貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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30話

年末、シンシンと雪が降りしきり始める12月の阪神レース場。当日の朝から降り始めた雪はそれ程迄激しくはない、それ故に実施が決定されたが肌を突き刺すかのような寒さが襲い掛かって来る。それでもレース場は異常な熱気に包まれている、ここで行われるのはG1。最高グレードのレース、そのレースを見る為に多くの人が阪神レース場へと足を運んでいた。

 

「うぅぅぅさぶぃ~……」

「大丈夫ターボ、ほらココア買って来たから。トレーナーさんも」

「すいませんネイチャさん」

 

この日気温は雪の影響もあってか二桁にも届かない程に低い、最高気温は4度で最低気温が0度と言う有様。パドックでは既に勝負服を纏ったウマ娘達が入念なウォーミングアップを行っている。勝負服はデザインやドレスやスカートといった肌を露出させた系のものが多い為に見ている方が寒さを感じる、ターボの震える声も納得の状況である。だが、当の本人達は勝負服から力を持っているのか、震えているようには見えない。

 

『さあ一番人気の登場です、2枠3番―――ランページ!!』

 

パドックへと姿を現したランページの姿を見て観客たちは思わず息を呑んだ、そこにあったのは他のウマ娘達のような煌びやかなドレスや可愛げのある勝負服などではなかったからだ。寒風に靡くロングコートを肩に掛けながらも悠然と歩きだし始めた、黒と赤のロングパンツに純白のシャツを纏ったウマ娘。美しさではない、そのウマ娘から感じられる凛々しさと猛々しさに言葉を奪われていた。そして―――肩に掛けていたロングコートに手を掛け、一気にそれを脱ぎながらも片手でそれを肩に担ぐように構えると、不敵な笑みで静かに言った。

 

「―――待たせたな」

『おおおおおおっっ!!!』

 

その言葉がスイッチとなったのか、パドックは観客たちの大歓声が上がった。これまでもボーイッシュなウマ娘はいたが、此処まで振り切った勝負服を纏ったウマ娘はいなかった。それを完璧に着こなしながらも心を鷲掴みにする入りをした彼女に誰もが魅了された。

 

「カッコいいぞ~ラ~ン!!」

「キャ~素敵~!!」

「よっイケメン~!!」

「応援してますよ」

「応、ネイチャは後で覚えとけ」

 

そんな言葉をカノープスの面々に送りながらもパドックから引っ込む、その時に他のウマ娘からの視線を一身に受けたが全く気にも留めない。1番人気なのだからマークを受けるのは当然なのだろうから、寧ろ望む所だ。

 

「ウェ~イ!!ランってばその勝負服マジヤバくね!?」

「おっなんだヘリちゃんも来てたのかウェ~イ」

「ウェ~イ!!」

 

様々な視線を受けながらも、コートを着直しながらもヘリオスとの雑談に勤しんだ。そして―――遂にレースの時が来た。

 

 

『雪が降りしきる寒空の阪神に新たな女王を目指すウマ娘達の熱き心が揃う!!クラシックへの道、阪神ジュベナイルフィリーズ!!』

 

いよいよゲート入り、その時がやって来た。雪の影響もあってバ場状態は重バ場、不良にならなかっただけ良かったと思うべきだろうか。寒風が身へと降りかかってくるがその程度でこの闘志は揺らぐ事などはあり得ぬのだ。それぞれのウマ娘が強い想いを抱きながらも出走したこのジュベナイルフィリーズ、その想いが強い者こそがこの戦いを制する―――ならばそれは自分だとそれぞれが思う。

 

『来年の春を見据えて、阪神ジュベナイルフィリーズ今―――』

「―――さあ、今日もやるぜな」

『スタートしました!!』

 

勢い良く開いたゲート、全員がスタートを切った。ややバラつきが目立つスタートだがその中でも矢張りと言わんばかりに飛び出す影があった。

 

『早速飛び出したのは好スタートを切ったランページ、しかし今回は先頭争いが早くも激しくなっているぞ。ランページの後方に付きますのはダイタクヘリオス、コクヨウデーア、シルバーベター。この4人のウマ娘が先頭でペースを作ろうとしています』

『1番人気のランページをマークし逃げ切らせないつもりなのでしょうね、それが吉と出るか』

 

「今回ばかりはさせない!!」

「このG1でも独裁が通じると思うなよ!!」

「ウェ~イ今日は色んな逃げが居てたのすぃ~!!」

 

一人を除いて逃げウマ娘は完全にランページをマークする作戦に付いた。これまで大逃げをし続けて来たランページ、だが此処ではそうはさせないと言わんばかりの気迫が感じられる。ヘリオスだけはマイペースに逃げている、何方かと言えば脅威を感じるのはヘリオスだ。自分だけを見ている奴らなど脅威ではない。

 

『さあ前半を44秒で通過!!これはかなりのハイペースだぞ大丈夫なのか!?先頭を維持し続けるランページは今日も気儘な独走状態、後方からの追撃もなんのその、今日も独裁で超ハイペースで走り続けております!!』

『このバ場でこれだけのスピードを出せるとは、かなりのスタミナとパワーですね』

 

バ場が重くてパワーが必要、舐めるなよ自分がこれまで何を使ってトレーニングをして来たのかを見せてやる。そう言わんばかりにランページは4コーナーに入る前に姿勢を低くし始めた。そして膝と脚に力を籠める、そのまま一気にそれを解き放って激走する。

 

『此処でランページがスパートを掛ける!!第4コーナーに入る前に勝負を掛けた!!速い速いぞ後続のコクヨウデーア、シルバーベターも必死に追いかけるがダイタクヘリオスに突き放されていく!ダイタクヘリオスだけが追いかけられているが、ランページが、ランページが今最初にコーナーを越えて行く!!』

 

「さあ、俺を観ろ!!」

 

ラストの直線に入って更にギアを上げる、ヘリオスとは6バ身程。それ以上は開かない、彼女も笑いながらではあるが凄まじい脚を見せている。それでも追い付けない程にランページは駆け抜けていく。

 

『スタンドを揺るがすこの大歓声!!民衆が求めるは彼女の独裁!!独裁者ランページ今はゴールイン!!師走の阪神の女王となったのはランページ!!暴君なれど名君なり、独裁者ランページが女王として君臨したぁ!!』

 

大歓声に包まれるレース場、誰もがそれを望んでいたと言わんばかりなので肝心の女王は少しだけ笑っていた。

 

「やっは~ランってばマジやばくね!?最後の走りとかウチまでテンアゲで笑っちゃったもん!」

「あんがとよヘリちゃん。そっちこそよくこんなバ場でついて来れたな」

「ハハハッ根性根性♪ウチの魂はこの程度じゃ萎えないっしょ!!」

 

2着に入ったヘリオスが笑いかけて来る、彼女の走りも見事だったがそれを振り切る事が出来た。自分のペースで逃げたヘリオスは2着だったが、自分に合わせて最高速度を超えて走ってしまったが故にコクヨウデーア、シルバーベターは大きく沈んでいった。矢張りマイペースで走るというのは強みなのだろう。

 

「んじゃ、ライブはもっとテンアゲっしょ!!」

「だな」

 

ランページは少しだけ歩くとそのまま何時ものリザードンポーズを取った、そしてロングコートを脱いで肩に担ぎながらもウィンクを飛ばした。

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