貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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03話

これまでの人生でも入院生活という物は経験した事は無かったので何処か新鮮味を感じていた、だが思ったよりも自分の入院は長引いていた。理由としては少しの間とはいえ完全な意識不明状態で何時目覚めるかも分からない状態だった事と栄養失調状態だったから。

 

「栄養失調って……ラン、そんなに食べてなかったの!?」

「いや食べてたと思うけど」

「因みに何を食べたかなど覚えてますか?」

「あ~……はんぺんともやしの炒め物」

「―――えっそれだけ?」

「いや、偶の贅沢でニンジンも入れてたぞ」

 

記憶の中にある食事と言えばこれだった。ハッキリ言って金銭事情は想像以上に芳しくなかった、父と母の遺産は叔父と叔母に持ち逃げされてる上に自分は今中学なので出来たバイトは夕方の新聞配達程度だった。そこから光熱費や家賃に食費などを差っ引くと……本当にギリギリ食べる程度しか残らなかった。タマモクロスも吃驚な状況が続いていたのである。

 

「―――主治医、私ちょっと出て来るね……おばあ様の所に行って来る」

「はい、私からもお話を通しておきます」

「うんお願い、ランちゃんと寝てるんだよ」

「アッハイ」

 

そんな話をしたのが退院予定日の三日前であった。取り敢えずこれからどうしようかと色々と思案を巡らせる必要がある、だが年齢が想像以上にネックである。本当に引き続き新聞配達をする位しか手段がない……今は身体を休める事を集中するしかないか……と思いながらも点滴を見つめるのであった。そして―――

 

「ラン!!ウチにおいでよ!!」

「ライアン、此処病院だぞ」

 

扉を凄まじい勢いで開けながらも此方を見つめてキラキラとした表情でそんな事を言ってきたライアンに対してそんな事を言い放つのであった。

 

「えっ俺がメジロ家に?」

「うん、おばあ様からの許可も取った!!」

 

どうやらライアンはメジロ家の当主であるおばあ様に友達を暫くの間ウチにおいて欲しいと直談判しに行ったらしい、そして話を聞いたおばあ様も暫しの思慮を巡らせた後に、許可を出してくれたとの事だった。なので退院後はメジロ家の御厄介になっていいと話してきた。

 

「あ~……いや、気持ちは嬉しいけどさライアン……流石に悪いわ」

「気にしないでよおばあ様だって、将来あるウマ娘をそのような不幸に屈させる訳には行きませんねって言ってたから」

 

ウマーン様、ではなくおばあ様はそんな事を言ったのか、と思うがハッキリ言ってこの申し出は果てしなく有難いのは事実だった。だが本当にこれを受け入れてしまって良いのだろうか……という思いもある。ランページはこれまでの辛い境遇の中でライアンというウマ娘をメジロライアンとして見た事は一度も無かった。唯の友達として接してきた、彼女の力を利用するような事をしなかった。

 

「つっても、アパートの事とかあるし」

「そっちはもう大丈夫だよ、此方で処理しておきましょうって言って貰えたから」

「それもう俺の承諾いらないんじゃないですかね」

「遠慮しないで、友達を助けるのは当たり前だから」

 

そう言いながら手を握り込んでくるライアンの瞳は何処か潤みを帯びながら、拳は何処か震えていた。

 

「お願い、助けさせて……」

「―――テーブルマナーとか全然分からないぞ俺」

「っ大丈夫、全部教えたげるから!!」

「ごめん、お世話になります」

 

ライアンの気持ちを無駄にしない為にそれを受け入れる事にした。ランページは自分の問題は自分の事だと、彼女に打ち明けずにいた。だがそれはライアンにとっては心苦しかったのだろう、自分が助けてあげれば自殺を図る事なんてなかったかもしれないという後悔が付き纏い続けている。だから今度は自分が……下手に食い下がる事はせず、ライアンの申し出を受ける事にする。

 

「此処が、俺の家か……」

 

退院すると一旦アパートへと向かい、荷物を整理する事にした。自分の自宅は普通の安アパートだった、その一階の一室……そこが自分の居住空間だった場所だ。既にそこはメジロ家の手が回されて解約手続きなどが成されている、後は荷物を運び出すだけ。

 

「―――行きますか」

 

そう言いながらも扉を開ける、低い音と共に開けられた扉、その奥に広がっていたのは……狭いアパートの一室、狭い部屋の中に置かれた年代を感じさせる家具などが置かれている、一見整頓されているように見えるが、部屋の中央は酷く荒れているように見える。片付けは得意なのか苦手なのかと思っていたが、不意に上を見ると天井から千切れたと思われるロープが垂れていた。

 

「……ああ成程、此処でランページは自殺したのか」

 

きっと、荒れているように見えるのも部屋にやってきたライアンが必死になって降ろそうとした結果なのだろう。

 

「……何も思わない俺は何なんだろうな」

 

確かに此処で自分は住んでいて自殺を図った、だがそれ以上は何も思えなかった。それは自分がそれまでのランページではないからだろうか。取り敢えずライアンを待たせているのでこのまま荷物を纏めてしまおうと整理を始める。

 

「確かに、此処にはライアンは来たくないよな」

 

ライアンは近くで待つと言っていた、プライベートな物もあるだろうからと言っていたが彼女にとってここは自分が首を吊っていた場所。その時の事を思い出したくはないだろう。そして荷物の整理は1時間を経たずに終了となった。自分の荷物は極めて少なかった。下着やらを含めても3~4日分程度の物しかなかった。

 

「私物も少なっ……」

 

本当にこれが女子中学生の持ち物か、と言いたくなるレベルには酷いラインナップだった。それだけ苦労していた事が窺える……そして必要な物を全て纏め終えると荷物を担ぐ、このまま部屋を出ればランページは本当の意味で新しい一歩を踏み出す事になる、本当に良いんだなと何処か自分に問いかけるように思う。

 

―――うん、後は自由に生きて。

 

「っ!!」

 

不意に、そんな声が聞こえてきたがしたので振り向くが、そこには何もない。気のせいだったのだろうか……それでも何故か胸が軽くなったような不思議な気分になっている自分が居る。

 

「……分かったよ、達者でな」

 

そう言い残して、これまでの人生を振り払うように一歩を踏み出した。そこにあったのは自分を待っていたライアンだった。

 

「待った?」

「ううん、もう良いの?」

「もういいよ」

 

一度振り向いて、かつての自分が居た場所を見つめながら呟く。

 

「ランページ、その名の通りに暴れ回れるように生きるよ」

「ランなら出来るよ、必ず」

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