貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

332 / 635
332話

『8枠17番にトウカイテイオーが入ります、大外と言われると不利な印象が拭い切れませんが』

『そうですかね、私はそうは思いませんね。包まれる心配もありませんし2000位ならぶっ飛ばしていけますし他者の走りを把握しやすい、切れ者であればある程に大外の不利というものは存在しません。私も大舞台だと大外が多かったですし、まあ全部勝ちましたけどね』

 

「遊んでますねぇ……」

 

ランページに孔明と例えられた南坂トレーナーはゲートインする皆を見つめながらもランページの解説を聞いて笑いを必死に押し殺していた。ちょくちょく挟まれるランページトーク、自分の実体験を交えた話の大半はこれまでのレースの常識、有利不利が通用しないようなものばかりだ。だが解説に入った時点で望まれているというのはそういう方面でも話ではあるので需要を分かってるやり口ではある。

 

『まあテイオーに大外程度が不利にはなりません、なったとしたら彼女の弱さが招いた事です』

『弱さ、ですか』

『運のなさという事ではありません。精神的な弱さです、寧ろ世間一般で言われてる不利は自分にとってはプラスだと言い張る位で居てほしいものです』

 

本当に割り切りが良い人だと思う、隣の佐々田トレーナーは解説なのになんてことを言っているんだ……と汗を流している。まあこれが彼女なのだから致し方ない。

 

 

『さあ全員がゲートインしました』

『此処に集った優秀達は最高のメンバー最高のライバル、それらが狙うは秋の盾、さあ今スタートしました!!全員良いスタートを切りましたがやはりここで飛び出していくのはターボだターボだ先頭は我にありと言わんばかりにいつも通りのドッカンターボで大逃げに打って出ているが、おっとそれに競り合うのはブルボン、坂路の申し子、サイボーグの異名をとる二冠ウマ娘が競り合っていくぞ。先頭はこの二人で決まりか、その後ろにはマックイーンがつけるが少々ペースが彼女にしては早いか!?』

『わ、私にも言わせてください!!メジロマックイーンの後方には漆黒のステイヤーのライスシャワーとナイスネイチャ、マチカネタンホイザが続いていきます。チームカノープスの流れが続く中でその後ろにトウカイテイオーが控えている、その近くにヤマニンゼファーも行きます!!』

 

何とも奇妙な事になってきた。解説が実況の仕事を奪い、それに負けじと実況がマイクを奪い返すような言葉の応酬が繰り広げられている。実況に自分なりのコメントも乗せているので聞いていて面白いのがズルさと新鮮さもある。

 

『先頭を走り続けるツインターボ、スタートダッシュからの加速を維持しているがミホノブルボンもそれに負けじと続きます。激しい先頭争い、互いにノンブレーキのアクセルベタ踏み状態!!これは最早何方かが脱落するかのデッドヒートの様相を呈してまいりました!!』

 

赤坂の実況を聞きながらもランページは鋭い視線を作ったターボの走りを見る、精神も身体も良好。スタートの出も良い、だがブルボンの方がスタート自体は速かったし良かった。こればかりはブルボンの身体の使い方が上手いとしか言いようがない、互いに加減する気なしの全力疾走ならば分は当然ブルボン。だがそれ以上に気を引く存在があった。

 

「(マックイーン、このハイペースにも拘らずイクノ並にペース崩れてねぇじゃねえか……しかもあいつ、ターボとブルボンを見てねぇなこりゃ。ゴールの一点のみに集中してる、こりゃ―――厄介だぞターボ)」

 

ターボとブルボンが作り出す超ハイペース、それに対応出来ているのはランページと併走と繰り返していたカノープスメンバーにテイオーとマックイーン。他には上手くスリップストリームで体力を温存出来ている者達ぐらい。

 

『そしてここで歓声、57.6!!このウマ娘が出るレースは必ずハイペースになる、流石爆速エンジンのツインターボ、ハイペースの申し子であります!!』

『このペースはターボだけじゃなくてブルボンも影響してますね。ターボは臆病なところがありますからより逃げたいという思いと負けん気で更に加速してます。っとここでライスが上がってきた!!ステイヤーとしての体力自慢を此処で活かして加速していくのか、ネイチャも続いていく!!ロングスパートで続いていくが、マックイーンは動かないじっと機を待っているのか、そしてテイオーも待ち続けている!!』

『ああっ私の出番!!ここでレースが大きく動いてきている、ヤマニンゼファーが大きく上がっていく!!ごぼう抜きでどんどん上がっていく、いやここでイクノディクタスも仕掛けていく!!トウカイテイオーも行った!!ヤマニンゼファーとトウカイテイオーがぐんぐんと上がっていく、それにつられて後方もペースがどんどん上がっていく!!!』

 

あのマックイーンが動かない、それは一種の焦りを誘発する。何かを待っているのかは分かっているが、余りにも前方の二人が速過ぎるのでこの辺りでスパートを入れないと末脚を考慮しても届かずに終わる。間違っていない、寧ろ自分でも正しいと思う。だが―――

 

「(此処でも入れないとなると、マックイーンの狙いは―――)」

『さあ最終コーナーから直線に入るぞ、いまだ先頭を維持するツインターボとミホノブルボン!!このまま逃げ切れるのか、それとも後方からっメ、メジロマックイーン、メジロマックイーンが来た!!?』

『やっぱりここで来るかマックイーン!!』

 

最後のコーナー、カーブからストレートに変化する最後の一瞬、踏みしめる際にマックイーンは重心を低くした。刹那の片足立ち、曲げられた脚に蓄積される力を築き上げた身体で開放する。瞬間、マックイーンの身体はまるでブレたかのように加速した。上がり始めた他のウマ娘の隙間を抜けていく疾風のように掛けていく。

 

「マックイーンやるじゃん、ボクだってぇぇ!!!」

 

それを見たライバルも我もと前に出る、だが想像以上に脚が前に出なかった。前には出ているが伸びが悪い。

 

『仕掛けるタイミングを敢えて遅らせて力を蓄えていたマックイーンと最後の末脚も考慮して加速した他とでは配分も違う、これは上手い』

「くっ……ターボに引っ張られすぎちゃったのか!?」

 

ターボの超ハイペースを利用したかのような加速の仕方にも納得がいくようだった。そしてマックイーンはどんどんと順位を上げていく。

 

『メジロメジロメジロ!!メジロマックイーンが一気に駆け上がる、メジロの名に懸けてこのレースは譲れないと駆けていく!!疾風のごとくかマックイーン!!!』

『だが疾風なら負ける訳にはいかぬとゼファーも駆けて行く!!テイオーも迫る、ライスも来る、イクノも上がる!!さあ天皇賞を制するのは一体誰なのか、今』

『ゴールイン!!!メジロマックイーン一着!!!!二着にヤマニンゼファー、三着にナイスネイチャ!!四着にトウカイテイオー、五着にライスシャワー!!』

 

ゴール板を最初に通過したのはマックイーン。メジロの誇りに掛けて負けられない戦いに答えたと言わんばかりの堂々たる走り。あの走りを見て分かる、今のマックイーンが確実に全盛期。本格的にこれからどうなっていくのか分からない。

 

『やっぱり、マックイーンは強いですね。仮に俺があそこで走ってたとしても、勝てたかどうか』

『で、では一番戦いたくない相手というのは―――』

『もう、戦う事はないでしょうけどね。トレーナーとして、立ち向かう事はあるでしょうが』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。