晴れやかな秋晴れの空、雲は気儘に空に浮かび風に流され我が道を行く。そんな空に花火が上がって音を立てる。今日はトレセン学園秋のファン感謝祭、数日に渡って行われる学園祭。生徒たちが各々出店を出したりアトラクションを企画したりとトレセンのあちこちでイベントが行われている。チームもそれぞれが共同で何かをしたりもするが……ランページのプレアデスは今年は何もせずに巡るだけに絞った。
「しっかし俺一人とは……意外だったな」
珍しい事にランページは感謝祭では一人だった。チームの皆はそれぞれが回る約束をしていたらしく、自分はそれを送り出す役回りだった。まあ自分もどちらかと言ったら運営側ではあるが……プレアデスはチームとしての出し物がないのでハッキリ言って暇、こうなったらエルグッツ達でも誘って適当に回るか……と思っていた時の事だった、外れに置かれたベンチに一人のウマ娘が座って顔を伏せていた。それに何か既視感を感じつつも何かあったのかもしれないと近づいた。
「よっお嬢さん、如何した」
「……」
「折角の感謝祭なんだ、楽しもうって気概がないともったいないぜ?」
「……」
少女は顔を伏せたまま、何も言わない。何かあったのかもしれない、迷子かと思ったがウマ娘としての勘とランページの人生経験が絶対にそうではないと告げている。青い耳カバーをしたウマ娘……放っておく事なんて出来ずランページは隣に座り込んだ。
「お姉さんに相談してみ、吐き出してみれば楽になるぜ」
「……」
「誰にも言わんよ、見ず知らずだからこそ言える事もあるでしょ」
なんというか怪しさもあったなぁと口にしてから思う、もう少しいい口説き文句あったなぁ……と自罰的になっていたのだがぽつぽつと語りだした。
「……ずっと、ずっとここに来たかったの。私にとってトレセン学園は憧れだったの……お母様みたいになりたくて、お母様みたいに走りたくて……でもお母様……だから一人で来たの。でも、来てみたら凄い楽しそうで、だから……お母様と一緒に来たかった……」
きっと彼女にもエアグルーヴにとってのダイナカールのような尊敬出来る素晴らしい母がいたのだろう、そんな母はウマ娘としても極めて優秀だったのだろう。そんな風になりたくてトレセン学園に来たかった、この感謝祭にもきっと母と来たかったのだろうが何か事情があって来られなくなった……という訳でもない気がする。仕事が忙しい云々ではなく、何か別の何かがある。
「そうかお母さんと来たかったのか……きっと凄いお母さんなんだな」
「……」
「羨ましいよ尊敬出来るお母さんが傍にいて」
「えっ?」
そんな言葉に少女は顔を上げた、思わず出てしまった言葉だが興味を引くには十分すぎるものだった。少女にとって母は大好きで尊敬する者だった、だがそれが羨ましいと言われるなんて思いもしなかった。
「君の事情は何となくだが察した、お母さんの気持ちは分からなくはない。だけど決めるのは君なんだぜ、結局のところ自分以外の存在は全て他人だ。他人の意見なんて全て感想でしかない、その感想を素直に受け入れるか弾みにするか参考にして自分を伸ばすかは自分で選べる」
「―――」
「難しかったかな」
「……いえ、確かにその通りだわ」
その言葉を受けて少女は顔を上げて空を見上げた。空を見つめ、そしてまるで人が変わったかのように大きな声で笑い声をあげた。
「そう、私は私!!お母様の意見は唯の感想よね、それを受け入れるかどうかなんて私次第だわ!!」
「おおっ何か元気になった?」
「ええっ恥ずかしい所を見せてしまいました、でも貴方のお陰で私はまた一歩、一流への道を確かに進む事が出来たわ!!」
「そうかそりゃ―――一流?」
思わず繰り返した、高笑いをするウマ娘を改めてよく見た。青いメンコに付いた緑のリボン、そして自信満々な笑みと高笑いに母との確執として一流とくれば該当するのは一人しかいない。そして、世代的に来年入学する組だったか……と酷く納得してしまった自分がいた。そんな自分に彼女は振り向きながらいい笑顔を作りながら言う。
「改めまして自己紹介をさせて頂きますわ、私は一流の目指すキング、キングヘイローですわ!!」
「これはご丁寧にご立派な指標をお持ちで何より、俺はここでトレーナーをやってるメジロランページだ」
「あらっトレーナーさんだったのね、成程それなら先程の言葉の深さにも納得が―――えっメジロランページ……?」
自分の名前を聞いて少女、もといキングヘイローは硬直した。そしてよく顔を見て言葉を完全に失った。うっかりというべきかポンコツというべきか……
母はアメリカのG1を7勝した名牝グッバイヘイロー、父は超軼絶塵の末脚でG1を4勝した80年代欧州最強馬のダンシングブレーヴ。その両親から生まれた超良血馬とされるのが黄金世代の一角、キングヘイロー。なんで日本にいるの?と言われるほどの超良血とされるキングヘイロー、馬体も素晴らしく絶対に走ると期待された。が、華やかな未来を期待されながらも歩む道筋は極めて苦難に溢れていた。だがそれでも彼は世代のキングと言われる。それは、決して名前だけではない。
「どどどどっどーしてあの伝説の無敗神話のウマ娘がこんなところにぃ!!?」
「暇だから?」
「貴方ほどの一流ウマ娘が暇ぁ!?どーなっているのよトレセン学園はぁ!!?」
余りの衝撃に慌てふためきながら大声を出すキング、しかしなんというかこの姿はアプリを知っている身としてはなんというか親しみが湧く。
「まあまあ気にしなさんな、俺は確かにチームトレーナーではあるけど今年発足したばっかりの新興チームで感謝祭には運営側で参加してる訳じゃねえから暇なだけだ」
「そ、そうなのね……びっくりしたわ……」
「さてとキングちゃんだったか、如何だ俺と感謝祭回ってみるかい?」
その申し出にキングは強張った、だがその瞳は期待と嬉しさに染まっている。実績で言えば彼女の母親をも超えている存在と感謝祭を回れるというのは光栄に極みに尽きる。直ぐに頷こうとするが、その一方で何やら言い難そうにキングはお願いをした。
「あ、あの……お母様に送る用の写真を撮ってもいいかしら……?」
「勿論。というか、俺も俺で君のお母さんと無関係って訳じゃないからな」
「えっ!?」
間接的な物ではあるのだが、実はランページとキングの母は繋がりがある。ランページに度々授与された新しい勝負服、それをデザインしたデザイナーチームは実はキングの母の同僚だったり、デザインには彼女自身も参画していたりしたのである。なので因縁がない訳ではない。
「お、お母様は貴方の勝負服もデザインしてたの!?」
「確か二回目の奴に参加してた筈、俺もあれは嫌いじゃないけどずっと着てた方に愛着あったしな~」
「そうなのね……」
そして、キングはランページとツーショットを撮って母に送るのだが
『お母様、未来のトレーナー候補を確保したわよ!!』
というコメントも付けたためか、送った直後に鬼電が飛んできた。
「出なくていいのか?」
「いいの、というか仕事があるって言ってたのになんで電話してくる暇があるのかしら。やっぱり私と行きたくなかっただけじゃない」
「(あ~なんか拗らせちゃったかな……)」
みんな大好きキング登場。やっぱキング出すとウララも出したくなるなぁ……。
ウララはオペラオー世代だからみんな、待ってくれよな!!