貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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290話

新入生の案内というある意味で最大級に脳を焼く行動をしたランページ、その中に混じるメジロの妹にウィンクをしつつも役目を全う。様々な視線を貰いながらもその日は既に予定も詰まっているので南坂に投げて自分はファイナルズ運営の為の方へと移った。まあ南坂もカノープスのチームトレーナーというカリスマ的な立場なのでウマ娘たちはそこまで残念がることはなく、むしろ模擬レースを実際に見る事が出来て嬉しそうにしていたので良かった。

 

「よしそれじゃあアグレッサーチーム・ネメシス主催の模擬レースを開始する、全員気合入れて走れよ。今回のレースには他のトレーナーも見に来ているからしっかりアピールしとけい」

『はい!!』

 

アグレッサーは訓練などで敵の役割を持った部隊である。秋川理事長が考案し、担当トレーナーやチームには入れていないウマ娘の能力向上とスケジュール管理による怪我防止を目的にした新設チーム。ネメシスに所属したままトゥインクルシリーズに出走する事は出来ない。アグレッサーの役割を越えてしまうから、主役になりたいのならばそのままここから羽ばたいていくしかないの。ネメシスに所属するという事はそういう事、自らの不幸を、幸せに変える。それを成す為に努力する。*1

 

模擬レースに参加するウマ娘たちは此処で実力を見せつけると気合を入れている中でネメシスの面々が円陣を組んでいることに気づいた。いったい何をしているのかと思った直後にメインアグレッサーのサンデーが大声を張り上げた。

 

「いいかお前ら、お前たちは確かに敵役だ。だからどうした、敵が主役になっちゃ悪いなんてことはない。主役を喰らえ、座を勝ち取れ、お前らは負けに来たんじゃない、勝ちに来たんだ!!テメェの不幸をテメェで幸福に変えろ!!」

『チームネメシス!!YA-HA-!!』

 

気合を入れる咆哮が空へと駆け上がっていく。まるでスポーツチームの掛け声だ、レースは個人戦であるのにも拘らずにこれを取り入れたのはサンデーサイレンス。そう、ここにいるのは明確なライバル同士、それぞれが主役を奪い合う者同士、境遇は同じ、トレーナーにスカウトされずに悔しい思いをした者同士が集う。だからと言ってもレースとなればそれは無関係になる、何時までも仲良しではいられない、だからこそ発破をかけた。自分の運命を自分で変えるために。

 

「まるでアメフトだなおい、勝ちに来たんじゃなくて主役を殺して奪うために来たんだって言わなくて俺はホッとしてるよ」

「―――ああそっちの方が良かったな、変えるか」

「やめろ教育に悪いわ」

 

サンデーの相変わらずの荒々しさに溜息混じりにタブレットを弄っているランページ。統括チーフとしてチーム全体の練習メニューを組んでいるのはランページ、それを受け取ったサンデーがそれをその場でアレンジしつつ施し、現地でランページがそれを修正しつつ自分のコネで来て貰ったウマ娘かトレーナーに細かな部分の指摘や練習に付き合ってもらうというのがネメシスの基本的な流れ。

 

「よっ本格始動だなアグレッサー、全員良い顔してるし身体のバランスもいいな」

「流石変態、目の付け所がシャープだぜ」

「褒めてんのか貶してるのかどっちかにしろ」

「どっちもじゃない?」

「だろうな」

「順当ですね」

「お前らぁ……」

 

そんなランページの下へとやってくる沖野、東条、黒沼、南坂というトップトレーナー陣。新人トレーナーとは思えぬほどのトップ層に囲まれる光景は今年度からの新人トレーナーからすれば戦々恐々とする光景である。ランページからすればそれなりの付き合いのある大人達ゆえに緊張何で皆無。

 

「それでチームの方針は?」

「カノープスを基礎にしながらもサンデーさんがケツを蹴り上げる感じ。此処を踏み台にするんだ基礎がガタガタじゃ話にならねぇよ」

「それだと俺たちからすると有難い話だな。基礎を教え込むのって時間かかるからな、その短縮にも基礎体力があると段違いだ」

 

アグレッサーも基本としているのはカノープスの基礎重視のスタイル。そもそもがチーム入り出来なかったりスカウトをされないというウマ娘に共通していると言っていい程に足りていないのは基礎部分。レベルも能力値も足りないのに無理をして応用を覚えようとして失敗し続ける子が多かったのでサンデーと話し合った結果、基礎重視の構えを取る事になった。

 

「それじゃあ、新人トレーナーメジロランページ一押しの子は誰かしら?」

「そうですねぇ……あいつ、かな」

 

ハーブシガーで示したのは一人のウマ娘、人一番気合を入れてゲートに入った。が、それが一転してゲートの中では先ほどまでの血気盛んな雰囲気が一気に沈静化してそれらを一点の闘志へと凝縮させているのがよくわかる。そしてスタートするとスタートダッシュを決めながらもウチの良い位置に付きながらも前のウマ娘の背後でスリップストリームを取って体力を温存していく。

 

「良い目してんなぁ……」

「ああ。直前までは敢えて制御せずに自分を昂らせてたがゲートに入ったら一気にそれを沈めた。自分を完璧に制御出来てる証拠だ」

「身体のバランスも良かったですね、下が強すぎず上が弱すぎずのいい塩梅のバランスに仕上がってますね」

「スタートも上手かったわね、立ち位置もなかなか……」

 

トップトレーナーの面々からの評価は中々、他からもあれが本当にスカウトを得られなかったウマ娘たちなか、と信じられないと言いたげな声が聞こえてくる。事実として今走っているレースで先頭から4人はネメシスのメンバー。他は既にスカウトを獲得していたり自分の実力を確認、スカウトを得る為にいるネメシス未加入のウマ娘。

 

「最後の直線、おおっスゲェ良い末脚じゃねえか!!」

「いや先頭の奴も中々だ」

「これは二人の根性勝負ですね」

「これはどっちかしら……」

 

他のネメシスメンバーも悪くはない、寧ろ良いがこのレースに出走している中ではこの二人が飛び抜けているといってもいい。そのまま二人は縺れ込んだまま最終直線へと入った。そしてそのままドッグファイトに入った戦闘機のような殴り合いを行ったままゴールへと駆け抜けた。結果として3着とは6バ身差だった。

 

「うわああああっ勝負所ミスったぁぁぁぁ!!?」

「またあの二人に出し抜かれたぁぁぁ!!!」

 

3着と4着の慟哭が木霊する、内容としては決して悪くは無い筈だが二人からすれば絶対に勝ってやる!!と思っていた筈なのに敗北を決したのだから悔しがるのも当然だろう。だが、そんな二人にもトレーナーが数人向かっているので悪くはないと思っていたらほぼ同着の二人が駆け寄ってきた。

 

「チーフ勝ったのアタシですよね!?アタシが勝ちましたよね!!?」

「抜かしやがれ俺に決まってんじゃねえか!!なあっチーフこいつに言ってやってくれよお前の負けだと」

「チーフに対してその口の利き方は何とかならないわけ!?後勝ったのはアタシ!!」

「俺だっつの!!」

「あ~はいはい、二人とも落ち着け。勝ったのは―――お前だ」

 

ゴール地点に置いてあった赤外線センサーで確認した結果―――勝ったのは後ろから追い上げていった方だった。

 

「やったぁ~!!見なさいやっぱりアタシじゃない!!」

「ッソがぁぁぁぁ!!!」

 

一方では見事に主役を喰らいつくし、一方は喰らいつくされた悔しさに叫びをあげる。これがネメシスのウマ娘、そんな二人を見ながらも直ぐにスカウトが発生した。

 

「いいかしら、貴方をスカウトさせて貰いたいわ」

「俺はお前をスカウトしたい」

「俺はあっちに行ってくるわ、磨けて超光るぜ」

 

沖野は3着のウマ娘をスカウトしに行った、東条は2着、黒沼は1着のウマ娘に対してスカウトを敢行。スカウトされたことに思わず二人は先程まで喧嘩していた顔を見合わせてしまった。そして直ぐに抱き合ってお互いに褒め称え合いながら全身で喜びを表現した。

 

「チーフッスカウト貰えましたぁ!!これも全部チーフのお陰です!!」

「マジで感謝してるぜチーフ!!サイさんにも伝えてこねぇとな!!」

「応。おめでとう、見事に主役になったな」

 

統括チーフとして二人に激励の言葉を掛けるランページを見て南坂は思わず微笑んでいた。そして同時に数年後が怖くなってきた、彼女にはしっかりとトレーナーとしての才もある、何れ独立して自分のチームを立ち上げた頃が怖い。

 

「それでは、オフサイドトラップ本日付けを以てアグレッサーチーム・ネメシスを卒業致します!!」

「同じく、ネメシス所属ジェニュインも卒業致します!!」

「二人の健闘を祈る、本当の主役になってこい!!」

「「了解!!」」

 

自分に出来る事を精一杯にしたい、それがランページの夢でもある。

*1
チームの名前には星の名前を使われることが多いが、この場合のネメシスはギリシア神話における女神ネメシスを指す。人間に幸・不幸を配分し度を超えた繁栄や傲慢に対して神罰を与えると言われる。

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