「お呼びですか理事長、もしかして政府に色々迷惑かけまくったからクビですか?」
「驚愕ッ!?いったい何を言い出すんだ君は!?」
「いや真面目にそういう案件かなぁって」
「ランページさんをクビにしたら逆に私たちがクビになりますよ」
ダービーも終わりトレセン学園にはひと時の安らぎのような時間がやってきた。と言ってもレースに出るウマ娘もいるので基本的に年がら年中忙しいのがトレセン学園ではあるが、一つの山は越えたと言っても過言ではないのでトレーナー間の間の空気は緩んでいる。そんな中でランページは呼び出しを受けて理事長室へと向かった。彼女も彼女でジョークをぶっ放す程度には気が緩んでいた。
「改めて祝福ッ!!カノープスのウイニングチケットがダービーを制した、これは見事な快挙と言える。これでカノープスは短期間でダービーウマ娘を二人も送り出したことになる、素晴らしい事である!!」
「まあンな事言ってたら無敗のトリプルティアラやら凱旋門やらBCクラシック制したのが此処にいますけどね」
ワザと被せるように意地悪を言うと理事長が渋い顔をした、その辺にしてやってくれと言わんばかりに自分の頭の上で鳴くハテナに免じてこれ以上はやめておくことにする。
「ともかく、此度の件で評価を得たのは南坂トレーナーだけではなくサブトレーナーである君と佐々田トレーナーも同じという事である」
「へ~っサブトレーナーも評価受けんですね」
「それほどまでに日本ダービーという舞台を制すという事は大きな意味があるという事なんですよ」
「ダービーを制する事は一国の宰相になる事よりも難しい、でしたっけ」
それほどまでにこの栄華を掴み取る事は難しいと表現するに相応しい言葉、ウマ娘の祭典ともいわれるダービーが最高の栄誉とも言われる。
「そこで―――正しく特例ではあるが、君にチーム設立の許可を出そうと思う!!」
理事長の言葉をランページはある程度予測していた。南坂からも自分には早めに出したいだろうと言われていたから理事長からの呼び出しを加味すればありえない話ではないと思っていた。海外を相手に戦って無敗の技術を多くのウマ娘に広めてほしい、そうであればより多くの種が芽吹くだろうと考える。
「気が早い事で……これでも今年からの新人トレーナーですぜ俺ちゃんは、足りないと思いますがね実績が」
「何を言う、君の実績に誰が文句を言おう!!たづな」
「はい。4月からアグレッサーチーム・ネメシスの統括チーフとして所属ウマ娘たちのメニュー作りと教導役のウマ娘とトレーナーの誘致とスケジュール管理、チームカノープスのサブトレーナーとしての業務に加えて、サイレンススズカさんのメニュー作成とトレーニング。このどれもが評価に値します、特にサイレンススズカさんに関しては授業でも成績が伸び続けていると声も上がっていますよ。加えてURAファイナルズとレジェンドレースの設立も考慮されています」
改めて列挙されると自分ってかなり多忙な身だったのだな……という事を自覚する。今は大分マシになっているが……それでも普通のトレーナーに比べたら相当に忙しい部類なのは間違いない。
「チーム、チームねぇ……」
「乗り気しませんか?」
「そりゃねぇ、出る杭は打たれるっていうじゃない。ぜってぇ俺ちゃんの事をよく思わねぇトレーナーにガン付けられるじゃん」
「貴方にそんな事出来るほど度胸というか愚かな人がいるでしょうか」
「同意」
素直な事を言ってしまえばチームを持てるというならば持ってもいいというのが素直な本音だ、その一方でまだスズカしか担当を取ったことのない自分が上手い事舵取りが出来るのか?という不安もあるのだが……自分のやりたいようになるのが自分流だ。
「まあ権利をくれるっていうならば貰っときますよ」
「ウムッ是非受け取っておいてくれたまえ。チーム設立に関しての制限期間というのは別段設けるつもりはない、じっくりと君が育てたいと思うウマ娘を吟味してくれたまえ。そして出来る事ならば君のように世界に羽ばたくウマ娘を育ててほしい」
「それこそ巡りあい、時の運ですよ」
一先ず理事長の呼び出しというのも終わったので外に出る事にした。なんというか来年あたりだろうなと思っていたのに想像していたよりもずっと早くその機会が回ってきてしまった。スカウトするとしたら誰にしようかな、と思案しながらも外に出る。気づけばコース近くにいたのだが、そこではスズカがストレッチをしていた。彼女は自分に気づくと直ぐに駆け寄ってきた。
「ランページさんっ今日は何のメニューをします?」
「ああそうだな……まあその話もいいんだが少しいいか、話がある」
「お話、ですか?」
「ああ」
適当なところに腰掛けてから話を切り出す。仮にチームを持つならばスズカに話を通さないというのは通らない、スズカもそのチームの一員にカウントされるのだから。
「っつう訳で今年からの新人トレーナーなのにチームトレーナーの権利をゲットしちゃいました」
「それって……とっても、凄い事……でいいんですよ、ね?」
「分かる、凄さの度合いが微妙に分からないよな」
実際問題自分だってよく分からないのだからしょうがない、まあ自分の場合は色々ともっと凄い事を体験しているからこそマヒしているだけだと思われるが。
「スズカお前はどう思うよ」
「如何、とは?」
「俺がチームを持つって事はお前もそのチームに編入されるって事になる、分かりやすく言えばお前をマンツーマンで見る事が出来なくなる事だ」
トレーナーとしてはまだまだ新人の域を出ないランページ、そんな自分が多人数を見る事は問題がある。ネメシスでの経験を使うと言ってもメニューを組んでいただけで実際の指導の大部分はサンデーサイレンスがやっていた―――
「大丈夫です」
「大丈夫ってお前」
「だってランページさんですもん、出来ますよ」
「軽く言ってくれちゃってまぁ……」
「私、分かりますもん」
真っ直ぐな瞳で自分を見据えてくるスズカ、その瞳を自分は何処かで知っていた。この瞳はそう、南坂が自分を信じて課題を与えてくる時と同じ瞳。自分よりもずっと理解している時の瞳だった。
「それにチームならば併走をお願い出来ますし色んな事が出来ます、マイナスばかりじゃなくてプラスにも目を向けましょうよ」
「……ハハッ新入生の担当にそこまで言われちまったらトレーナーが腰砕けでいる訳に行かねぇか……よしっやるか!!」
チーム設立、それに向けて前向きに向かっていく事を決意する。幸いなことに理事長からも制限は設けられていない訳だから確りと足場を固めながらもゆっくりやっていこう。
「名前も考えねぇとな……なんかいい案とかある?」
「えっと……星の名前ですよね、何が良いんでしょう……」