「えっとプレアデスの日程表がこれで次にこれを組み込んで、それでこっちが……よし出来た!!ランぺージさん何か手伝う―――」
「応終わったかい、んじゃ昼飯でも行くかい?」
「……あっはいお供します」
「えっと、タイキさんは次はこのメニューだね。サニーさんはこっちで、二人とも少しペース早いかもしれないからその辺り気を付けてね」
「OKデース!!」
「分かりました」
「ほらほらペース落ちてるぞ、この辺りでやめといてじっくりとっくり休んじまうか!」
「休み、ません!!」
「この程度、大丈夫です!!」
「私も……!!」
「俺は元々余裕だけどなぁ」
「はぁぁぁぁぁっ……」
職員室の一角、上水流は自分のデスクに倒れ伏すようにしながらも重い息を吐き出していた。交通事故から無事に復帰したトレセン学園の空気は思った以上に重くはなく、先輩トレーナーにもこれから頑張れよと応援を貰えもした、精進するぞと思ってサブトレーナーに就任したのは良いのだが……改めてあれが同じ新人なのかと思わずにはいられなかった。
「よっ如何した上水流、元気ねえじゃねえか」
「退院したばかりなんだから無理だけはしないようにね」
そんな彼を見かねた沖野と東条が声をかける、ランページのプレアデスのサブトレーナーに就任したのもあるが新人トレーナーを可愛がるのも先輩の仕事の内だと相手をしている。
「なんと言いますか、ランページさんの仕事量って凄いなぁ……って、あれで本当に新人なんですか?」
「そりゃ俺達だって思うさ、ネメシスのチーフ兼任だから普通のトレーナーの数倍は仕事量あるんだからな」
「私でもあれは無理ね」
ランページの仕事量はチームトレーナーの数倍はある、それなのに本人の仕事をこなすスピードが可笑しいので毎日定時帰宅をしているしなんだったら飲み会にも参加して翌日には二日酔いになる事もなく無遅刻無欠勤を貫いている。
「それなのに、俺っていうサブトレーナーっているのかなぁ……」
プレアデスのサブトレーナーに就任してまだ一週間とそこそこだが、自分という存在は必要あるのだろうか……という疑問すら浮かび上がってくる。併走相手ですら自分で事足りる、事務的な仕事も自分だけで片が付く、サブトレーナーなんて必要ないのでは?と考えない日はない。そんな疑問に答えたのはもう一人のトレセン学園のトップトレーナー。
「必要ですよ、ランページさんに貴方は」
「み、南坂さん!?」
「南坂で結構ですよ、少なくともランページさんは貴方の事を有難く思ってると思いますよ」
「そうとは思いませんけど……」
新人トレーナーとして経験を積むためにプレアデスの中でも社交的且つ大人しいタイキとサニーに現在はついているが、それ以外の事は殆どランページがやっている。一応自分でも出来る事はどんどんやっているつもりだが……。
「難しい事は考えなくていいんですよ、彼女は勢いで生きてますからその流れに上手い感じに乗って支えてあげれば優秀なプレアデスのサブトレーナーになれます」
「勢いで生きてる割りには凄い切れ者な感じしますけど……」
「そりゃおめぇ、ただの勢い者なら一発でトレーナー試験に受かる訳ねぇだろ」
「あの性格とペースで誤解しがちだけど、何だかんだで秀才よ彼女」
生きた神話、メジロランページ。活躍の場所をトレーナーに移してもその才覚は既に花開いている、そして数年もすればそれが本格的に日の目を浴びる事になる。自分はその時、その隣にいるのだろうか、それとも……難しく考えている自分の背中を南坂が軽く叩いた。
「大丈夫です、ランページさんだって新人の誼でサブトレーナーにした訳じゃないですよ」
「それじゃあどうして……」
「それこそ私に聞かれても困りますね、本人に聞いてください」
「本人に聞けって言われてもなぁ……」
チームの皆よりも先に部室に向かう上水流、取り合えず自分はトレーナーとしての遅れを取り戻すしかないんだと思いながら前に進む。そして部室へと入るとそこにはあの勝負服を着ているランページの姿がある。
「よっ早いな」
「そっちこそ」
「まあ俺は仕事の出来る女だから」
全く以てその通りだと思いながらも南坂の言うとおりに聞いてみる事にした。
「ランページさんどうして俺をサブトレーナーに取ってくれたんですか?」
「面白いあんちゃんだったから」
「それだけ!?」
「違う違う」
キーを叩く手を止めてコーヒーを啜りながらランページは答えてくれた。
「新人の誼ってのもない訳じゃないが、俺の走りを見て素直に感動してくれたのが嬉しかったってのもあったな。それに俺ってこのトレセンの中だと先輩方に嫌われてるからな」
「えっでも沖野さんとか東条さん達とは仲良しじゃないですか」
「だからだよ、新人の癖に何なんだよって事」
アンチランページの風がある事は確か、競争ウマ娘として優秀だったとしてもそれがトレーナーの能力に直結するとは限らないし人気だけでウマ娘を集めているという見方もされている。ゆえにサブトレーナーを引き受けてくれるのはいなかった。
「だからなんだよとも思う、だからこそ俺はそれをチャンスに変える」
「チャ、チャンス?」
「あいつらが俺を気に入らないならそれでいい、だがプレアデスのあいつらが甘く見られるのだけは我慢出来ねぇ。だからこそ力を付けるんだよ、あいつらがデビューした時に先輩方がびっくらこく瞬間を見る為にな」
何という強気な発言だろうか、これが世界を相手に戦ってきたウマ娘の強さ。
「上ちゃんは専門学校から来たんだよな?」
「えっああうん、高校からトレーナー養成校に入って資格を取ったんだ」
「だったらそっち系の知識も豊富って事だ、現場の視線と教科書の知識を組み合わせていけば頼もしいって事だ。俺も勉強させてほしいからある意味じゃニュートラルな新人トレーナーというのは有難いし上ちゃんにとっても俺のやり方はいい養分になるだろ」
お互いにメリットがある、ランページは専門校上がりの上水流の知識などを学習し上水流は逆にランページのやり方を見て学習する。これは大きな利にも繋がっていく、それを理解し始めた上水流にランページは最後の根拠を話した。
「俺はさ、結構運命ってやつを信じるロマンチストなんでね。上ちゃんから感じたのさ―――運命的な何かをさ」
「……その運命に答えられればいいけど、いや努力するよ。君の隣に立つに相応しくなるために」
「応、努力しろしろ~」
ランページが感じる運命的な何か、それはきっとルドルフがテイオーに感じるような何か。不明瞭ではあるがそれに従おうと思う、この選択はきっと正しい。
上水流トレーナーが誰なのか、IKZE味だったり様々な騎手を考えていてくださってますね。なので正解だそうと思います。
上水流トレーナーの元ネタとなっているのは五十嵐 久騎手。旧姓を