貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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312話

「おっつ~」

「おっつ~じゃねえでございますよ、そう簡単に顔出していい身分じゃねぇこと理解してる?いやゴメン聞いた俺がバカだった、分かった上でやってるんだもんなスーちゃんは」

「フフフッやっぱりわかってるわねランちゃんは」

 

居慣れた元カノープスの部室、そこの方が作業が捗るのかランページは此方で仕事をすることが増えて来ていた。そんなところに気軽にやって来たのはすーちゃんことスピードシンボリ。シンボリ家の重鎮が気軽にこんなところに来ていいのかとも思うが、ある意味でシービー以上のフリーダムさを体現する御大にそんなことを言う意味はない。沸かしていたお湯を使ってコーヒーを淹れる。

 

「それでどうしたのよ。急にスーちゃんが来るなんて」

「可愛いかわいい孫の顔を見に来た、それじゃ不満かしら?」

「ううんとっても素敵な理由さ。だけどそれはマジモンの孫に言うべき言葉だぜ」

「もう言ってるわ、ルーちゃんもシーちゃんも顔を赤くさせて喜んでくれて可愛かったのよね~♪」

 

ほっこりとしているスーちゃんに珈琲を差し出しながらもお茶請けとして羊羹を差し出す。

 

「あらっ羊羹なのね、羊羹と言えば緑茶ってイメージだけど」

「案外合うんだぜ、試してくれ」

「ランちゃんのお薦めならば勿論」

 

羊羹を軽く食べる、濃厚な甘さが口の中に広がっていくところに珈琲を含んでみると濃厚な甘さとコクのある苦みがよくマッチして互いが互いを引き立てていて非常に美味しく感じられる。これは予想外の組み合わせだが実に素晴らしい。

 

「凄い合うのね、ビックリしちゃった」

「意外だろ」

 

結構お気に入りの組み合わせ、勧めたのは初めてだけど気に入って貰えてよかった。

 

「それでチームの皆さんは居ないの?」

「まだ授業中の時間だぜ、もう少ししないと来ないぜ。というか目的はそれか」

「ランちゃんのチームだもの。海外で一緒にいたトレーナーとして興味あるわ」

 

矢張りというべきか目的はプレアデスの事についてだった、というよりも孫云々というのも自分に会いに来るための方便と見るべきだろう。

 

「それでどんな方針でチームを育てるつもりでいるのかしら、チームを設立したトレーナーが一番悩むのがそこだけど」

「別に、俺は特にそういうのを考えてはいないな」

「あらま」

 

端的に言えば、自分の中で作りたいチームの形なんてものは存在しない。強いて言うならば自分は夢を見れるウマ娘たちを育てたいだけでしかない。どこまで先頭を駆け抜けていくサイレンススズカ、折り合いの上手さとスタミナで幻惑するサニーブライアン……同じ逃げを戦法にする二人には自分の後継者として技術を教え込みたいという気持ちがある。

 

「俺がこんなウマ娘に育てたいってヴィジョン自体はある、だがそれを押し付けすぎるつもりは毛頭ないよ。それで一々俺に自分の方向性を決めてくださいって言われても困るしある程度は自主性を持たせたい、だからチーム自体も目標は掲げてないから自分で決めろって言ってあるよ」

「それはそれで困ると思うわよ、新入生ばっかりなんでしょ?デビュー間近ならそれでいいかもしれないけどまだトゥインクルシリーズの深みを理解する前の子にはある程度の方向性は与えてあげるべきよ」

「つっても俺の理想を押し付けすぎるのもなぁ……」

 

それを聞いてスーちゃんは心配した通りか、と珈琲を啜る。ウマ娘としての腕は超一級だが、トレーナーとしてはまだまだ経験が足りない。だからこそ先達として教えてあげられるものはたくさんある。

 

「いいランちゃん、トレセン学園に来る子達は明確に才能や実力がある子たちばかり。だからこそ練習にも熱が入るし真剣、故に課題を与えてあげるとそれで大きく成長もするものよ。自主性を尊ぶのも大事だけどトレーナーは課題を与えるのも立派な仕事なの、今はそれでいいかもしれないけどエアグルーヴちゃんがデビューする辺りになればそれじゃダメ。きっとあの子達は迷うわ、そして自分で頑張らないとって力んでしまう」

 

ランページはその話を真剣に聞いた。そして同時に課題がプレッシャーになるだけではなく安心感にも繋がるという事を知って目から鱗が落ちるような気分になったが、思えば新人時代は何か仕事を振られた方が気が楽だったような気がしてきた。やるべき仕事がやった筈なのに他に何かにやるべきことは無いだろうか、サボっていると思われないだろうかと感じていたころがあった。

 

「課題、か……」

「例えばそうね……スズカちゃんならランちゃんの全身走法伝授、サニ―ちゃんは幻惑逃げって辺りね。考えてるんでしょ?」

「お見通しかよ」

「フフフッ伊達にずっと海外一緒だった訳じゃないのよ」

 

この辺りは人生経験の差かなぁ……と思っている中でスーちゃんは話をつづけた。

 

「チームを率いるトレーナーの仕事は正しさを示す事よ、楽しいレースを示すのも正しいし勝つレースを示すのも正しい」

「正しさか……自分の正しさがチームの価値観にもなる訳か……独裁者だなまるで」

「ええそうよ。ランちゃんにピッタリね」

「そうそう俺は独裁暴君で……やかましいわい、ほいお代わりの森のヨウカン」

 

チームトレーナーとは独裁者、チームの方針と価値観を定める独裁者。そんな風に言われるとは思いもしなかったが納得も出来る、リギルは管理主義を掲げスピカは自主性と個性を尊び、カノープスは基礎を重視する。それぞれのチームが全く違う価値観を持っている、それを決めているのは紛れもないチームトレーナー。

 

「ちょっと考えてみるよ、価値観云々っつうよりも皆の課題ってやつを」

「存分に考えなさい、時間はまだあるし貴方はまだまだ若いトレーナーなんだから。今のメンバーが全てでもない、何かの切っ掛けで大きく変化する事もあるんだから慌てず騒がずゆっくりと、ね。それじゃあ珈琲と羊羹ご馳走様」

「あれもう行くん?もっとスーちゃんとイチャイチャしたかったのに」

「私もよ~でも用事があってね、それじゃあねランちゃん。また遊びに来るわね、Chu♡」

 

投げキッスをしながらも去っていくスーちゃんを見送ったランページは珈琲を飲みながら話された内容を反芻する。方向性、課題、価値観、これらはこれからのトレーナーとしては確かに必要な事だ、ただメニューを作れて仕事が早いだけでは意味がない。自分はまだまだ未熟なトレーナーである事を自覚して前に進んでいかなければならない。

 

「自分でやりたいから、俺はここにいるんだ……それに見合うだけの事はやらねぇといけねぇんだ……うしっやるか!!!俺は独裁暴君のメジロランページだ、やってやらねぇ事なんて無い筈、何とでもなるさ!!」




羊羹と珈琲は実際合う。私はケータイ捜査官7で知った。
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