貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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316話

夜。合宿の疲れで全員が夕食を食べた後に湯船に身体を委ねているとあっという間に疲れが噴出してしまった。ステゴもその一人でランページが大広間で舟をこいでしまっている全員を部屋へと連れていく羽目になった、ベッドに寝かせてやるとあっという間に寝息を立てていった。まだまだ初日だというのに、まあそれだけ真剣に取り組んだと解釈しておこう。

 

「にしても、いいチームだな。あたしの扱きについて来れるんだからな」

「俺も甘やかして育てたわけじゃねぇっすから、ほらっどうぞお酌しますよ」

「おっ悪いな」

 

まだまだ8時だというのに完全に寝静まったコテージ、星空の灯りを照明にしながらランページとエースは晩酌をしていた。チームの皆が居る時は自重するが、こういう時には肩の力を抜く。

 

「世界最速最強に日本酒を酌されるなんて贅沢だね、このつまみも行ける」

「エースさんが持ってきてくれた野菜がいい味出してるんですよ」

 

互いに酌をしつつも夜空を楽しむ、静かに流れる大人の時間。

 

「デビューが一番早いエアエアがあと2年、それまでどこまでやれるもんですかね」

「さあな、それこそお前たち次第だしなぁ……あたしはそれよりもステゴを上手くコントロールする事の方が一番大事だと思うけどな」

「気性難っすからねぇ―――だからこそ面白い」

 

バーベキュー用に用意した焼き肉のたれで揉んだきゅうりを口に含みながらもランページは笑った。

 

「ステゴがチームに入った時、あいつに対する風聞って奴を確かめてみました」

「結果は」

「散々でしたね、扱いづらい、絶対にスカウトしたくない、問題を起こすに決まっている、怖いetc……」

「生肉食ってますって言われても多分納得すっからなぁあたしも」

「だけど、気性難っつうのはそんなに問題ですかね」

 

新しくビールを開けながらもランページは思う、気性難というのはそこまでに問題視されることなのか。

 

「大人しけりゃいいのか、扱いやすければいいウマ娘なのかって。そうじゃねえでしょ、気性難上等っすよ。そんだけ爆発力があるって事だ、それが分かれば後はこっちでうまい事誘導してレースで全てを爆発させてやればいいだけの事」

「それについては同感だな、お前だって気性がいいとは言えなかったもんな」

「でしょ、広義的な意味じゃ俺だって気性難。問題起こしまくってるし」

「だな」

 

ランページは自分の事を気性がいいと思った事なんて一度もないし寧ろ気性難だと思っている。そんな自分が走り抜け続けられたのは南坂の尽力が大きい、心の底から信頼できる人だったからこそ文句が出るようなメニューにも迷うことなく従い続けていた、ステゴともそんな関係を築けたらいいなと思っている。

 

「なら、あたしも明日もガンガン扱くとするかな」

「明日は俺も参加しますから余計に地獄になるでしょうね」

「だな。んじゃそれに皆が耐えられるように祈って、乾杯と行こうじゃん」

「うっす」

「「乾杯」」

 

一気に煽る、思わず声が漏れる。互いに大きな声だったなと笑っていると足音が聞こえてくる、そちらに目をやると目を擦りながら舟をこいでいるスズカの姿があった。

 

「ランページしゃん……起きてたんですか……?」

「あっ起こしちまった?」

「お手洗いに行ってたので……聞こえ、てき……てぇ……」

 

眠気に抵抗しきれずに崩れ落ちる様にランページの膝の上に身体を委ねるスズカ、そのまま寝息を立ててしまったその姿に二人は笑った。

 

「こらこら、俺の膝なんて硬いもので寝るなよ。疲れ取れねぇぞ」

「これじゃあ晩酌もおしまいだな、冷蔵庫に入れとくからまた明日だな」

「っすね。んじゃ俺はスズカを部屋に連れてきます」

「あたしも部屋行くわ」

 

しょうがないと言いつつも二人は笑って晩酌会を終わりにした、そしてランページはそのままスズカの部屋まで行って彼女をベッドに寝かせる。軽く頭を撫でてから自分の部屋に行こうとするのだが―――一瞬、気配を感じる。だがあえてそれに気づかないふりをしたまま立ち去る。

 

「……」

 

その影は、ずっとそこにいた。だがトレーナーが部屋に戻るの確認すると自分も部屋に戻るとベッドに潜り込んだ。

 

 

「走れ走れっ!!俺を追い抜くぐらいの気概で走れ!!」

『はいっ!!』

 

合宿二日目。今日も砂浜でのダッシュが行われる、が今日はその先頭をランページが務めている。まるで芝を走っているかのようなスピードと足さばきを見せる彼女は自分たちとは全く別次元の走りをする。流石はあの最悪の凱旋門を制しただけはある。

 

「こんな足場で、なんなんあのスピード……これが芝ダート最強の実力!?」

「当たり前だ、ランページさんならばこの程度本気の内にも入らんしまだまだウォーミングアップの段階だ!!」

「こっちは、もうかなり全力だしてるのに!!?」

「やっぱり、格が違うわね……」

「ノープロブレム、これからもっともっと強くなればいいのデース!!」

「タイキの言うとおりだ、気合入れて走り込むぞ!!」

 

ムードメイカーのタイキと上から引っ張り上げる真面目なエアグルーヴという二人がチームの雰囲気を引き上げていく。それを背後で聞きながらもこの二人の組み合わせは中々にいいなと思う中でエアグルーヴの檄が飛ぶ。

 

「ステイ貴様っその走りは何だ、それでもプレアデスの一員か!!」

 

最後方を走っているステゴ、その表情は変わらない。いつも通りのマイペースさ、自分の決めたルールに沿って走るが如く。他人のルールになって興味なしと言わんばかり―――

 

「ランページさんに恥をかかせるだけだ、やる気がないやらやめるか!!」

「おいエアエアあんま言い過ぎる」

ああっ?

 

流石に注意をしようとした時だった。一瞬のうちに深々と踏み込まれた砂浜が爆ぜた、そして瞬時にエアグルーヴ達を追い抜くとランページに迫ってみせた。

 

「速いっ!!」

「な、なんか足跡がクレーターみたいになってるんだけど……」

「WOWすごいパワーデース!!あれが発揮する末脚ってきっと凄いでーす!!」

「貴様っ走れるなら最初から確りと走らんかたわけ!!」

 

「ステゴ、そのまま抜いてみな!!」

「―――応っ!!!」

 

今度はランページを追い抜かんと走り込むステゴ、元々パワーはある方な上に小柄なので身体の操縦性は高い、その気にさえなれば彼女の実力は新入生とは思えぬほどに高いのだ。

 

「(やめるだと……ザケた事抜かしてんじゃねえぞ)」

「如何した、ペース上げちまうぞ!!」

「ンなろぉがぁ!!!」

 

 

「よし最初の走り込みは終わりだ」

 

予定していた時間も過ぎたので走り込みを終わらせるのだが、そこへエースがやってきた。後ろに客人を連れて、その姿を見てランページは笑う。

 

「お前ら、合宿を始める時に言ったと思うがこの日本のレースに殴り込みをかけてくる海外ウマ娘がいるって。如何やら到着したみたいだぜ」

 

その言葉に顔を上げるとそこにはランページの海外遠征において、覇を競い合ったウマ娘がいた。

 

「よっまたジャパンカップ狙いか?」

「うるさいよ、貴方のワールドレコードを抜いて今度こそジャパンカップで勝ってやるわ」

「ふふんっ私はそれだけじゃなくてエリザベス女王杯にも出るのよ」

「なら、俺はチャンピオンズカップで勝ってやらぁ」

 

エルグッツ、シルバーストーン、シュタールアルメコア。彼女らが参戦するとなると秋のトゥインクルシリーズはまた熾烈なものとなる事だろう。紛れもない強者、世界という広い世界で戦うウマ娘の姿にプレアデスの面々は思わず喉を鳴らす。

 

「後で相手しろよな、その為にここに来たんだからな」

「ったくこちとらトレーナーだぞ、育成に集中させろよ合宿なんだから」

「そうかてぇ事いうなよ、レジェンドレースってのに出るんだろ。その為だと思えよ」

「ボロクソに負けて調子崩して俺のせいにされたくねぇんだよ、全員俺に勝った事ねぇ癖に」

「そ、それはいいっこなしじゃない」

「これでも凱旋門ウマ娘なんだけど」

「俺はそれを破ってワールドレコードホルダーです」

「テメェ……!!」

 

和やかではあるが何処か厳かな緊張感が漂う。だがそれを見て強く構えながら笑う者もいる。

 

「(やってみてぇ……戦ってみてぇ……!!)」

「(あの人たちと同じ場所を、見てみたい……!!)」

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