貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

303 / 634
303話

「次だ、次のメニュー!!」

「い、いやちょっと待って……えっとそれじゃあスタミナ強化メニューだけど……」

「早く言わんかたわけ!!よし、やるぞ!!」

「あっちょっと待ってってば!?」

 

「次、お願いします!!」

「次ですか、となると走り込みになってしまいますが」

「行ってきます!!」

 

 

「精が出るねぇ全く」

 

カノープスの練習風景、それを見ながらもランページはネメシスのメニューを組んでいた。その先に見るにはエアグルーヴとドーベルが真面目に練習に打ち込んでいる光景。今までが真面目ではなかったわけではないが今は更に真摯に取り組んでいる感じがする。フローラからの話が大分効いたと見える。

 

「ランページさん、ランニング終わりました」

「んじゃ次は坂路だ。無理はするなよ、維持出来るスピードで登り切れ。一回でいいぞ、俺やブルボンみたいに何回もやらなくていいから」

「分かりました」

 

そう言いながらも坂路へと向かっていくスズカ。スズカの担当をやめるつもりはないし今のところこれ以上増やすつもりもない、チーム担当の許可が出ない限りは。それこそ許可が出るのはいつだろうか……まあ気長に待つことにするつもりでいる。

 

「フローラは役に立ったかしら?」

「お陰様で。あいつも偶には良い事をする」

「貴方限定でね、リギルでは纏め役をやってて結構確りした面もしてるのよ?」

 

やってきたおハナさんに礼を言う、曰くリギルではまともな面ばかりだそうだがランページとしてはそれは余り信じられないというのが素直な感想。なぜならば自分と絡むときは決まって残念な面しか表面に出さないからだ、今回のようにまともな面を出して接してくるのであればこちらも応じるつもりはあるのだが……。

 

「エアグルーヴとドーベルも納得してくれたみたいで安心しましたよ」

「焦る必要なんてないんだものね、ゆっくりと大きくなっていけばいい。まあ貴方の場合は急速に大きくなった訳だけど」

「家庭環境がアレだったもんで」

「それってメジロ家が?」

「それもある、の前っすね」

「ふぅん……まあ聞かないでおくわね」

 

フローラの借りは今度居酒屋で一品奢る事で手を打つとおハナさんは帰っていった。生ピーマンとつくねのコンボでも勧めようかな……と思いながらもメニューが組み終わったのでそれをサンデーのタブレットへと送信しておく。と言っても今日は休みで車を見に行ったわけだが……ほぼほぼGT-Rだろう、一応ランエボも試乗したそうだが性に合わなかったらしい。

 

「スズカさんの調子は如何です?」

「悪くはない、寧ろ良い。マルゼン姉さんとの絡みもいい刺激になったしな」

 

様子を見に来た南坂、彼も彼で間もなくに迫っている安田記念に日本ダービーに向けて忙しい筈なのにこちらにかまけて良いのだろうか、まあ彼だから問題はないのだろう。

 

「先程の走り込みを拝見しましたが内ラチ際が酷く強くなってましたね。30センチ、コーナリングが上手い方でその位ですしそれが良い目安且つそれ以上となると腕をぶつけてから首などを持っていかれる危険性もありますが―――彼女は5センチぐらいですかね」

 

インプで峠を攻めに行った結果、としか言いようがない。人数もあるので自分のインプレッサで行った峠、ヒルクライムは自分、ダウンヒルはマルゼンスキーがハンドルを握った訳だが……矢張りドライビングテクの差はありありと感じさせられた。こればっかりは運転歴の差が如実に出た結果としか言いようがなかった、それでもスズカはヒルクライムにも魅力を感じてくれたのか喜んでくれたが……まあ兎も角、以前の自分のように峠を攻めたことでコーナリングのコツをつかんでしまったらしい。

 

「足捌きが変わりましたね、ランページさんはストライドと持ち前のパワーで抉るようにして芝の下の地面を捉える事で通常以上のグリップを得ていますが彼女のそれは全く違う。足捌きがいい……まだまだ未熟ですが体重移動を練習させればどんどん伸びますよ」

「そう思って荷重移動の練習はさせてる。スズカは元々加速力がエグいからなぁ……コーナリングでもそれを活かさない手はない。まあその為には基礎を確りと教え込まないといけないけどな」

 

コーナーでは減速する、遠心力との兼ね合いもあるので当たり前。それに抵抗出来るのは自分のように体格とパワーに恵まれているウマ娘位だろう、なのでスズカは加速力を利用した足捌きを現在研究中。まあそれを発揮できるようになるのは数年先だろうが……楽しみなのは事実である。

 

「まあそれは良いんだけどさ……」

「どうかなさいました?」

「いや、なんでもねぇ」

 

『あ、あのランページさん……』

『あっ~その話か……分かった分かった、ちゃんと連れてってやるから』

『やったっ♪』

 

「初めての担当だからか、甘くなりすぎてるのかなぁ……」

「フフッそうなってもしょうがありませんよ、私も経験あります。ですが少しだけ嬉しそうじゃないですか」

「まあ嬉しくはあるけどよ……まあこれもスカウトした責任だと思うか」

 

スズカの為であるという事は分かるのだが、スズカは如何にも峠の走りに魅了されてしまったらしい。曰く、流れていく景色の素晴らしさと疾走感による高揚感、そしてコーナリングで身体に掛かる感触が特に気に入ったらしい。なので峠に連れて行ってほしいと催促をされてしまった。別に自分は走り屋ではないのだが……態々此処から峠の為だけに遠出をするのでガソリン代とタイヤ代が掛かる事だけが気を重くさせる。

 

「はぁっ……手痛い出費だぜぇ……」

「何かお買い物を?」

「マルゼン姉さんがタイヤを酷使してくれたからなぁ……この前新しいのに変えたばっかりだっつぅのに……」

「それはまた……」

 

流石に世話になったマルゼンスキーには請求しにくかったのでしなかった、まあ兎も角担当の為に苦労するのがトレーナーなのだろう……沖野が金欠になる気持ちが少しだけわかった気がする。少しだけ。

 

「坂路、終わりました」

「応お疲れさん」

「コーナリングはもう少し攻められると思ったのでそこの練習をしたいんですけど」

「今の段階だと攻め過ぎはマズいな……今の幅を維持しつつスピードアップを目指してみろ、それがクリア出来たら幅を狭めればいい」

「分かりました、行ってきます」

「せめて休憩してからにしろい、15分」

「は、はい」

 

戻ってきたばかりなのにまた直ぐに走りに行こうとしてしまう、本当に走る事が大好きなウマ娘だ。スズカが恥ずかし気にしているとエアグルーヴとドーベルが迫ってきた。

 

「ス、スズカにランページさん、少し宜しいでしょうか……?」

「んっ構わないぜ」

「私も大丈夫です」

「それでは私はこれで、チケットさんたちの方を見てきますね」

 

女性たちの間を邪魔する事はしない、と言わんばかりに去っていく南坂。こういう気配り上手な所は見習いたいものだ……さて二人は何用なのかとそちらに向き直るのだが言い難そうに口籠ってしまっている。

 

「そ、そのあの……えっと……」

「私、私たちはその……貴方に嫉妬、してたの……」

「私に、ですか?」

「ああっそうだ!!私たちはランページさんに憧れているんだ、そんな人に担当としてスカウトされたお前に嫉妬していたんだ!!」

 

ドーベルのそれに続くようにエアグルーヴも勇気を出し、大きな声で自らの胸の内を吐き出した。それにスズカは少しビックリしていた。

 

「如何して私じゃないのって、身勝手に貴方に嫉妬してた……そんな自分が情けない」

「だから今、これまでのことを謝罪したい。すまなかった!!」

「え、えっとこれまでと言われても私なにもされては……」

「してないけど、貴方に間違ったものを向けてたの確かなの!!勝手かもしれないけど謝らせて!!」

「これは私たちのケジメだ!!だからスズカ、すまなかった!!」

 

真摯な対応、真摯な言葉、紛れもない誠意から生まれた行動を以て二人はスズカに頭を下げた。それに戸惑ってしまい助けを求めるようにランページに視線をやる。それを受けて少しだけ笑いながら肩に手を置く。

 

「応えてあげなさい、貴方にとってはよく分からないかもしれないけどその誠意に応えるだけでいい」

「―――はい。えっと私は特に気にしてませんでした、だから私はお二人と仲良くしたいと思います、だから宜しくお願いします」

「あ、ああっ分かった。これから宜しく」

「私も宜しく……えっと……スズカさん」

「スズカで結構ですよドーベルさん」

「私もドーベルでいいから」

 

そう言って握手を結ぶ、拗れる事もなく無事に結ばれた友好にランページも胸を撫で下ろす。これもまた青春のページの一幕―――

 

「あっそうだ、折角お友達になったんだから今度ランページさんとお出掛けするんだけどご一緒しない?」

「何っランページさんとだと!?もちろん行くぞ!!」

「行く行く行く絶対に行く!!」

「―――えっ」

 

まさかの峠に誘う結果になるとは思いもしなかった。

 

「い、いや流石にそれは……スズカやめておいた方がいいと思うが……」

「大丈夫だと思います、二人も気に入ると思います」

「フフッ何だか分からないが気になるな」

「意地でもついていきますからね!!」

「ああっ……ど~しよこれ」

 

 

「くぅぅぅっ……うあああああ!!?横からGがぁぁ……!!」

「お、お尻っ……お尻が浮くぅぅぅっ!!?」

「っやっぱりこの感覚、景色、いいっ……!!」

 

結果的に峠にはエアグルーヴとドーベルも連れていく事になってしまった。スズカからすれば自分が知った素晴らしい世界を友人と共有したかっただけの完全な善意。それを受けた二人だが……いろんな意味で初体験過ぎる世界にクタクタになっていた。が

 

「ランページさん、なんかエアグルーヴさんとメジロドーベルさんのコーナリングが良くなっているんですが何かアドバイスをされました?」

「前より良くなってるんだよね、何やったの?」

「いやぁまあ……いろいろ、な」




エアグルーヴとメジロドーベルの体力40下がった。
スピードが5上がった。
パワーが5上がった。
根性が15上がった。
「弧線のプロフェッサー」のヒントLVが2上がった。
「下り坂巧者」のヒントレベルが1上がった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。