貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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322話

授業中の事、ちょうど誰もコース上を使う時間帯ではないのだが、それを独り占めして駆け抜けているウマ娘がいた。学園指定のジャージに身を包みながらもとんでもない快速でターフを駆ける姿はまるで彗星にも見える。大地を疾駆する彗星、そんな姿を仮に誰かが見たらスカウトせずにはいられない事だろう。だからこそこの時間帯に走ったともいえるのだが……ターフを駆けていたのはランページ。

 

「やっぱ偶には走らねぇとな……鈍らせるにはまだまだ早い」

 

トレーナー業をしながらも彼女は自身の鍛錬を全く怠っていない、まだ引退してからそこまで日にちが経っていないというのもあるが簡単に自分の走りを鈍らせるというのはプライドが許さないというか単純にもったいないように感じたから。プレアデスの皆もそうだが、トレセンの多くのウマ娘たちは自分に夢を見てくれた、だからこそその夢を持続させるのも役目の一つだと思っている。

 

「さてと、続き続きっと―――」

「あ、あのっ!!」

 

もう一周今度はガチの全力で……と思ったのだが声をかけられた、聞き慣れぬ声にそちらを見ると若いトレーナーが此方を見ていた。

 

「なんか用かいお若いお兄さん、誰もいないからってナンパかい?」

「ナンパっていいやそのそんなことは……っ!?ああ嫌でも声をかけたのは理由があって、あっでもやましい事では決して……!!」

「……くくっあははははっ!!そんな取り乱すなよお兄さん、からかって悪かったな」

 

軽いジャブのつもりだったのにえらく慌てたので思わず大爆笑してしまった。からかいがいのあるお兄ちゃんで結構な事だ。

 

「ンで何か用事があんのか?」

「えっとその、君、君は担当トレーナーっていますか!!?」

「あっ担当?あ~あ……いない、でいいのか?」

 

その質問に本気で首を傾げた。何言っているんだ?クソ真面目にとるならば自分にとってのトレーナーは南坂という事になるが、自分は彼の下から離れているので現状は担当トレーナーはいないという事にはなる。そもそも自分自身がトレーナーではあるのだが……だがなぜそんなことを……ある種の思考停止状態になっていると彼はまるで告白でもするかのように思いっきり頭を下げながら自分に手を差し出した。

 

「君の走りに惚れました!!お、俺の担当ウマ娘になってくれませんか!?」

「―――ハッ?」

 

思わぬ事で思考が止まる。これはあれか、スカウトで良いのだろうか。いやというかなんで自分にするのだろうか、もしかして自分がメジロランページだと分かっていない?いやこれでも一応有名人だという自覚はあるし出掛ける時だってちゃんと変装はする、今日は偶々ジャージではあるが普段のイメージとかけ離れているから分かっていないのか?と思う中でリセットを掛けながら湧き上がってきた悪戯心に従う。

 

「ほほう、この俺ちゃんに目を付けるとはシャープだな。ふふんっそう言われるとまんざらでもねぇな。だがな、俺ちゃんをスカウトするって事は大変だぜ?」

「き、君ほどのウマ娘のトレーナーならばそれも当然だとお、思っているつもりだ!!今年からの新人だから、精いっぱい務めさせてもらうから!!!」

「クククッハハハハハッ!!!こいつはいい、いいぜその告白受け取ってやろうじゃねえか」

 

笑いながらも肯定のメッセージを送ってみると彼は顔を上げて満面の笑みを浮かべた。新人トレーナーにとっての最初の壁が担当ウマ娘の獲得の難しさ、誰だってトゥインクルシリーズを駆けるならば実力が確かなトレーナーに頼みたいのは人情というもの。だからこそサブトレーナーから入るのが推奨されるのも頷ける。さて喜んでいる彼に優先度の高い先制技を仕掛けるとしよう。

 

「んじゃ自己紹介だ、俺はメジロランページだ」

「メジロってあのメジロ家?!こりゃ凄い子の担当になれ……え"っ

 

ニコニコと微笑み続けているランページとは対照的に、顔が青くなって行ったり赤くなって行ったりゲーミング色に変わっていく。流石に名前は知っているようで安心した。

 

「あ、あのメジロランページって……あのすいません、去年凱旋門とBCクラシック制覇しませんでした……?」

「ああ、ワールドレコードで勝ったね」

「―――何やっちゃったんだ俺ェ!!?」

「あははははははっ!!!!」

 

 

「まあまあまあ、ほれっ顔上げてくれよ。茶入ったぜ」

「……穴があったら入りたい……」

「爆薬用意させて開けようか?」

「やめてくださいマジにしないでください」

 

プレアデスの部室まで移動した二人、肝心のトレーナーは先程までの自分の発言が何処まで恥ずかしかったのかを理解してしまい顔を伏せたままだった。

 

「俺に気づかねぇぐらいに走りに集中して見入ってくれたんだろ?ウマ娘冥利に尽きるってもんよ」

「お、恐れ入ります……」

 

念願のトレーナー試験に合格したまでは良いのだが、合格通知が来た日にお祝いをする為に買い物に行ったら車に轢かれて先日まで入院していたらしい。そして漸く退院してトレセン学園に来て、初めて見た走ったウマ娘が自分だったので思わず衝動的にスカウトしてしまったとの事。どこぞの無人島ツアーに行ったトレーナーよりもずっと理解出来る事情。

 

「改めまして……今年からトレーナーになった上水流(かみずる)です」

「此方こそ宜しく、同じ新人トレーナー同士仲良くしようぜ」

「そう言ってくれると有り難いよ……」

 

そう言いながらも差し出して手を申し訳なさそうに握ってくる、ファーストコンタクトは衝撃的だったが何だかんだで純情でいい人な印象を受ける。まあウマ娘のトレーナーとしては個性が薄い気がしなくもないが……それはアプリトレが突き抜けすぎているだけだから気にしないでおこう。

 

「んでこれからどうするの、どっかのチームのサブトレーナーに入るか担当見つけるしかないだろうけど入院明けっつう事は結構出遅れちまってるだろ」

「その通りです……たづなさんからはめげずに頑張ってくださいって言われてるけど、やっぱり苦難の道かなぁ……」

「その事なんだけどな、お前さんは俺ちゃんをスカウトしたその責任を取るべきだと思うんだけど如何かな?」

 

その言葉に上水流トレーナーは大きく身体を跳ね上げた、先程ことを思い出して羞恥に顔どころか全身を震わせている。

 

「も、もう勘弁して……」

「だからよ、俺のチームでサブトレーナーをする気はないかって事よ」

「えっサブトレーナー?」

 

予想もしていなかったのか、目を白黒させながらも此方を凝視する。

 

「俺のチームは立ち上げたばっかりな上に一番早いデビューも数年後だ、トレーナーとしての経験を積む意味だと悪くねぇと思うぜ」

「えっでも、いいの?マジで俺、新人トレーナーで……」

「俺だってそうだ、新人同士助け合って前に進むのも悪くないんじゃねえのか」

 

勿論、ランページだって打算がないわけではない。ネメシスの統括チーフも兼任しているので時たま仕事が忙しくなる時があるしそうなるともう一人ぐらいはトレーナーがついてくれると色々と助かる面も大きい。それにトレーナー不足が深刻な事は認識してるので新人が歩む為の下地もいる事だろう、その第一歩だ。

 

「ぜ、是非お願いしたいです!!」

「おっしゃっそれじゃあ決まりだ、早速たづなさんと理事長に挨拶行こうか」

「えったづなさんは兎も角理事長に!?そ、そんな簡単に……」

「大丈夫俺フリーパスだから」

 

こうしてプレアデスに新しい仲間が加わったのであった。




頭の片隅に留め続けていたランページの競走馬編の断片から名前を引っ張ってきました。

元ネタの騎手さんもちゃんといます。
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