貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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306話

日本ダービー。日本中の注目が集まるこのレース、一生の内、一度しか参加する事が許されず出る事も敵わないウマ娘も多い。夢の舞台の一つともいわれるレース。そのレースはその世代の頂点を決めると言っても過言ではない、そんなレースの中心となっているのは―――BNWの三強。

 

『さあ間もなく第三コーナーへと差し掛かろうとしている、注目のBNWはどのようなレースを見せてくれるのでしょうか!?ビワハヤヒデは先頭から3番手、ウイニングチケットが8番手、ナリタタイシンが14番手。全員が自分の持ち味を生かせる位置に控えている!』

 

リギルのビワハヤヒデ、カノープスのウイニングチケット、スピカのナリタタイシンの三つ巴。トレセン学園でも際立った強豪チームとしての名高い三チームが作り出した三強、いったい誰がこのダービーを取るのかは皆が気になっていた。ビワハヤヒデが年間最多勝チームであるリギルの意地を見せるのか、それともここ数年で一気に頭角を現したカノープスのウイニングチケットか、皐月賞を制した勢いでダービーを狙うスピカのナリタタイシンか。

 

「(これがダービー、ネイチャ先輩がテイオー先輩と伝説になったあの舞台なんだ……!!)」

 

ターフを駆け抜けながらもチケットは想いを馳せていた、子供のころからずっと憧れていたこの舞台。今までずっとダービーを追ってきたがやはり自分が走るとなると全く違う物があった、胸の内に湧き上がってくる充実感に身震いが起きた。出来る事ならばずっとこのまま、走り続けていたい。このままハヤヒデやタイシンとずっとダービーを走っていたい―――

 

―――満足するな。もっと飢えろ、もっと気高く強く飢えろ。

 

 

その充実感を打ち砕くかのように脳裏に響き渡ってきたその言葉に身が一瞬で引き締まった、自分は何を考えていた、何に酔っていた!?

 

 

―――ダービーウマ娘になる、それは結構だがそれで終わりか。お前のレースはそれで終わりなのか。

 

 

「終わりになんか、してたまるもんかっ……!!」

 

ランページに言われた言葉は胸にあった、それが自分にあった侮り、慢心、満足感を完全に消し飛ばして純粋な闘争心と欲望、飢えへと変貌させていく。燦然と輝くダービーの栄光、それはどうしようもなくほしい、だがその先のものだってほしくてほしくてしょうがない自分がいた。欲深いと言われるかもしれない、だがそんなもの言わせておけばいいんだ、自分は決めたんだ。

 

「飢えなきゃ勝てない、気高く飢える―――!!!!」

 

『直線に入る一瞬、ウイニングチケットが仕掛けたぁぁぁ!!!一気に加速していく、ごぼう抜きだ!!一気にビワハヤヒデを抜いて今先頭に立ちっいやここでビワハヤヒデも行った!!即座に並び立った、ナリタタイシンも来た!!矢張りこの三人だBNWの三人の決戦だ!!一体誰が勝つんだ、ダービーの栄光を手に入れるのは一体誰なんだぁ!!?』

 

「はああああああ!!!」

「負けてたまるかぁぁぁぁ!!!」

 

コーナーを越えるほんの一瞬、全員が直線に入る前の一呼吸を入れる刹那にチケットは全てを賭けた。無理を言ってサンデーサイレンスに扱かれ続けてきた、それによって築かれたのは紛れもない自信だった、自分を信じる揺るぎない己。それによって迷う事もなく全てを実行した。それをするとまるで信じていたかのように二人もスパートをかけた。

 

「(やっぱり二人は凄い、でもあたしだって、アタシだって―――!!)」

 

この時まではランページの言葉の全てを理解していたわけではなかった、飢えるという事は分かっていた、だが気高くという言葉の意味が全く分からなかった。飢えるはつまり欲する事、だが気高く……その意味が全く、だが今ならばわかる。気高く飢えるという事の本当の意味は……

 

「心の底から、本気で……マジに勝ちたいって事だぁぁぁぁぁ!!!!」

 

炸薬が爆ぜたかのようにチケットの脚力が爆発した、それによって芝が弾ける宙を舞った時―――チケットの身体はハヤヒデとタイシンを完全に追い越していた。

 

『ウ、ウイニングチケットが一気に来たぁぁぁ!!?凄まじい末脚、ビワハヤヒデとナリタタイシンも凄まじい脚、後続のウマ娘との差をどんどん広げているというのにウイニングチケットとの差が全く埋まらない!!?先頭は依然ウイニングチケット、ウイニングチケット!!そのままゴールイン!!日本ダービーを制したのはウイニングチケットぉぉっ!!』

 

掴み取った夢、辿り着いた舞台の頂点、これで満足してはいけない、だがチケットは叫ばずにはいられなかった。

 

「いやっ……たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

 

腹の底から飛び出した声は大歓声に包まれる東京レース場を突き抜けて空まで伸びていった。そして観客席に向かって大きく手を振った、その中でチケットは見た。観客席に入口、トンネルのようになっている通路の壁に寄りかかるようにしてこちらを見ている一人のスーツ姿でサングラスをかけたウマ娘を。

 

「アタシ、やったっやったよ~!!!」

 

此処には来ないと言っていたのに、ネメシスの方で忙しいから応援だけしておくと言っていたじゃないか、それなのにしっかりと来てくれていたじゃないか先輩!!そう言いたげな満面の笑みと大袈裟なほどに振られた腕と手を見て、ランページは肩を竦めながらもVサインを返してから通路の奥へと消えていった。

 

「全く、参ったものだ……今日こそと思ったのだが」

「それはこっちの台詞、アンタの最後の末脚何なんだったの?」

 

共に走り抜けたライバルは自分の勝利を祝福してくれた、本当に今は満ち足りた気分で天にも昇りそうだった……そして分かった、これはダービーで勝ったから得られた充足感などではない。ライバルと本気で戦えたからこその喜びなんだと。

 

「ハヤヒデ、タイシン!!今度は菊花賞、次も勝ちに行くからね!!」

 

そんな言葉に二人は目を白黒させた。お前は日本ダービーを制したんだぞ、あの日本ダービーを制したんだぞ?と言いたげな顔だった。だがそんなことは関係ない、次の夢は―――もう決まったのだから。それを察したかのように二人は不敵な笑みを浮かべた。

 

「望むところだ。次こそ私が勝ってみせよう、タイシンへのリベンジも兼ねてな」

「上等じゃん、ダービーは譲ったけど菊花賞を取って二冠決めてやろうじゃん」

「アタシだって負けないからね!!」

 

レース場を劈くほどのチケゾーコールが降り注ぐ中で行われた自走への誓い、そこにあったのは紛れもない勝利への渇望。全員が気高く、飢えていた。

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