貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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330話

「難しいよ~!!!」

「何よ突然、どしたの急に」

 

マヤがプレアデスに加入してから数日、部室で仕事をしていると突然マヤがやって来てテーブルに顔を伏せたかと思っていたら大声を発した。まるで駄々をこねる子供のように癇癪を起している。

 

「俺、そんな難しいメニュー組んでねぇぞ?」

「メニューじゃないよ~、ランページさんの走り方が全然出来ないの~!!」

「何、アンタ俺に何も言わずにあれの挑戦してたわけなの。何勝手なことしてんのよ」

「だって挑戦してみたかったんだもん」

 

頬を膨らませながらそっぽを向いてしまった、何だかんだでトレーナーの指示を待たずに行動を起こしたこと自体は悪いと思っているらしい。

 

「マヤヤはセンス自体はあるんだが、如何せん身体の操縦性が足りてねぇな。後肉体のレベルもな」

「そうなのかな……できそうな気はするんだけど、何か足りてない気はしてたんだけど」

「俺も出来るようになるには随分苦労したからな……簡単にやられたら俺の立つ瀬がないんだよなぁ」

 

全身走法は文字通り全身を使って走る方法、言葉にするだけでは簡単に思えるが身体の各部を完全に直結させて無駄なエネルギーを取り残すことなく走りに転化させるのでコツがいる上にそれを会得するには肉体のレベルそのものも必要になってくる。センスはずば抜けていたとしても出来ないのも道理、才ある者が努力しなければ決して物にならない類の技術。

 

「それじゃあ、あの走り方はトレーニングいっぱいしないと出来ないって事なの?」

「まっそういうこったな。その為のメニューだって組んでやってるだろ、レコードラインの取り方とか荷重移動もそれだ」

 

マヤは兎に角天才肌、一度やってしまえばやり方を理解して出来るようになってしまう天才肌の秀才。アプリでも同じようなトレーニングはしたくないと言っていたのでランページはその対策に追われると思っていたのだが……マヤは思った以上に此方の言う事を聞いてくれる上に確りとメニューをこなしてくれている。如何やらその原因は全身走法だったようだ。

 

「マヤヤはまだ完全に自分の身体を扱い切れてないって事さ、自分の身体を本当の意味で自由自在に出来た時こそ全身走法は出来るようになるさ」

「ムゥッ……今でもちゃんと使えてると思うけど」

「それはこいつを履いて走れるようになってから言うんだな」

 

常に付けている5倍のシンザン鉄を見せながら言う。このシンザン鉄だって怪我をしないようにする為のものだが、その重量故にただ脚を持ち上げて走るではまともに走れない。全身で走らなければ本来の走りは出来ない。

 

「だってそれ重いんだもん~」

「まあ言いたい気持ちは分かるさ、んじゃまあその成果って奴を見せてやるか」

 

そういうとランページは部室の端に置いてあったショットガンタッチで使うボールを引っ張り出すとその上で座った。全くブレる事もないどころか動きもしない、そしてランページはそのまま正座をしてみた。

 

「えっ~!?凄い凄い、何でなんで!!?」

「言ったろ、身体を完全にコントロール出来るっていうのはこういう事なの。カノープスの連中はやろうと思えばこの位楽勝だろうな、多分イクノならこれだって出来る筈だ」

 

そういうと一旦降りてから改めてそのボールの上に乗った。だが今度はボールの上に立ってみせた。

 

「凄い~!!!サーカスのピエロさんみたい!!」

「まあこんな曲芸をやれって言いたい訳じゃねぇけど、身体を使いこなせるとこういう事も出来ますよっていい指標にはなるだろ。無理にこれをやろうとすんなよ、怪我するから」

 

ボールから降りて椅子に座り直すとマヤは早速やってみようとボールの上に座るのだが、あっさりとバランスを崩してしまって床にお尻を打ち付けた。

 

「難しい~……でもこういうのが出来たらあの走り出来るんだよね!?」

「身体を使えたらな?それが出来たら出来るって訳じゃないぞ、それとマヤヤはいつ頃のデビューがいい?それによって調整するが」

「早いのがいい!!来年になったらすぐ!!」

「いや早くても6月なんだけど」

 

史実のマヤは年が明けて僅か1週間後の新馬戦に出走しているが、それは怪我によって3歳にデビュー出来なかったから……だが実際マヤの実力的な物を考えると早めにデビューさせてガンガンとレースに出して経験を積ませるのもありではあると思う。天才肌故に練習だけでモチベーションを維持するのは難しいし自分の時みたいにやるのもありな気もする。

 

「分かった、マヤお前さんは俺みたいにガンガンレースに出す方針で行こう」

「ホント!!?」

「だが一つ条件がある」

 

真面目な顔つきでの言葉にマヤも確りとそれを聞く。

 

「俺はお前をG1に出すつもりで予定を組む、お前の言うエースの為の舞台だ」

 

こっからは本気で此方も腹を括ってトレーナーとして彼女らと歩まなければならない、今後のトレーナー人生を占う事にも繋がる重要な戦いを意味する。想像以上に険しい道になる事は目に見えている、だが望み所でしかない。やるだけやるだけ。

 

「レースって世界は煌びやかではあるがそれ以上に戦場みたいに激しい世界だ。やるかやられるか、生きる(勝つ)死ぬ(負ける)か。そんな世界で俺みたいに勝ち続けろとは言わない、寧ろ俺が異端なんだ。俺には王道を説けない、だから出走規定は唯一つ―――走り切れ、それだけだ」

「I copy」

 

それにマヤも応える、走り切る、これからのレースを全てを無事に走り切る。

 

「それなら―――そのためにも今は仕込みを続けよう、飛び立つためには整備も大切だがそれを使いこなす為の訓練も重要だ。ほれっ練習見てやるから行くぞ」

「は~い、そうだマヤと併走しよう~よ。ランページさんの走りを近くで見たいな~」

「近くで見られればいいけどな」

 

扱いは難しいと思っていたが、いざこうして接してみると子供らしさもあって自分とは相性が良かったマヤ。そんな彼女の道筋は少しだけ見えてきた、トレーナーとしての本格始動は間もなくだ。そんな思いとは裏腹にトゥインクルシリーズは秋のG1シリーズが始まろうとしていた。

 

ターボ、イクノ、ネイチャ、ライス、ブルボン、タンホイザ、テイオー、マックイーン。彼女らが出走する天皇賞(秋)が始まろうとしていた。

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