「これよ、私たちはこれに負けたのよ……!!」
「ちっ改めてこの目でじっくり生で見ると違いがはっきりしやがる……」
「マジで衰えてないわねぇ……数か月でも現役引退してるはずなのに」
海外から日本のトゥインクルシリーズに殴り込みをかけてきたシルバーストーン、シュタールアルメコア、そしてエルグッツの三人。日本戦線での調整のためにプレアデスの合宿でチームの面倒を見て貰う事になったのだが、やはりメインはランページ。自分たちを完全に上回った最強最速に如何してもう一度リベンジしたい、現役引退なんて理由にはならない。勝つだけだと思っていたのだが―――
「スズカ、サニーこれがお前たちが越えるべき逃げの姿だ。これを目に焼き付けて必ず超えて見せろ!!」
「「はいっ!!」」
逃げウマ娘である二人の為に実演する走り、その走りは正しく世界の頂点に立ったものにしか出来ない凄まじいものだった。メジロ家のコテージに備え付けられていたコースは東京レース場と同じ、そのコースを高速で走り抜けていくその姿は見る者すべてを魅了する。
「分かっていたつもりだがやはりランページさんの走りは異次元だな……」
「直線での伸びも凄いけどコーナーリングで全くスピードを落とさずに曲がれてる……しかも再度の直線に入ると更に速度が上がる……」
エアグルーヴとドーベルの二人から見ても言葉が出ない程に凄い。何度映像を見た者から見てもその走りは紛れもなく一級品。
「っっ!!」
第三コーナーへと入った瞬間に、ランページの態勢が低くなる。姿勢を下げたのではない、身体全体が僅かに沈んでいた。その理由は芝に脚が食い込んでいる、シンザン鉄によって鍛えこまれた過剰なパワーで遠心力に対抗、それによってトップスピードを維持したままコーナーを制する。しかもラチとの隙間が極端に狭く、G1ウマ娘の理想の最短距離とされるそれの数段先を行く距離で抜けていく。
「ラストッ!!!」
コーナーを越えて直線に入った瞬間に、全てが爆発する。まるで四足獣を思わせる低いフォームを取りながらも本当のトップスピードへと到達する、それを見た時に三人は思わず身を乗り出してそれを瞳に焼き付けようとした。そしてそのまま―――エースが構えるゴール地点を通り抜けていった。
「いいタイムだ、全盛期から衰えてるって言ってるけどそれ絶対当社比って奴だろ」
「衰えてるのはガチっすよ、BCクラシックとかのガチの全盛期と比べちゃうとね。スズカ、サニー見てたか?」
タオルで汗を拭いながらも二人を見るとコクコクと必死に首を縦に振っていた。まるでおもちゃのような二人に笑いが込み上げてくる。だがそう様子から安心も得られたのも確かだ、自分はまだ彼女たちの夢であり続けられているという実感を得られた。何れは果てる夢、だが今ではない。出来るだけその夢を壊したくはない。
「これをやれとは言わない―――超えてほしい、いや超えて見せなお前らにはその才覚がある」
「はっはい頑張ります!」
「わ、私だって頑張りますから見ててください!!」
「応」
片腕を上げてそれに答えながらもドリンクを口にする、するとエルたちが近づいてきた。
「相変わらずふざけた走り……ああもう何で引退しちゃったの!?」
「全くだぜ、本番のレースであれともう走れないなんて……」
「ねっお願いだからまた走れない!?」
そういう誘いは嬉しいが……もう既に自分の舞台はそこではない。一度降りた者に上がる資格はない、上がるとしたら別の舞台しかない。
「ンな事より、お前らから見てプレアデスはどうだ?」
「と言っても全員デビュー前じゃない、まだまだ成長途中の段階で評価を固めるのは良い事じゃないわよ?ここから一気に伸びたり均一化されたり、個性が出たりする時期だし」
如何にもエルグッツらしい言葉だ、評価するにはまだまだな段階と示せば隣のアルはそんなことはないと胸を張る。
「俺はステイゴールドだったか?あいつが気に入った、あの面と気迫はレースで役に立つし全員良い顔して前見てるじゃねえか。こりゃ確実に伸びるぜ」
「同感。皆見込みあるし現役だったら絶対に対戦したいと思うぐらいの子だよ」
「あんがとよ、そう言われて少しだけトレーナーとしての荷が下りた気がするぜ」
「よく言うぜ俺たちの意見を取り入れる気はねぇくせに」
「だったらテメェらの走りにダメ出しでも入れてやろうか?」
プレアデスに関して有り難い言葉を頂けたので逆に自分がそちらに対して何かを言ってやろうかという気持ちが浮き上がってくる。
「まずエルは全体的に纏まり過ぎててらしさに欠けてる、それでも凱旋門獲ってるのは流石だけど運が良かった部類だな。突き出したものがないからいざ上を行かれるとその上を行きにくい」
「き、気にしてる事を……!!」
「シルバーは別段悪い所はねぇな、先頭の執着があるって所だけじゃねぇか?まあ逃げウマ娘としては大切な事だし奪い返すっていうモチベもあるし、コーナーリングを磨けばいいと思うぜ」
「やっぱりそうなんだよね~そう思って貴方のコーナリングを取り入れようとしてるんだけど、敢えて滑らせて曲がろうかなぁって思ってるの」
「何、ウマ娘の脚でドリフトでもやんの?」
「目指すべきはそこだね」
「無茶言うな」
日本勢からすれば何をやってくれているんだともとれる類のアドバイスだが、この位で負けて貰っては困る。この三人は挑戦しに来ているんだ、ならばこちらはそれを迎え撃たなければならない、それに―――イクノ達ならば3人が強ければ強い程に燃えるタイプだから問題は無いだろう。
「ンでアル」
「応幾らでも言ってくれ」
「まずお前の戦法ワンパターン過ぎて読まれやすい、強力なのは認めるけどそれしか選択肢がないって対策も取れるって事だぞ。それだけに絞るにしても誘導するって事もないしな、もうちょっと幅が欲しいな。じゃねえとお前レディとダイナにボロ負けすんぞ」
「……」
「ズバッと言い過ぎじゃないかしら……?」
思わず膝をついてしまった、自分でも分かっていたがこうもはっきりと示されると思った以上に心に来る……まあ自分の心を折ってくれた相手でもあるのできつめの言葉を言ってしまったがアルの弱点である事は事実なので確りと指摘はしておく、そんな面々と行う合宿が行われる中、ランページの携帯に電話がかかってきた。
「あい独裁暴君です」
『あっランページさんアタシ、今大丈夫!!?』
電話をかけてきたのはパーマーだった。ひどく興奮しているような口調だったので何事かと思ったが―――その理由は直ぐに分かった。涙ぐみながらも精いっぱいの声で、報告をしてくれたのだ。
『アタシ、アタシ……やった、やったよっ……アタシ……G1勝てたぁぁぁっ……!!!』
「そうか、遂にやったかパーマー!!」
その報告はメジロ家にとって、いやパーマーにとっての悲願の報告だった。G1制覇、しかもただのG1ではない―――彼女が制したのは……グッドウッドカップ。イギリスにおける夏のステイヤー王者決定戦、長距離三冠の一角である。