自分の作ったレースがそこにあった、改めて出走ウマ娘のデータを見ながらそう思った。URAファイナルズに所属に関する規制はなく、自由という他無い。自分が提唱したファイナルズはURAの現体制にとっては劇薬だ、それまであった規範を破壊してしまう程。ランページの行いは時代そのものに対する反逆とも言える。だからどうした。
「さあいよいよダート最終予選、1600を始めるよぉっ!!このダートには一般出身のウマ娘が一番多くエントリーしてる、5名のウマ娘に期待しようじゃないかい!!」
「我らが大井トレセンのメンバーの活躍にも期待したいところ、さあ中央に行くのは一体誰だぁ!!?」
一般校出身のウマ娘は総勢13名、その内ダートにエントリーしているのは5名。垣根はないと言っても矢張り学年で言えば上の者ばかりなのも事実、経験というのはそれだけで武器になる。経験と共に経た時間は精神を熟成させていく、熟れた精神は強くなるか強固になるか、それとも腐り始めるか……そのギリギリの段階のウマ娘が強さを見せるのはその通りだろう。5名の内、一般校出身とはいえ運動系の大学に全国大会常連高校の運動部所属が3人。
「(暗黙の了解っつうべきか、大学生までがファイナルズでレジェンドが社会人からっていうのは意外だったな。寧ろ社会人がファイナルズを走る事だって考えられたのに)」
こればかりはランページも意外な事だった。良くも悪くも風通しが良すぎる出走規定、しかしウマ娘達は自身で線引きを行っていた。プライドもあるだろうが―――世代の関係もあるのだろうかと思う中で自分が思った通りの事が起きた事にも喜びが感じられる。
「5枠9番には藤沢の一般高校からのエントリーだ!!高等部1年のスナイプソウルが入ります、予選ではまるで弾丸のような追い込みで最後方からぶち抜きを演じています」
「あたしもレース見させて貰ったけどありゃ大した脚だったよ」
「イナリからの評価も高いぞ、一般出身の星となり勝利を狙い撃ちできるか!」
「7枠13番、こちらも一般校からの期待の星がやってきました。高等部2年、アクセルフィール!!怒涛の大逃げをする暴走ウマ娘、まるで何処かの誰かを見ているかのような走りをいたします!!」
「こりゃ楽しみだねぇ」
「こっち見んな」
トレセンに所属せずにトレセンの教育を受けたウマ娘をも上回る走りをするウマ娘の登場、実力はあっても事情があってトレセンには行けないといった者たちの発掘。ファイナルズの大きな意義の一つだ。他の一般出身ウマ娘が大学生だったりするのに、大井のトレセンから参加しているウマ娘もいるのに、それらに勝利して二人はこの最終予選にまで上がってきている。
「にしても仮にもトレセンで練習してる奴らに勝って来てるのがこれだけいるってのは凄い話だねぇ……こりゃ気合も入るってもんだ」
イナリの言葉に実況は同意も否定もしにくかった。一般出身のウマ娘の活躍は確かに嬉しい事ではある、がそれはトレセンの教育や指導方針に問題があったのでは?という疑問を投げかけられる事にも繋がってしまう、だがそれはランページ自身が狙った事。
「番狂わせはあって当然、それが勝負の世界ですからね」
「アンタがそれを言うのかい?常勝無敗の独裁暴君が」
「テヘッ♪」
組織の改革が必要なのはなにも中央だけではない、地方もそれは同じだ。中央を敵視するのは別にいいが、問題はそちらにあると自分の問題に目を向けずにいるのも一定数居る。そんな連中に危機感を与える事もこの結果は齎してくれる。ランページは現在のウマ娘のレース運営のシステムに食い込んだ新しい歯車、それらと同調するのではなく独自の動きと回転で既存のそれに影響を与えていく。
今ある時代はランページを拒絶し、今を守ろうとするのか。それともランページに同調し新しい時代を共に歩もうとするのかを望んでいると考えているのだろうか。それはランページにしか分からない。解説の席に座る彼女は笑い続けている、その笑みはとてもそんな大それた事を考えるような深さはない、だからこそ不気味にもURAの役員には見えるのだろう。
「さあゲートイン完了しました」
「URAファイナルズ、大井地区ダート最終予選!!」
「祭りに出れるのは一人だけ、さあ誰になる!!」
その言葉にゲートの中のウマ娘達も決意を新たにする。ファイナルズで賞金を得たい者、もう一度夢を見たい者、中央を見返したい者、様々な思いが交錯するがその方向は一直線、ゴールのみを見据える。
「スタートしましたぁ!!!」
切られたスタートの口火に合わせて大井レース場はひと際巨大な歓声で揺れ動いた。正しく熱狂の渦が大井を飲み込んだ。
「いやぁ最高の熱狂だったねぇ」
「誘ってくれて有難う御座いました」
「何大したことはしてないさ」
URAファイナルズの最終予選は大成功、この地区からもファイナルズ決勝で走るメンバーは無事に選抜された。結果として選抜されたメンバーの多くは大井のトレセン所属、芝の長距離のみが一般出身のウマ娘に決定した。そんな彼女は大学の陸上部所属のグラスインサウザン、矢張りというべき存在が来た。
「ダートのあの二人も惜しかったですけどね」
「ああっありゃ惜しかった」
スナイプソウルとアクセルフィール、この二人にも期待はしていたが残念ながら最終予選で脱落となった。だがそれでも3着と5着と大健闘だったのは間違いなかった、二人には大井や中央からのスカウトから話が出たというのも聞いたがどうなるかは二人次第だ。
「何方にしろ、あたしはお前さんに感謝しかねぇや」
「感謝ってなんかしましたっけ?」
「ファイナルズを開いてくれた事さ」
突然そんなことを言い出すイナリにランページは首を傾げた。
「あたしのダチにさ、トゥインクルシリーズを目指してた奴がいるんだよ。だけど高等部に入ってから膝をやっちまってねぇ……走るどころかジョギングすらまともに出来なくなっちまったんだよ」
「そりゃまた……」
他のウマ娘に比べて走る事への執着が薄いランページですらその事に背筋がぞっとしてしまった。それだけの怪我をしてトゥインクルシリーズを諦めるしかなくなってしまった、無念でしかない事だろう。
「今も必死にリハビリをしてんだよ、元みたいに走れるかもわからないけど必死にさ。でもレースには出られない、夢見た舞台には―――そう思ってた時にお前さんがファイナルズを開いてくれたんだよ」
そのウマ娘は泣いて喜んだという、自分もまた夢を叶えることが出来る、これから先の未来に大きな希望が持てたと。
「そんなつもりではなかったにしろ、ランページ。お前さんは夢だけじゃなくて希望も与えてやったんだよ、感謝してるよ」
「―――やめてくれよ頬っぺたが赤くなっちまう……俺は好きにやったまでさ」
顔を隠すようにしながらもランページは小さく笑っていた。イナリからのその言葉で、ファイナルズとレジェンドを開くために苦労してきた日々がまるで報われたような気分になった。
繁殖牝馬、メジロランページのデータ
現役時代から頑丈な事で有名だったが、それは繁殖牝馬としても変わらなかった。アマテラスとツクヨミの双子を出産した後は流石に数日の間は疲労した様子を見せていたが健康そのもので直ぐに元気になった、甘える双子に愛情を注ぎつつも走り方を教えるような姿が目撃されている。
育児放棄をされてしまった仔馬の面倒も見るなど、リードホースとしての才覚を垣間見せていた。