貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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292話

『乾杯~!!』

 

昨今飲みニケーションというものは減っているという話はあるが、トレーナーの業界ではそれは全くない。教育者というのは良くも悪くもストレスがたまる、それを発散させるという意味で美味しいものを食べながら酒を飲むというのは優れている。加えて新人トレーナーからすれば飲みの席だからこそ話しかけやすいし酔いも入って普段は堅物で話しかけづらいトレーナーから話を聞けたりもするのでプラスの面が多い。

 

「砂肝とレバー、あと日本酒追加で」

 

そんな飲み会の席に混ざっているランページ、彼女もトレーナーなのでこういった席にも参加する。そして平然と酒を飲んでいる、周囲は一瞬驚くがしっかりと成人しているので全く問題。その証拠だと言わんばかりに大ジョッキで注がれたビールを一瞬で空にして勝手に追加をオーダーし始めた。

 

「あ、あの~本当に成人済みなんですよね?後で問題になるとか、ないですよね……?」

「疑り深い姉ちゃんだなぁ……んじゃ俺一人で勝手に会計済ませて別の店で飲むぜ、おでん屋台辺りで」

「チョイスが渋いのは何なんだよ……問題ねぇよたづなさんに確認してそのことは確認済みだ」

 

同じ今年からの中央配属が決まった新人トレーナーはランページが平然と酒を飲んでいることに僅かな不安と心配を浮かべる。まあ年齢うんぬんよりもこの前まで現役バリバリだったウマ娘だから未成年という印象があまりにも強いのだろう。沖野の言葉を受けて納得したようにチビチビとウーロンハイを口にする。

 

「そ、それにしてもあのメジロランページさんと一緒の飲み会にいるって凄い、感覚ですね……」

「否定はしねぇな、何せ最速最強のウマ娘だしな」

「今はトレーナーとしてここにいんだけど、まだ実績も何も作ってねぇただのサブトレだぞ」

「アグレッサーの統括チーフが何言ってんだよ」

 

トレーナーとしての実績は確かにないかもしれないが、既に明確な立場はあるので下手なベテラントレーナーよりもずっと上にいる。アグレッサーの統括チーフには多くのトレーナーが打診を受けたが、その殆どがサンデーサイレンスとの相性が悪く就任出来なかった。そんなランページを好ましく思わないトレーナーはいるにはいるが……それだけのことを自分の力で成してきたランページに表立って何かを言えるわけもなく、裏で何かをしようとしてもランページは直ぐに証拠を揃えて裁判などを起こす奴なので恐れて何も出来ないというのが現状。

 

「ンでよ、酒の肴に海外遠征の裏話提供してくれるって言ったじゃねえか、何を提供してくれんだ?」

「レディとダイナのボディガードが元SASとグリーンベレーだったとか」

『何それ怖い』

「睡眠時無呼吸症候群?」

「よくそれ出てきたなおい」

 

その他にもアイルランドのパーティの事やら、ドバイの首長陛下とは今でも連絡を取り合っていたりとか世界を相手に戦ってきたランページならではの話が次々と出てくる。トレーナーとしては貴重な体験談と話を聞けるので誰もが酒を手にしながらも真剣にその話に耳を傾けていた。

 

「なんつうか、スゲェ話聞いちまったなぁ……酒の肴目的だったのに聞き入っちまったぜ」

「他で海外の事情を聴こうと思ったらシリウスシンボリぐらいしかいねぇからな、無理もねぇさ」

「聞いてみりゃいいじゃん」

『出来るかぁ!!』

「んじゃスーちゃんに連れてくるわ今度」

『やめろぉ!!』

 

さらっとビッグネームの名前が出てくるのもランページの特徴だろうか……それにスーちゃんはランページが連絡すれば普通に予定を教えてくれるだろうし飲み会にも来てくれるだろう。一応トレーナーの資格はあるのでトレーナーの飲み会に参加する事は出来るから余計に性質が悪い。そんな空気を打ち破るように飲み直すぞ~!!と皆が騒ぎ出すのを尻目に追加したぼんじりと砂肝を口にする。

 

「皆貴方の話に興味津々で手が止まってたものね、これは更に酒が入るわね」

「弁えてれば良いんじゃねえですかね、どうせそれで苦労するのはテメェですから。大人になってその辺りに管理出来ない方が悪いですから」

「正論ね」

 

隣に座り直してきたおハナさんと話しながらも日本酒を口にする。アニメではよくバーに行っている印象だからこういう普通の居酒屋にその姿があるのは意外だった。

 

「それにしても、貴方そんなに飲んで大丈夫な訳?」

「知らねぇですけど大丈夫でしょ」

「まあ傍から見ても酔っている風には見えないものね……蟒蛇の血筋だったりするのかもね」

「あ~……母さんはそうだったような気がする」

 

思えば母は酒豪だった気がする、呆れるほど飲むのに二日酔いをしているところを見たことがなかった。確かワク、と父が言っていた気がする。その系譜だと自分が酒に強くも不思議ではない。

 

「それと貴方には早めにチーム設立の打診が来ると思うわよ」

「そういうもんすかね」

「そういうものよ、理事長としては優れた人間にチームを持たせてその素養と技術を教え込んでほしいでしょうからね。そうすればスカウト待ちの子も減らせるし」

 

理事長からもそういう話がなかったわけではない、と言っても体面的な問題で直ぐにチームを持たせることは難しくサブトレーナーとしての実績を重ねていくことも必要なのだがランページは既にアグレッサーの統括チーフという立場からウマ娘を育てている。そのことを配慮すれば普通にサブトレーナーの経験を積んでからチームを設立するよりもずっと早く許可は下りることになるだろう。

 

「仮にあなたがチームを持つことになったとして、どんな子を育てたいかしら」

「ンなもん、その時になってみなきゃわからねぇっすよ。今あの子が良い思っててもそいつは他にスカウトされる可能性は高いしどんどん先に進んでる、自分の理想だけ語ってその通りにならないのは当たり前の事です」

「だから仮に、って前置きしたのよ。貴方若いのに達観し過ぎじゃないかしら」

「楽な人生じゃなかったもんでね」

 

そう言いながらも日本酒を飲み干して熱燗の追加を頼む。折角酒が飲めるようになったのだから飲まなきゃ損である、来るまで冷を呷りながら考える。どんなウマ娘を育てたい、改めて考えてみると一つの答えにしか到達しない。

 

「俺は夢を育てたい」

「夢?」

「俺にとっての夢、走るウマ娘の夢を育てたい。そいつが望むなら俺は何処までもサポートしてやるつもりですよ、たとえそれが凱旋門の舞台だろうともね」

「あの最悪の凱旋門制覇ウマ娘が言うと頼もしいわね、さて熱燗も来たみたいよ乾杯しましょ」

「うっす」

 

今はトレーナー同士として盃を傾ける。自分取って初めての育成ウマ娘は一体誰になるのだろうか、楽しみでわくわくする。これがトレーナーという奴かと思いながらも酒を飲むのであった。

 

『あ、頭いてえ……』

「言わんこっちゃねぇでやんの、自己管理も出来ねぇで酒なんて飲むなよな」

「そういう貴方もバカみたいな量飲んでなかったかしら……?」

「俺はワクだから良いんです」

『これが若さか……』




ワクというのは簡単に言えば、酒の強さの事。

うわばみ<ザル<ワクの順らしいです。ワクはザルの網目のようにそもそも引っかかる場所すらない大酒飲みの事を指します。
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