分の好きなドッカンターボの使い手のウマ娘と引き合わせてくれたことを……そんな彼女も今日でその走りが終わりになる。正面スタンドを通過して次のコーナーへと走っていくその背中を見送ると隣から興奮した言葉が聞こえてきた。

 

「くぅぅぅっこれが日本のレース、なんて素晴らしいんだ!!流石暴君の故郷だ、あのターボという子も素晴らしいな!!逃げウマ娘とは最高だな!!」

 

少々拙いが中々に上手い日本語を操る外国人が逃げウマ娘の魅力に嵌ったと言わんばかりの感想を零していたのでついつい渉は笑った。

 

「アンタ良い趣味を持てたな、特にターボさんのドッカンターボは最高だぜ」

「ドッカンターボ?確か、昔の日本のターボエンジンでそんなものがあると聞いたことがあるぞ」

「詳しいな、まあ見てなターボさんのレースは見てて楽しいんだ」

「ウムッ!!ではグルメも楽しみながら注目しなければな!!」

「……どうでもいいけどアンタ、買いすぎだろ」

 

コーナーを一つ、一つ越えるたびに胸が締め付けられるような気分になるのは何故だ。もう走れないからだ、あの人と、もう……大外であったはずのランページは既にウチを取りながら先頭に立ち続けている。ペースを全く落とすこともなく駆け抜け続けていくがこの逃げウマ娘が6人で生み出すペースは極めて速い。それを先導する最速のせいか。だが、今日こそは勝つ―――だって今日を逃せばもう永久にチャンスは回ってこないんだから。

 

『第三コーナーへと入るがメジロランページがいまだ先頭、だがこの辺りから来たぞナイスネイチャがロングスパートを掛け始める!!さあ得意のロングスパートで勝負をかける、ほかのウマ娘は如何だ、釣られないようにしているがこれは大丈夫か徐々にペースがさらに早まっているようにも見えます!!』 

 

「(まずい、このペースだと危険なのはむしろ私たち差し……この辺りで私も行きましょうか)」

「(これだとむしろ問題なのは―――だよね、それだ!!)」

 

『ここでイクノディクタスとメジロライアンも行きます!!ナイスネイチャにつられたか、ともに駆け上がっていく。ここでメジロマックイーンとトウカイテイオー、アグネスフローラ、ライスシャワーも行きますがおっとここでミホノブルボンが少しペースが落ちた、いや何とか立て直しているがフォームがぶれている!!サイボーグの不具合が起きている!!正確無比のペース管理に異常発生か!?』

 

「このペースは、幾ら何でも異常です……!!」

「や、ヤバ谷園のバーモンドツレェェ!!」

 

『あぁっとここでダイタクヘリオスもペースが落ちてきた!!先頭集団から崩れて、いまっどんどんと下がっていく!!』

 

「当然、なの!!めちゃくちゃすぎるのこのペース!!」

 

思わずアイネスが毒づいてしまう程にペースがおかしい。何せランページは一切速度を落としていないしそれに負けじとターボは加速しパーマーもそれに競り続けている。誰も一呼吸を入れることもなく走り続けている状況が続いている。それで最も負担がかかるのは他の逃げウマ娘、自分のMAXスピードを超過しているのにも拘らず勝つためにはその領域に突入していくしかない。

 

「わわっとっ!!」

「ぐぎっ!?」

 

『先頭からダイタクヘリオスがずるずると後退していく!!ミホノブルボンも苦しそうか!?間もなく最後のコーナーに入るが此処で激しく順位が変化していく!先頭は依然メジロランページ、ツインターボ、メジロパーマー、ミホノブルボン、アイネスフウジン。そしてアグネスフローラ、ライスシャワー、メジロマックイーンにトウカイテイオー、ナイスネイチャ、メジロライアン、ダイタクヘリオス、イクノディクタス、マチカネタンホイザ!!さあラストの直線に入るぞこのまま暴君が逃げ切る、いやここで、ここでマックイーンとテイオーが伸びてくる!!いやライスも来る、ライスシャワーも来た!!』

 

「あなたには色々なものを頂きました、だからこそ全てを返すにはこの場しかないのです!!」

「行くよラン、ボクの走りを、絶対の帝王が暴君を打倒して見せるぅ!!!」

「お姉様っ―――ライスが、勝つ!!!」

 

コーナーを曲がった際の遠心力を上手く使いながら外に身体を出しながら一気に全力を開放する。名優が、絶対の帝王が、漆黒のステイヤーが今暴君へと挑んでいく。それが口火となり全員の闘志に火が付いた。

 

「来た来た来たぁっ!!!全力全開、MAXの真・ドッカンターボだぁぁぁぁあ!!!!」

「私だってっサンデーさんに追いかけられて、怖がってばかりで心配かける、だけじゃないんだからぁぁぁぁ!!!」

「勝負ですランページさん。長かった貴方との決着を今、ここで着ける!!!」

 

ドッカンターボが放たれる、一気に加速してランページを抜きにかかる。サンデーサイレンスに鍛えられた末脚が爆発して最後方一気にのし上がっていく、正確無比のペースによって蓄積された圧力が一気に爆発するように伸びていくイクノ。

 

「私だって、貴方に勝ちたいのは同じなのぉ!!!」

「根性だけなら、だれにも負けない、爆逃げぇぇぇぇ!!!」

 

『ライアンも、ライアンも来た!!全員が死力を尽くして絶対王者の暴君へと挑戦者となる!!世界最速最強のウマ娘はたった一人でこの挑戦を迎え撃って居るぅ!!』

 

叫びが木霊する中で後方から一気に駆け上がってくる影がある、それはライアン。メジロの三冠が再びやってきた、親友の最後を無様に終わらせるわけにはいかないと全力を振り絞って伸びていく。

 

「ラアアアアアアアンンッッ!!!」

 

全ては自分と彼女との始まりだったんだ。だから自分が終わりを下ろすと言わんばかりの疾駆、それはどんどんと上がっていく、冷たい風は肌に突き刺さる中でその先頭を走り続ける友へとあと少しで届く!!その時だった。真横に誰かが並んだ。

 

『こ、ここでアグネスフローラ!!ここでアグネスフローラが一気に来たぁ!!!凄い末脚だ、あっという間にツインターボとメジロパーマーを越えて今三番手!!』

 

「貴方だけだと思うな、あの人に掛ける思いなら私が、一番で、誰よりも、勝ちたいって、思ってるんだからぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

渾身の思いを込めた叫びはフローラを更に向こう側へと連れて行った。ライアンというランページ最高の親友を越えて、暴君への挑戦権を手にしたのはアグネスフローラ。あと1バ身という所でフローラは秋華賞を思い出した、唯一自分がランページを抜くことが出来たレース。あれが自分の全盛期だったのかもしれない、だからこそ自分がそれを抜く時だと走った。

 

『アグネスフローラが来る、アグネスフローラが来た!!ティアラ路線で戦い続けた優駿が暴君へと迫った!!あと少し、あと半バ身の所まで迫れている!!メジロランページはどうだ、もう苦しいのか!!この超ハイペースを維持し続けている暴君はもう無理なのか!!』

 

そんなあおりが聞こえてくる中で、二人の視線はあった。言葉は無用、決着をつけようと互いにシンクロする。そして―――互いの思いが結実する。

 

 

亡き魂よ、共に暴れよう。

到達した神速の脚。

 

切望された大華

 

『メジロランページ、ここで伸びてきたぁ!!メジロランページがまだ行くまだ行く、凱旋門をBCクラシックを制した自分を舐めるなと言わんばかりの加速!!だがアグネスフローラもそれに続いていく!!エゲツないスピードだ、完全に二人の世界だ!!残り100を切ったぞ!!!第37回有記念を制するのは暴君メジロランページなのか!!それともアグネスフローラなのか!!どちらも負けていない、伸びていく伸びていく!!アグネスフローラはメジロランページを逃がさない!!まだ伸びるか、行けるか行けるのか!!?いやメジロランページ、世界よ見てくれこれが日本から世界を走りで制した暴君の花道、最後の栄光の戴冠式ぃぃぃっ!!!!メジロランページィィィィィ!!!

 

最後まで、暴君は暴君のまま終わりを告げる。最初から最後まで、先頭を譲ることもなく駆け抜けていった。30戦30勝、無敗を貫き通した。その走りに誰もが叫んだ、中山レース場が、日本が、世界が叫んだ。

 

『世界が叫んでいる!!世界が、拍手を送っているぅ!!!強い、これが世界最速最強のウマ娘、メジロランページ!!!二着はアグネスフローラ、三着にはメジロライアン―――っ!!?メジロランページラストラン、中山レース場芝2500、バ場状態良、そのタイムは――――!!!』

 

 

【2:28:4】

 

『最後の戴冠式でワールドレコードを達成しました、なんという引き際!!なんという強さだメジロランページ!!そして、これはアグネスフローラのタイムが2:28:5!!彼女もワールドレコードを叩き出すほどの走りを見せました!!第37回有記念、紛れもなく伝説となりました!!』

 

「―――っ」

 

また、負けた……だけど不思議とさわやかな気分だった。限界を越えた走りをした為か脚は鈍い痛みを発しているがそれが気にならないほどに……前に立つランページが振り向くと自分は思わず涙を流しそうになったがそれを堪える―――が、手を、差し出された。

 

「フローラ、最高のレースだった……あんがと、俺のライバルでいてくれて」

「……ズルい、ずるいですよぉっ引退するときになって、ようやく、面と向かってそんなごどいっでぇぇぇ……ランべージざぁぁぁぁあああん!!」

 

込み上げて来た思いと涙を決壊させながら飛びついた、普段なら避けられる展開なのに今回ばかりは避けずにランページはそれを受け止めた。それも相まって余計に涙が溢れて来てしまった。

 

「ライアン、感謝してるぜお前には」

「それなら……いう必要、ないよね?」

「応よ」

 

拳をぶつけあってから直ぐに握手をする。二人に余計な言葉なんていらないんだ。これだけでいい、と思った直後に次々とランページは飛びつかれた。

 

「ラァアアアアン引退じぢゃやだぁぁぁぁぁあ!!!」

「お姉様ぁぁぁぁあ……」

「ボクだって、ボクだって寂しいものは寂しいよぉぉ!!」

「マジそれなぁぁぁぁ!!」

「ランさぁぁぁぁん!!」

 

次々と抱き着かれる中でランはターフに倒れ込んだ、そんな様子を見ながらネイチャやイクノは涙ぐみながらも見つめていた。自然と空を仰いだ時に見えた空は酷く晴れやかで綺麗だった。その景色を、自分は一生忘れないだろう。

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