貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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319話

『これは、何という事だ。去年、この欧州で嵐を巻き起こした日本のメジロが、今年も嵐を巻き起こしているぅ!!』

 

イギリス。暴君の活躍も未だ脳裏に焼き付いてしまっているその地で日本からやって来た一人のウマ娘が彼女を思わせる戦法で先頭に立ち続けていた。同じメジロの冠を持つ大逃げステイヤー、メジロパーマー。ランページの誘いもあって敢えて宝塚記念をスルーする選択肢を取り、2か月前からイギリスで走り続けた彼女が今、その結論を出そうとした。

 

『メジロメジロメジロ!!!この長距離を先頭で走り続ける彼女の名だ!!!残り300mを切った、だが後続とは6バ身差!!この距離を常に全力で逃げ続けたメジロパーマー、それに引っ張られてきたがもう着いていくのがやっとなのか!?これが、爆逃げなのか!!?』

 

札幌記念での好走、それによって見出された洋芝適性。メジロ四天王の一人として数えられるがG1を取ることが出来ずに一人だけ、格落ち扱いされていたパーマーだが―――それも今日で終わりだとパーマーのトレーナーは目に涙を溜めながら彼女の走りを網膜に焼き付ける。

 

「いけええええっパーマァァァァッ!!!」

「これが、メジロいや、パーマーの走りだぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

トレーナーの叫びは彼女の背中を押す推進剤となった。自分を信じて共に駆け抜け続けた末の答えがもう直出る、悩み続けてきた自分の存在価値、重すぎる家の名前に潰されそうになるたびに支えてくれたトレーナー、彼の為にも自分は証明する。これが、私の走りだと。疲れ切った身体に漲ってくる力、そして見えた。自分だけのロードが。

 

「爆逃げぇぇぇぇぇっ!!!!」

『これが日本のウマ娘か、これがあの暴君の祖国から来たステイヤー!!3219mを完全独走、先頭で走り続けたウマ娘の名は、メジロパーマー!!今年も日本のウマ娘がこの欧州で嵐の中心となったぁぁぁぁ!!!』

 

駆け抜けた末に見えたマッハの夢、届かぬと諦めかけた故に遂に手が届いた。イギリスG1レース、グッドウッドカップ制覇。その栄光を手にしたとき、パーマーは全身にもう力なんて残っていないはずなのに、駆け寄ってきたトレーナーと抱き合いながら心からの嬉しさを爆発させながらも涙を流していた。誰よりも長い距離を逃げ続けた彼女にこそ許される涙がそこにあった。

 

『アタシはパーマー、メジロパーマー!!』

 

この瞬間から、パーマーは胸を張って自分がメジロのウマ娘だと言えるようになった。

 

 

 

「こりゃ見事だなぁ……」

 

序盤から全力の大逃げを打った。欧州には色濃く自分の走りが残っているが、3219という距離は天皇賞(春)よりも長くそんな距離を大逃げで走り抜けられるわけがないと思われただろう。自分のペースで行こうと思う者が大半の中でパーマーは逃げ続けた。そしてそれは2000mを越えても尚続いた、それが焦りを起こして徐々にペースが上がっていった。

 

「普通、こんなペースで逃げるなんて考えられませんが……」

「でもパーマー姉さんはステイヤーズステークスを勝ってる」

 

プレアデスの皆でその映像を見てみるのだが、その大逃げの迫力は中々の物だった。エアグルーヴは戸惑い、ドーベルは何処か誇らしげだった。

 

「普通に考えりゃ正気の沙汰じゃねえ筈、正しく狂気の大逃げだぜ」

 

ステゴの意見ももっともだ。何せランページやターボのそれとは全く違う異質な走り、あんなペースで走っているのに垂れずにラストの直線では他を突き放すかのように伸びてみせたのだから。レースで対戦したウマ娘の驚きは自分たち以上だったことだろう。

 

「でも要所要所で上手い事ペースを落として一呼吸してますね、ほらっ此処とか」

「ホント、微妙にペースを落としてるけど他には気づかれない位にちょっとだけ」

 

同じ逃げウマ娘のサニーとスズカからもこのレースは勉強になった、特にサニーの場合はペース変更を取り入れる気が満々なので絶好の研究材料にもなり得た。そしてそれは同じように見ていたシルバーも同様だった。

 

「……ジャパンカップとかに出てくれないかしら、戦いたい」

 

同じ大逃げウマ娘としての血が騒いでいるのか、その瞳はギラギラと輝いている。それはランページも同じではあるが、やはり自分とは全く違う存在であることを強く意識せざるを得ない。あんな長距離を大逃げし続けるなんて自分には絶対に無理だ。

 

「このまま凱旋門に挑戦とか、ないでしょうね?」

「それは如何だろうな、このまま日本に帰って来ても可笑しくはないし他のレースに出ても良いとは思うが……まあとにかく、これでバカな連中がパーマーの事をメジロ四天王の汚点だとかふざけた記事を書く事もなくなる」

 

海外G1を制したという事はそれほどに価値がある。未だに分厚い海外の壁を文字通りに超えた事を意味するのだから、きっとアサマも喜んでいる事だろう。

 

「にしてもトレーナーにああまで抱き着いちゃってまぁ……相当に嬉しかったんだな」

 

ゴール後に我慢出来ずに入ってきてしまったパーマーのトレーナー。抱き合う二人を観客、そして出走ウマ娘たちも大喝采で祝福している。

 

『悲願のG1初勝利を飾ったメジロパーマー、トレーナーとの絆があってこその勝利でしょう!!素晴らしい走りでした、称えましょう、彼女こそがチャンピオンだと!!』

 

「ですが……距離、近すぎません?」

 

と思わずエアグルーヴが苦言を呈する程度にはパーマーとトレーナーの距離は近く見える、平気で抱き合って居るしインタビューでは自分はパーマーとどこまで逃げていくつもりです。と真剣な顔で言ってその隣ではパーマーは照れつつもトレーナーとどこまでも!!と笑顔で言っている。自分と南坂のそれとは別の意味で距離が近い。

 

「大丈夫だよエアエア」

「しかし……」

「お前が勝った時は俺がお姫様抱っこしてウイニングランしてやるから」

「それなら―――えっ?」

 

この後、軽く修羅場った。

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