ランページが会わせようとしていたのはマルゼンスキー。もともと担当を取ったというので興味を持って会わせてほしいと頼まれていた。今は一旦ランページの家までやって来ていた、問題かもしれないが助手席にランページ、その膝の上にスズカという態勢で移動を行った。スズカが中等部で助かったと思わず思った。
「う~ん良いわねぇこのインプレッサ、特段カスタマイズしてる訳じゃないけど足回りは丁寧にメンテされてるわね。これで峠を攻めたら中々スリリングね!!」
「え、ええっと……?」
「ウマ娘で言えば勝負服じゃなくて蹄鉄とか靴に注力してるって言えば分かりやすいか?蹄鉄を軽くしたりとか」
「あっそれなら」
二台は止められる駐車スペースに止められた真っ赤なカウンタックに真っ青なインプレッサ。その間に挟まれながらもインプのタイヤなどを触りながらも調子を確認する、それをスズカも眺めながらもよくわからなそうに耳を回している。
「インプレッサってね、WRCっていう車のレースの世界大会に出るような車種なの。だから元々がモンスターマシンって言っても過言じゃないのよ、だから下手に弄るとバランスを崩しちゃうから足回りを調整するだけでもかなり個性が出るの、この辺りはウマ娘とトレーナーの関係とも似てるわね」
「なんとなくですけど、分かるような気もします」
「無理に理解しなくていいからなスズカ、ンでマルゼン姉さんはこれからの予定は?」
「モチッ峠を攻めに行くわよ!!」
「ああっやっぱりか……はいはい分かった分かった」
それはそれでどうかと思う訳だが……実際これで自分はコーナーリングのコツを掴んでいるのだから何とも言えない。それをスズカにも押し付けるのはマズいので流石に強制はしないしマルゼンスキーから話を聞いたりするだけでも十二分に価値があると説得してみるが
「折角なので体験してみたいです。マルゼンスキーさんとランページさんのその峠攻め?興味あります」
「ああそう……まあそれなら一応外泊届は出してあるから今日は泊まってけ、んじゃ夕飯の買い出しでもしますか」
「あっそれじゃあランちゃんのインプ運転させてくれない?タッちゃんだと3人での買い出しに向かないし」
「無茶な運転だけはしないでくださいよ?」
キーを投げ渡すとモチのロンよ~♪と如何にもらしい返答をくれた、大丈夫かなぁ……という不安を感じつつもスズカと共にインプに乗り込む。
「そう言えばランちゃんはカノープスの方は良いの?」
「今更な言葉っすね……まあ大丈夫っしょ、問題はフローラの奴に任せてありますし」
「―――という訳でこれが私の歴史、ランページさんとの勝負の結果、モノの見事に大敗北の連続の大惨敗」
トレセン学園の空き教室、そこを借りてTVでレース映像を見せながらフローラは語っていた。映し出していたのは様々な角度から映し出されていた自らがランページに挑んだ全てのレース。様々な放送媒体やネットの中継から拾ってきた映像を編集して様々な点から復習出来るように整えられた物。それを見せつけられているのがエアグルーヴとドーベルだった。
「敗北の痛みは何時しか憧れへと変化して今に至る、最後の最後のレースで漸く自分の殻を破れたってところかなぁ……えらく時間かかったけどね」
そんな風に語るフローラ、それらの話を聞きながらも二人は真剣にレース映像を見ていた。憧れの存在のレースだから?違う、フローラのレースごとに徹底したランページ対策の走り、技術、作戦が手に取るように理解出来た。同時にこの人がどれだけ真剣に、真っ向からランページに戦いを挑んでいたのかが伺い知れた。
「これだけのことを、やって勝てなかった……?」
「最初から最後までご覧の通り。それだけあの人は突き抜けた強さを持っていた、それでも私は勝ちたかったのよ……貴方たち以上にあの人に憧れてたからね」
その言葉には、これまで感じた事もないほどの重みがあった。トゥインクルシリーズの全てを賭けてたった一人のウマ娘に勝とうとしたアグネスフローラ。他のレースに出ていれば彼女はもっと勝利していたことだろう、それこそランページに匹敵する数の重賞を勝っていた事だろう。だがそんな事はしなかった、調整目的や新しい技術の検証の為にしか他のレースには出なかったほどに執着し続けていた。
「私は運が良かったのよ、一歩間違えば崖から転落して再起不能になるぐらいの危険な道だったのにそれを駆け抜けてしまった。今思うと本当に愚かよ」
「……憧れが、そんなにいけませんか」
震えた声でドーベルが問う。これまで揺らがなかった筈の自信がまるで打ち砕かれたかのような様子だった。
「憧れは大事よ、モチベーションを作るのに大切。だけど憧れは理解から最も遠い感情だよ、自分の気持ちを押し付けてるだけに過ぎない」
「お、押し付けてなど……!!」
「じゃあ質問。貴方達はランページさんの担当になりました、がこれまで成した偉業故に必要以上に注目された上に自分の実力以上の事を強要され続けます。どこに行っても着いて来るメジロランページの担当という肩書の重さに耐えきれる?あの人と同じ重さと向き合える?」
「「……」」
答えられるわけがない。ランページがどれだけの戦いを勝ってきたか知らない訳ではない、そしてその勝利に付随するかのように増えていく栄誉と地位。時には国の重鎮とも言葉を交わしてしまう程の存在の担当に自分たちは相応しいのだろうか……そう問われたら答える事は出来なかった。
「スズカちゃんは良くも悪くも走る事に夢中なのよね、ランページさんに聞いたのもあの人が見た先頭の景色はどんな感じでしただからね。つまりランページさんに憧れているというよりもあの人が見た景色、結果に目を向けている、そしてそれを自分で成してみたいと思ってる。あの子は多分周囲からの重圧もそこまで感じない位に自己完結してる、それが差かしらね」
「―――もしかして、ランページさんは私達が重圧で潰れてしまうと分かってて……?」
「うん、守ってくれたって事」
「それじゃあ、認めてないとかじゃなくて……」
「寧ろ認めまくってると思う、今は焦らずにゆっくりと歩いていく時期だって判断されてるんだよ」
此処まで言って二人は漸くフローラの話を聞いた。そして理解して安堵する、自分たちは別にランページに見捨てられたとか認められてないとかネガティブな事では全くない。その事に二人は安堵の息を漏らすが直ぐに二人は姿勢を正してフローラへと向き直った。
「フ、フローラ先輩失礼なことを言ってしまってそ、そのえっと……」
「み、身の程も知らずにあのような口を、その……」
「あ~大丈夫大丈夫、これでもランページさんに雑に扱われなれてるからこの位何ともないない。それよりさ、良いこと教えてあげようか。なんでスズカちゃんが担当に選ばれたのかを」
「「是、是非!!」」
一度、皮が剥ければ素直なものだと思いながらも自分なりの考えである事を伝えながら言う。
「明確な自分自身のスタイルがあるからだよ、スズカちゃんの場合は純粋に先頭の景色を見たいっていう思いと走りがマッチしてる。つまり自分らしさ、自分という個があるからスカウトされたんだよ。焦ることなく自分の走りを見つけてごらんよ、そうすれば自然とランページさんの方から声が掛かってスカウトなりメニュー組んでくれたりするよ」
「「はっはい!!有難うございますフローラ先輩!!」」
頭を下げると二人は颯爽と部屋から立ち去って行った、走る音が聞こえるのできっと南坂トレーナーの所に言ってメニューをお願いしようとするのだろうか、それとも自主練だろうか。どちらにしろ意欲と元気があるのは良い事だ。そしてランページへと電話をかける。
「あっランページさんですか、二人とも元気になりましたよ。多分これからよくなっていきますよ」
『手間かけさせたな』
「私と貴方の仲じゃないですか、もしもお礼をしてくれるっていうなら―――以前タキちゃんとホテルのお風呂で背中の」
『くたばれ(ブツッ!!)』
「ああっちょっと!!?少しぐらい私とも絡みましょうよ~!!」
こんなやり取りをしつつもランページはフローラに感謝の念を持っている。自分では絶対に出来ない事をやってくれたのだ。何かで礼をしようとは思う、フローラの願望とは別に。
「ンでスズカ、初の峠はどうだった?」
「―――圧巻でした。景色がこうスライドしていくなんて凄い新鮮でした……!!」
「お気に召したみたいでバッチグーね!!」
「あの、また連れて来て貰ってもいいですか?」
「まさか嵌るとは……」
サイレンススズカは体力が30下がった。
スピードが15上がった。
パワーが15上がった。
根性が25上がった。
「弧線のプロフェッサー」のヒントLVが4上がった。
「下り坂巧者」のヒントレベルが3上がった。