貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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32話

いよいよクラシックの舞台へと上がったランページ、見据えるティアラは既に見えている。後はそこへと駆けあがる路線へと登るだけ。

 

「んで南ちゃん、俺のスケジュールって如何するんの?」

「はい、イクノさん同様に暫くはクラシックで走る為の身体作りを中心にしようと思っています」

「それでいいのかよ、イクノが言ってたみたいに経験を積まなくて」

「それも大切ですが相手もお二人の能力を把握して来ている筈です」

 

これまで多くのレースに出場している二人、ランページとイクノはそれぞれ6戦を走っている。其処で経験を積んだ事は明確に力になるだろうが、二人はそこで力を示してきたが故のマークを受ける。阪神ジュベナイルフィリーズでは雪による重バ場という要素もあった、それをシンザン鉄で得たパワーで撥ね除ける事が出来たが、それでは完全な運勝ちだ。完全な実力で勝てるように鍛える必要がある。

 

「その為の身体作りか……シリーズ任せるって言った手前異論はねぇ、んで次走はいつにするんだ?」

「そうですね……ティアラ路線ですので桜花賞に出る事は決定、その前にと思ってます」

「んじゃチューリップ賞で頼むわ」

「チューリップ賞、ですか?」

 

思わず聞き直してしまった。チューリップ賞はG2の重賞レース、加えて桜花賞と同じ距離で同じレース場。ティアラ路線を通るウマ娘ならば確実に見逃す事が出来ないと言えるレースの一つだった、納得の選出だと思ったのだが

 

「ちゃん先輩と同じように制覇してやろうと思ってさ」

「―――ああ成程、そういう事ですね?」

「そゆこと♪」

 

メジロラモーヌのトリプルティアラはシンボリルドルフやミスターシービーを超える物だと言われている。その理由は前哨戦とされるトライアルに出走してそれらに勝利した上で三冠を達成している為に、彼女の事を完全三冠と呼ぶものも多い。故に二人を超えたとも言われる。

 

「そこはフィリーズレビューではないんですね」

「生憎短距離は走った事ねぇからな、そこまでちゃん先輩に合わせる必要はないと思ってよ。俺は俺の距離で結果を出せばいい訳だ」

「正論ですね、アネモネステークスというのもありますが除外ですね」

 

距離では同じくマイルのアネモネステークスというトライアルもあるにはあるが、そちらは阪神ではなく中山なので桜花賞と条件が異なってしまうので当然除外。

 

「なあ南ちゃん、一つ聞いても良いか」

「何ですか?」

「俺のクロスオーバーステップってさ、普通のレースで役に立つ?」

 

聞きたい事、それは自分の持ち味ともいうべきステップの存在だった。アサマも東条トレーナーも注目していたそれだが、此処まで走って来てそれを使用する機会はなかったので活用出来るのかを思い切って聞いてみる事にした。すると南坂は少しだけ苦笑して答えてくれた。

 

「素直に答えるとそのままで活かすのは難しいですね、クロスオーバーステップは真横への物ですから基本的に前へ前へと進んでいくレースでは前から落ち込んできたウマ娘がいた場合位ですかね」

「逃げの俺じゃ意味ねぇって事か」

「ええ、ですので別の側面で活用してますよ」

「別?」

 

そう言いながらも自分の膝を叩きながらも説明を入れる。

 

「ランページさんの最大の特長は膝の強さ、ステップによって年単位で鍛えられた事で元々柔軟だった関節に強固さが加わっています。シンザン鉄の導入もそこが決め手でした、そこを鍛えつつも膝を武器にした前傾姿勢走法です」

「あ~……そういう事だったのねん」

「今の状態ならばさらに全力を出した状態でも膝への負担は大丈夫な筈です」

 

改めて聞くと南坂の見通しに驚く、元々あった自分の素質を見抜いただけではなくそこを鍛えつつも最大の武器にする為のトレーニングをさせていたのだから。この人が自分のトレーナーで良かった、敵だったらと思うと一番恐ろしい。

 

「と言う訳ですので、クラシックでのレースに向けてランページさんには新しいメニューに取り組んでいただきます」

「応、何すればいいんだ?」

「此方を……使って頂きます!!」

 

部室の一角に置いていた箱を腰を使いながら持ち上げてテーブルの上に置く。それ程までに重いのだろうか、何やら既視感を覚えながら箱を開けてみるとそこには……新品ピカピカの新しい蹄鉄が納められていた。

 

「ランページさんの為に新しく特注したシンザン鉄です、以前よりも重量をアップしておきました」

「マジかよ……」

「それと今年からは坂路トレーニングを積極的に取り入れていきます、クラシックを戦い抜く為には脚の強化は不可欠ですから」

「これ着けて坂路……嘘だろ……」

 

試しに持ってみると以前のシンザン鉄よりも重い、普通の蹄鉄と比べると5倍以上はあるんじゃないだろうか……しかもこれで坂路を走れだなんて……自分は何処の坂路の鬼だと言いたくなった、因みに既に入学している。

 

「黒沼トレーナーみてぇなメニューになるね、それ」

「実際一部監修をお願いしました」

「マジかよ……」

 

トレセン学園一のスパルタトレーナーとして名高い黒沼トレーナー、別名トレセンの龍。恐れられているが実際は距離適性や脚質適性を改善する事に非常に長けている、何処までならば行ける、これ以上はまずいという線引きが非常に上手いが故にそれがスパルタとして現れている。トレーナー側としては腕利きとして尊敬され、ウマ娘達からすればスパルタとして恐れられている。

 

「大丈夫です、ランページさんなら乗り切れると信じてますから」

「重い、信頼が重いよ南ちゃん……物理的にそれが現れたらダメだろ……」

 

だがしかし、これは同時にあのミホノブルボンを育て上げた黒沼トレーナーからの指導とも取れる。そのトレーニングを超えられる自分が作る事が出来ればクラシックでも十二分に戦えるようになる筈……そう前向きに捉えながらも新しいシンザン鉄をシューズに打つ。

 

「因みにイクノさんにもシンザン鉄を渡してあります、以前のランページさんと同じ重さの物をですが」

「イクノも……なら前からやってる俺がへこたれる訳には行かないな……やってやろうじゃねえかこの野郎!!」

 

イクノも頑張っているのであれば自分だって負ける訳には行かない、何故ならば―――このカノープスをトレセン最強にする為にも負ける訳には行かないのである。

 

「その意気です、それじゃあ早速坂路行きましょうか」

応任せろ!!

「声震えてません?」

「そこは察して」




もう一話出来ちゃったから投稿しちゃいます。ですが今度こそ正真正銘今年ラストです!!

次回は又来編!!ではよいお年を!!
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