「ちんたら走るなよ。脚は出来るだけ高く、そして爪先で強く砂を蹴って走れ!!」
翌日、ランページのチーム・プレアデスの本格的な夏合宿が開始されることとなった。朝食を取っている時にやって来たカツラギエース、彼女が早速教導を取って練習メニューが行われることになった。
「脚、上げろったって……結構きついのに……!!」
「私より、マシだろ確り上げるんだ!!」
砂浜という足腰を鍛えるのに優れたフィールドでの走り込み、ただ走るのではなく脚にはパワーアンクルを付けた上での走り込み。最初なので重さは高々250g、それを両足に着けて合計500gでのランニングだが新入生メンバーには既に堪えるのか苦しげな表情を浮き彫りにしている。そして唯一の中等部2年のエアグルーヴは750gの重さを付けて走っている。
「中々、来ますねこれ!!」
「速く走りたいけど、これじゃあ走れない、だから確りと上げないと……倒れちゃうわ……!!」
「いきなりハードですけど、頑張りまーす!!」
「ハン、この程度で音を上げてたら世話ねぇぜ」
カノープスからの系譜とも言うべき重量を課したうえでのトレーニング、きっとカノープスでも同じような事をやるだろうしシンザン鉄だって現役だろう。こちらもいずれは採用するつもりだが、いきなり使う程愚かではない。最初は軽めの重りで軽度の負荷を与えるのみに留めておく、そして次第にそれを上げていく。
「しっかしこのデータも中々に出来てるな。遊びと称してよくこれだけ細かくデータを抽出出来たもんだ」
「砂浜での脚の使い方にスタミナに体幹、分かって当然の遊びをさせたから当然さ。それに遊びだからこそ意識せずに身体を動かしてくれるから余計なものをそぎ落とした本質を見れる」
「ホントお前南坂に似てきたな」
「そりゃ光栄の極み」
エースの言葉は本当の事しか言っていない、お世辞なんで全く交えていない。遊ばせたのは打算があったから、メニューとなれば真面目に取り組んだり意識して自分の欠点を克服しようと奮起するだろうが逆にステゴのようにやる気を出さないものもいる。だからこそ遊びを絡ませて本質を丸裸にして纏めてみた、エースから見ても分かりやすくいい資料になっている。
「ンでご感想は?」
「まだまだだな、若ぇからしゃあねぇって部分が大半だな。重ねて良きゃ自然と良くなっていく所が目立つから大急ぎで修正せにゃ行けねぇって所は見当たらねぇ。だけどこりゃとんでもねぇ事だぞ、新興チームなのにボロボロなところがねぇって事はトレーナーの力でうまく誘導出来てるって意味になる」
「素材がいいからね、皆優秀だし」
「だな……順調に若ぇ芽が出てて嬉しいよ」
そんなエースが思う逸材を尋ねてみるとスズカとステゴを上げた。
「スズカは脚の使い方が大分上手い、ちとそれが早すぎる嫌いがあるな。だけどそれはもう既に手を打って基礎トレしてんだろ、だったらデビューする頃には全開であの脚が使えるかもな。んでステゴ……だったか?あいつは生来の身体の強さがあるな、あいつだけで身体の丈夫さが飛び抜けてる上にポテンシャルも高い。あいつだけ特別メニュー組んで育成しても良いんじゃねえのか?」
「やっぱ、エースさんの目から見てそう思います?」
「ああ。別に他の奴らが駄目って訳じゃねぇ、寧ろ逸材だろうけどそれを差っ引いてもステゴはそれだけの素質を感じるって事さ」
エアグルーヴ達だって素晴らしい、ランクで示せばS~Aに間違いなく入るだろうがスズカとステゴの場合はSSに入ってしまっているだけの話。ならば専用のメニューを組んで更に素質を伸ばしてやるのもトレーナーとしての仕事のうちに入ると思うのがエースの主観。
「と言っても今の段階でそれやると絶対にあいつは調子に乗る、エアエアとの相性も悪いしチームとの雰囲気が悪くなる。だからさり気なくステゴが望むように誘導しつつこっちがやりたいことを盛り込む事が一番だと思うんだ」
「成程な……全く、俺の時はトレーナーと一対一だったけどチームトレーナーだと考える事が多くて面倒だな」
「全くで。今更ながら南ちゃんに苦労かけ過ぎてたなって反省した位ですよ」
そんなことを言いつつもランページは他の準備をし始めた、次のメニューというのもあるが―――自分用のメニューの準備も同時並行にしていく。
「お前、本当に引退してんだよな?」
「引退はしてますけどメニュー自体は同じぐらいやってますよ、シンザン鉄だってずっと付けてますし。レジェンドレースを視野に入れると鍛えないなんて選択肢はありませんからね」
「ああそういえば、お前レジェンドに出るのか今年の」
「出たいとは思ってんですけどねぇ……チーム結成しちゃったから自分の事よりあいつらの事を優先してやりたいっすね。んじゃちょっと俺歩いてきますんで」
「応」
身体にタイヤの紐を括り付けるとそのまま海へと入っていく、そして波に揺られるタイヤを引っ張ったまま歩き続けていく。そんな姿に思わず疼いてしまっている自分の身体があって笑ってしまう。ルドルフとシービーを同時に倒したことで得た日本初のジャパンカップウマ娘の称号、それすらを軽々と超えたワールドレコードホルダーウマ娘と走ってみたいというウマ娘としての闘争心が燃え上がってきてしまっている。
「―――楽しみにさせてくれるぜ、レジェンドをよ」
そんな思いに馳せていると全員が戻ってきた、既に大分利いているのか脚が笑っている。無事なのはステゴと……エアグルーヴだった。この辺りは流石に1年の間カノープスにいたが故の基礎体力の差が如実に出ている。
「砂浜往復、終わりました……」
「10分の休憩だ。この後は3班に別れる、スズカとサニーは海に入ってスクワット、ドーベルとタイキも同じく海に入るがランページに合流して太腿辺りまで浸かって歩き続けろ。そしてエアグルーヴとステゴは爪先を鍛える」
「こ、こいつとペアですか!!?」
「ンだよアンタと走れると思ったのによ」
「たわけっカツラギエースさんになんて失礼なことを……!!」
「気にしてねぇよ」
生意気なまでに平常運行過ぎるステゴにエアグルーヴは汗を流すが、エースは気にしないし寧ろこの位生意気なぐらいが叩き甲斐がある。
「それらのメニューが一周したら―――今度は俺と併走だ」
「……漸く楽しい合宿になってきたぜ、さっさとやるぜグル先輩」
「貴様っいい加減にその言葉遣いを直せ!!」
いよいよ始まるプレアデスの合宿、カツラギエースというレジェンドも参加する合宿の激しさは時間が経つにつれて増していく。そしてそれは海外からのウマ娘という来訪者も控えている。これらを彼女らは乗り越えられるのか……。