貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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299話

「そうだそのまま。ペースは一切落とさず上げず、絞めず緩めず、維持が無理だと判断したら直ぐに言うんだ。いいか直ぐにだ」

「はいっ」

 

その日のうちからランページはスズカのトレーニングに入った。あのランページが担当を取ったという話は一瞬のうちにトレセン中に広がった、そして一体誰なのかと、いったいどんなウマ娘なのかと欲求を刺激した。カノープスの練習の傍ら、サブトレーナーとしての役目も果たしながらランページはスズカにメニューを課してそれを見つめていた。

 

「ラン、あれがランがスカウトした奴なの?カノープスの新人!?」

「いや俺自身がスカウトした、だから俺の担当だからカノープスの所属ではないな」

「でもランはカノープスのサブトレーナーでその担当だから、あれでもカノープスの所属じゃなくて……あれれ?」

「シンプルにややこいよな、ほんま」

 

ターボの言いたいことは分かる、実に面倒だ。一チームのサブトレーナーが担当を取るという事の面倒さが伺える。そんな中でも黙々と走り続けるスズカに注目は集まり続ける。あれがランページが初めての担当として選んだウマ娘なのか、どんな走りをするのか、脚質は、技術は、身体能力は、様々な物がそれを知りたがる。それは当然ウマ娘だけではなくトレーナーも同様。

 

「おい南坂教えろよ、マジでどういうウマ娘なんだよ」

「私も興味あるわ」

「同じく」

「と、言われましても……私も詳しくは知りません」

 

沖野、東条、黒沼といったトップトレーナーもランページのスカウトには驚いていた。少なくとも数年、最低でも今年いっぱいはサブトレーナーとしての役目に徹しているとばかり思っていた。そんな所に訪れたスカウトの報、これに驚かずして何に驚けというのだろうか。

 

「俺も興味、あるな」

「六平さん貴方もですか」

「嬢ちゃんにはオグリの件で世話になったもんでな」

 

オグリキャップのトレーナー、六平もランページのスカウトには興味が尽きない。一体どんな走りをするのか、それを少しでも聞こうと彼もこうして南坂の下へとやってきていた。

 

「ランページさんも迷っていたようですが、決めたそうです。自分のやりたいようにやると」

「そうか。それが一番強いな、分かってるんだな無意識で」

 

やりたいからやる、余りにもシンプルなスカウトの理由、三冠を取りたい、栄光を掴みたい、それらのもっと前。ただ育てたいと思ったからランページはスズカをスカウトした。

 

「でもなんであの子をスカウトしたのかしらね、他にも有望な子はいた筈」

「それこそネメシスの中からしても可笑しくはなかっただろうにな」

「トラップもジェニュインよりも、あの新入生を選んだ理由があるのかもな」

「そうじゃなきゃ唯の直感だろう」

 

 

「維持、出来ません……」

「よし15分休憩、思った以上に持久力と根性はあるな。まあ俺ちゃんの走り込みに着いて来れるんだから当然だな」

 

止まったスズカを休ませながらもランページは手持ちのタブレットに情報を打ち込む。思っていた以上にサイレンススズカというウマ娘の能力は高い、トレーナーという職に就いて様々なデータに触れた今だからこそ理解するものも多い。競争ウマ娘として駆ける以上に相手の能力を事細かに理解し表現出来る。

 

「凄い、人ですね……」

「皆の視線を独り占めだなスズカ、如何だいご感想は」

「ええと……皆さん、お暇なんですね」

「この子言うわぁ」

 

何をいうかと思えば……一部には突き刺さり、一部には戸惑い、呆れ。かくいうランページも同じではあるが……胆力があるというか天然というか……メジロランページが担当に選んだからこそ見に来ている者たちに対して暇とは……。

 

「次はどうしましょう」

「今の瞬発力とスピードを見る、いうなれば加速力と最高速度だな」

「分かりました」

「まだ休んでなさいって、まだ10分はある」

 

走りだそうとする彼女を制止する、意欲はある事は良い事だが走る事への欲求が強すぎるのは自分の知っているサイレンススズカと何ら変わりない。まだ可愛げはあるが、彼女は先頭民族とすら言われるほどの存在、多分辟易する日も遠くないのだろう。

 

「周りの目は気にしなさんな、どうせデビューしたらこれの数倍は保証されちゃうんだからな」

「数倍……はい、私は気にせずに景色を見る為だけに走りますね」

「その意気だ。んじゃスタート準備に入ってくれ」

 

休めていた身体を起こし、軽くストレッチをしながらスタート準備に入るスズカ。それを見つめる視線の中には沖野も居る、そんな視線を受けながらもランページは少しだけ罪悪感を感じなくはなかったがそんな物は認識しないように努めることにした。借りてきたスタート練習用の一人用のゲート、それに嫌がりつつも入った。

 

「んじゃ―――スタート!!」

「ッ!!」

 

振り下ろした腕と声に反応してゲートが開け放たれた、だがそれから少しだけ遅れて彼女はスタートした。ゲートに反応するのはこれから練習すればいいしゲートが嫌いなウマ娘なんていくらでもいるから別にこれは可笑しくない、可笑しくはないが―――矢張り走らせたときにそれは思う。

 

「やっぱり伸びがスゲェな」

 

スタートからの加速の伸びがエグい、僅か数歩で加速の形成が完了している。どうやれば自分の脚が速く走れるのかというのを分かっている。

 

「どうでしたか?」

「まずスタートからの加速がエグい、俺でも少しずつギアを上げて加速していくけどお前の場合は一歩ごとにギアを変えられてる。ある意味で加速の理想形だな……助走が必要ない、これ活かさない手はないが―――問題点もある、まずゲートが苦手だな」

「は、はい」

 

恥ずかしげに肯定する。だがこれは4年も期間があることを考えれば自然と克服出来る程度の問題、だからこれは上げるとすれば程度の問題点。それ以上の問題は―――

 

「だがここまで加速の仕方が上手いとなると問題は負担だな……予定通りに基礎トレーニングで地盤を固めつつ、俺の技術を叩き込む」

「分かりました」

「それとスズカ、ゲートなんざぁ大っ嫌いでいいからな」

「えっ?」

 

スズカは間抜けな声を出した。ゲートは確かに嫌い、何であんな狭苦しくて息苦しい閉塞感の極みのようなところに押し込められなければならないのかとすら思う程に嫌い。だがトゥインクルシリーズに出るためにはこれも克服しなければ……と思っていたのだがランページはそれを否定した。

 

「別にいいんだよ嫌いのままで、大事なのは克服じゃなくて折り合いをつける事、つまり妥協だな」

「だ、妥協ですか?」

「そう。逆に考えてみ、スズカは走ってる最中の疾走感とか風を切って走る感覚とか開放感が好きなんだろ?」

「はい!!」

 

ノータイムで良い笑顔の返事が返ってきた、それに自分もそれが好きだと返すと更にしっぽが機嫌よさげに揺れた。可愛い奴め、後でイチゴ大福を奢ってやろう。

 

「だったらゲートは開放感を倍増させるためのもんだと思えばいい、サウナ後の水風呂みたいなもんだ」

「……そういう考え方、したことありませんでした。もしかしてランページさんもそういう感じでゲートを克服してたんですか?」

「いや俺は別にゲート嫌いじゃなかったし、狭い所とか嫌いじゃないし」

「うそでしょ……!?」

「そんな衝撃受けます?」

 

 

「……」

「如何したのエアグルーヴ、何かあった?」

「なんでもない!!自分の使命を果たせ、早く私の練習を見ろこの戯け!!」

「なんで心配しただけなのにこんな怒られるんだろうか」

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