「にしても、南ちゃんも酷な事をするよなぁ」
「凄い練習量と密度だ……これで故障しないように安全マージンをしっかりとった上でを攻めてる……」
間もなくに迫ってくる菊花賞、ダービーウマ娘であるチケットも当然出走するのだがこれまで体験したこともないような長丁場はクラシック三冠路線の最大の壁とも称される。最も強いウマ娘が勝つと言われているのもそれが理由だ。そんな対策というのが
「うおおおおっっ!!」
「まだまだ、負けないから……!!」
「私も負けないぞ~!!」
「元気な事で、アタシは自分のペースで行かせて貰うよ」
意気軒昂といった様子のチケットと共に走っているのはライスとタンホイザにネイチャ、カノープスの中でもステイヤーとしては飛び抜けた実力を持った二人と、菊花賞をロングスパートで走り切ったネイチャがチケットの練習相手になっている。これ以上ない相手ともいえる、加えて三人は普通の蹄鉄だがチケットはシンザン鉄というハンデがある。
「チケットさんの方にそれを課すのか……逆にも思えるけど」
「使い方さえ間違えなければシンザン鉄は頼もしい味方だし、俺の時に一回やらかしてる南ちゃんが同じ愚を犯すとは思えない」
これだけに頼りすぎると逆に脚がシンザン鉄に慣れきって普通の蹄鉄だと走りにくくなるので注意がいる、それこそシンザン鉄のまま走れるのは本家のシンザンかランページぐらい、イクノはやろうと思えばたぶんやるだろう。
「菊花賞はチケットさんが勝つと思う?」
「さあ?」
「さ、さあって……カノープスの先輩なんだからそこは勝利を信じてるとかって言うべきところなんじゃ……」
「勝負なんて時の運、やってみるまでは何が起こるかは全く皆無で予想がつかない世界だぜ。それにチケットが努力してるって事は他の連中だって同じって事」
タイシンもいればハヤヒデもいる。三人はそれぞれをライバルだと認識して負けるものかと思って毎日励み続けている、チケットが努力すればするだけ二人もそれに負けぬと更なる努力を重ねるに決まっている。
ここぞという完璧な天才的なタイミングで末脚を爆発させたタイシン、気高く飢えたチケットの執念、それを見せ付けられたハヤヒデはそれを越えようとする。BNWの対決はこれからも続く事だろう、そしてその先も……と思う中でローレルがアマゾンとドラランと共に目の前を過ぎていく。
「次はあいつらか……やれやれ充実しているっていうのは素敵な事だが残酷な事でもあるねぇ」
BNWの次と言えばナリタブライアン、そしてローレルにアマゾンそしてドラランもデビューを行う。特にアマゾンは間もなくデビュー戦を控えている、その日が感謝祭の日と被っているのは何とも残念ではあるのだが、カノープスはそれを逆手にとってトレセン学園で応援するという趣旨のテーマの喫茶店を準備しているとの事。その日にレースがないメンバーが接客する事になっている。
「ドララン、デビュー明けなんだ無理すんなよ」
「大丈夫です先輩、もう元気いっぱいで抑えられそうにないんです!!うおおおおっ次のレースはまだかぁぁぁぁ!!!」
「いい気迫じゃないかい、アタイも負けてられないな!!」
「私だって!!」
カノープスの94世代最初にデビューしたのはドラランことドラグーンランス。8月の末にメイクデビュー戦を行った、ランページが引退してから初のカノープスの新星と喧伝されていたのだがそのデビュー戦は良くも悪くも大きな話題となった。何故ならば―――
『さあスタートしました、っておっと如何したドラグーンランスがスタートしない!?何か問題が起きたのでしょうか、あっいえ今スタートしました!!だが7秒はスタートが遅れています!!』
どこぞの不沈艦のような超が付きそうな出遅れをやらかしたのである。ランページはその時合宿中だったが、ネット中継で観戦していたが覗いてきたステゴと一緒に大爆笑した。が、7秒という大きなハンデを背負ったのにも拘らずドラランはぐんぐんと順位を上げていき結果的には4バ身差を付けて一着でゴールを果たした。
「もうゲート再試験なんて受けるなよ~」
「思い出させないでくださいよ~!!!」
その後、ゲート再試験を受ける事になったドララン。寧ろゲートは上手い部類で精神的な問題で遅れただけという事が判明した。緊張を沈めるのにえらく時間がかかってしまってスタートしたのに気づけずにドラランは特大の出遅れをやってしまったのだ。
「アマちゃんとローレルはドラランみてぇなことすんなよ~」
「ハッ何大丈夫だよ、何せ先輩方に面倒見て貰ってるんだからね!!」
「私も大丈夫だと思います、寧ろ注目されるのはどんとこいです」
頼もしさを覚えつつ同時にどんなレースをしてくれるのかという期待も膨らんできてしまった。今年のレースはまだまだだというのにも拘らず……ある意味これもトレーナーの性だと思いつつその様子を見ていると隣にターボがやって来た。
「ラン、チケット如何思う?」
「やるだけやって吐き出せばどんな結果でも満足するんじゃねえの、そういうもんだろ」
「確かに……ああそうだラン、言っとくことあった」
「寧ろそれが本題だろ、ワザとらしくチケットの事絡めやがって」
まるで悪戯が成功した子供のような笑みからターボは真剣な表情を浮かべた。
「トレーナーと話が纏まったの、来年にターボ海外挑戦する」
それを聞いていた上水流トレーナーは思わず喉を鳴らしてしまった、自分がそれを聞いてしまっていいのかという気持ちと日本の大逃げウマ娘が連続して海外を目指すという言葉のロマンに身体が震えて致し方ない。
「そうか、何処を獲る?」
「ドバイターフ、ランみたいにカッコいいトロフィー取ってくる」
「付き添うか?」
「暇だったら来てよ、忙しかったらいいからさ」
だがそれ以上に驚いたのはランページがターボが海外の地でターボの勝利を既に確信しているかのような口ぶりだった。いやそれはある意味で自分も同じなのかもしれない、既にターボがトロフィーを掲げている姿を脳裏に思い描いて震えているのだから。
「んじゃ忙しかったらスーちゃん、暇だったら俺だな。上ちゃんもそのつもりでいてくれ、可能な限り教えてやるからさ」
「ま、任された!!」