貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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313話

「どうだサニー、俺の幻惑逃げの感想は」

「ぜ、全然分かりませんでした……いつの間にか私の体力がごっそりと抜かれたみたいな……」

「それが俺の幻惑逃げだ、相手に気づかれないレベルでのペース変化は無意識的に体力を削ってそれを認識すると振り幅の影響で大きく削られていると錯覚して取り返そうとして身体に無駄な力を込めさせる。それで更に削る、お前がまさに体験したのがそれだ」

 

ランページについて走ったサニーはその身で幻惑逃げを体験させられた、大逃げばかりが話題に上がるランページだがむしろジュニアやクラシッククラスでは幻惑逃げが主戦力だったと言っても過言ではない。その腕前は全く錆び付いていないどころか寧ろ精度は更に上がっている。

 

「そしてこいつはお前さん向きの技術でもあるんだ、折り合いの上手さとスタミナがあるからこいつが活きる。スタートが苦手っていうのにもカバーリングが利く」

「えっそうなんですか?」

「スタート苦手な逃げウマ娘が無理に前に出たと思わせる、そしてそのままいいペースを維持したまま行くと距離を詰めたくなってくる。幻惑逃げはその心の動きを捉える、幻惑っていうのは相手に苦しさを押し付けて自分の優位性を高める戦術でもあるからな」

「へ~」

「目標は俺の幻惑逃げ、欲を言えば越えてほしいっつうか越えてくれ」

「ンな無茶な!?」

 

サラッと出されたランページ越え、この超えろは簡単なものではない。それをこの人は理解しているのかとサニーは思う一方でランページは笑う。

 

「別に幻惑逃げを極めろなんて言ってねぇよ、それを活かした走りを目指そうって事だ。俺の大逃げなんて幻惑の要素が全く入ってねぇから越えるのは割かし簡単な部類だ、お前さんの物覚えと器用さならいけるいける。目標としてはネメシスとの模擬レースで幻惑逃げで勝つことだな」

「ネメシスに幻惑逃げで勝つ……やってみます!!」

「応その意気だ」

 

次の指導に入ろうとする中で背後でやるぞぉ~!!と今までにないぐらいに気合の入った咆哮が聞こえてきた。それを受けながらも次はスズカ。

 

「スズカ、合宿でも引き続き基礎メイン―――と言いたいところだが部分的にある練習を組み込んでいくぞ」

「はい、それでどんな」

「俺との併走だ」

「えっランページさんとの併走!?」

 

嬉しそうにスズカの尻尾が上がった、憧れとするウマ娘と共に走れるだけでテンションが分かりやすく上がっている姿は見ている側としては非常に可愛らしい。がそれに対して待ったをかける者もいる。

 

「BOOOO!!スズカズルいデース!!私もランページさんと走りたいのでーす!!」

「私も走りたいです!!」

「姉様私も!!」

「普段雑に扱ってるからってアンタを軽蔑してる訳じゃねぇんだぜこっちは」

 

当然他のメンバーである。このチームに入った大半の理由はランページへの憧憬の心、それならばそんな存在との併走は羨んで当然なのである。

 

「当然、併走は全員とやる。俺は別にスズカやサニーが脚質が同じだから特別扱いする気は一切ない、ただ教えやすいだけだ。それとステゴ、お望みなら合宿中は毎日お前を叩きのめしてやるぞこら」

「上等だ、それで俺が勝ったら俺が世界一だからな」

「可愛くねぇ奴だな全く」

 

と言ってもランページは全員で走るつもりでいる、自分を養分にさせるつもりは満々で合宿中は走りまくるつもりでいる。自分が錆び付かないためでもあるが自分を通過点として利用する気満々になっている。最速にして最強と言われたウマ娘をチェックポイント―――彼女らはそのだけの素質と才能がある、間違いなく世界へと羽ばたいて行ける器を自分の手で育てていく覚悟も出来始めている証拠。

 

「一旦集合、理事長からも許可取れたから合宿についてだが予定通りに行う事になった」

「イエース!!ランページさん、アメリカンビーフは準備OKでーす!ファミリーに連絡したら、とっておきのビーフを送ってくれるって言ってくれました~!!」

「そりゃ楽しみだな、まあこっちもいい海鮮を取り寄せてあるから飯は期待してくれていいぜ」

「飯もいいが練習のメニューもいいんだろうな?」

 

不敵な笑みのステゴ、自分との併走だけでは物足りないというのか。宜しいならば戦争だ。

 

「それとうちの合宿にカツラギエースさんが初日からきてくれることになった」

『えっ?』

「後、海外からも客を招いている。態々日本にジャパンカップ前から来て慣らそうとしている奴を、ステゴ合宿のメニューは甘くもねぇし地獄になる可能性の方が大いに高い。その口の悪さの感謝しろよ、極上の地獄を作ってやる」

「―――ハッ上等じゃねえかよ!!だったらその地獄踏破して数年早い海外制覇にしてやるだけの話じゃねえか!!」

「良い啖呵だ、その気合で合宿で臨め。練習再開!」

『はい!!』

 

そうこれがランページの恐ろしい所の一つ、現役時代に高く高く積み上げた戦績から得られた異常ともいえる人脈。それによって引き出されるレジェンド達、そのレジェンド達から得られるものも非常に大きい。プレアデスが新興チームでありながらも既にリギルやスピカから警戒されているのもそれが理由。

 

「マルゼン姉さんにも声はかけたし、暇さえあればモンスニーさんも来てくれる。現役はこの人望を恨んだが今となっては感謝しかねぇなぁ……」

 

自分が行こうか?合宿に顔出していいか?とどの人も自分から言ってくる、現役時代に夢を見せたのは後輩だけではなく引退したレジェンド達にも夢を与えた。そしてその夢はもう直ぐ活かせる場が整う、レジェンドレースは既に今年から開幕する事が決定している。もう見る事もないと思っていた夢、駆ける事もないと思っていた舞台にもう一度―――ランページには感謝しかない、故にその恩を返したいと思う者ばかり。

 

「お姉様、宝塚記念行かなかったの?」

「おっライスか、まあな」

 

そんなところにライスがやって来た。ライスもライスで宝塚記念には出られるが出走はしなかった、次走はオールカマーの予定。今回の宝塚記念の目玉は安田記念3連覇のイクノ、春シニア三冠のテイオー、そして名優マックイーン、トリプルティアラのツインターボの四強対決に加わるようにタンホイザ。熾烈な戦いになる事は目に見えているがランページは応援にはいかなかった。

 

「つうか、ライスだってそうじゃねえの?」

「うん。トレーナーさんに少し頑張り過ぎたから休んでくださいって言われちゃったの、少し前のオーバーワークがばれちゃって……」

「あららっ……」

 

元々は宝塚記念に出走するつもりでいたのだが、ライスは天皇賞(春)からのG1連勝を目指していた為か精神を昂らせるメニューに熱を上げすぎてしまってオーバーワークをしてしまった。幸い怪我こそしなかったが南坂はこれはいけないと感じてリフレッシュを兼ねて宝塚記念へは観戦も認めずに休みを取らせた。

 

「チームを持つ立場になっちまったからな、気軽に行けなくなっちまったのが辛い所さ。まあライスのレースには行くから安心しな」

「無理しなくていいからね、でも見に来てくれたらライスは嬉しいかな」

 

こんなことを言われたら行くしかない。折角なら中継でも見てみるかとスマホで宝塚記念をつけてみると―――

 

『ツインターボ先頭!!ツインターボがこのまま一気に、いや後方から一気にメジロマックイーンが迫る迫る!!イクノディクタスも追い上げるがそれをも上回るペースでターフの名優が舞台を駆けあがってきたぁ!!だがその背後にはトウカイテイオー、トウカイテイオーとメジロマックイーン、がツインターボを捉えて、いやメジロマックイーンが一気に抜き去っていくぅ!!メジロマックイーン先頭、ツインターボ苦しいか!!メジロマックイーン、一着でゴールイン!!!宝塚の主役となったのは名優メジロマックイーン!!!二着にトウカイテイオー、三着にイクノディクタス、ツインターボは四着、五着にマチカネタンホイザ!!』

 

宝塚を制したのはマックイーン。メジロ四天王の一角は伊達ではないと言わんばかりの走りにライスは自分はよくこの人に勝てたな……と驚いてしまっていた。同時にランページはマックイーンの脚に注目した、以前よりも筋肉が大きく発達し張りが出ている。それに身長も伸びているし心なしか胸も大きくなっているようなしないような……まあそこは置いておくとして。

 

「マックイーン、さらに強くなってやがる……現役時代にこれが来なくて良かったぁ……」

 

と思わず安堵の息を漏らすのであった。

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