貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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345話

「ランページさん、ハッキリ言って欲しいんだが姉さんのことどう思ってる?」

「キモくてうざくて下水処理場みたいに用がなければ近づきたくもないし口もききたくない存在感を放つ変態ライバルウマ娘」

「言い過ぎだよ」

 

その日、ランページはタキオンと会っていた。ライバルと認めつつも絶対にプライベートでは顔を会わせないフローラと違ってその妹のタキオンとは予定さえ合えば普通に遊びにも行く。なんだったら保護者同伴じゃないと行けないような所にも保護者役として駆り出されたこともある。要約すればタキオンとはかなり良好な関係が築けているのである。

 

「聞かれたら姉さん死ぬんじゃないかな」

「そりゃいいな、通話繋いでくれ試してみようぜ」

「興味がない訳ではないけどそれで迷惑を被るのは私たちの家族なんだという事をご理解いただきたいね」

「安心しろ、葬式ぐらいには顔出してやるから」

「姉さんならそれで蘇生しそうだから怖いよ、割とマジで」

「マジで蘇生しそうだって思えるフローラって何なんだろうな」

 

この二人の中でのフローラに対する認識は本当に失礼なのではないか、しかも一方は実妹。この場合、妹にこれだけの事を言わせるようなフローラに問題があるのだろうか……そんな会話をしながらもランページはハンドルを切る。

 

「ンでなんでいきなりそんな事聞く、フローラに奴に印象でも聞いて来いって言われたか」

「単純な話さ、貴方は私の姉をハッキリ嫌っているだろう。それなのに確りとライバルと実力を認めている、如何にも不思議だ。一方で姉に後輩たちの事で相談もした、何故なのかと思っただけの事さ。私なら絶対にそんな相手に頼んだりはしない」

「俺が気に入っているかいないかにあいつの実力云々は無関係って事だ」

 

タキオンの言いたい事は分かる、仮に自分がフローラの事を気に入っていたならば相談やらライバル認定も納得がいく。だが自分のそれはそれと真逆と言っても過言ではない。だがその程度の事で事実から目をそらすのは非合理的だ。

 

「俺が気に食わない事であいつのこれまでの経験と戦績が覆るか、違うだろ。適材適所だ」

「認めるべき処は確りと認めるという事か……では、アグネスフローラというウマ娘を貴方はどう評価する?」

 

ちょうど赤信号で止まる、サイドブレーキを引きながらランページは久しぶりにハーブシガーに火を灯した。別に精神的に不安定な訳じゃない、フローラとガチでやりあっていたころはこれを使っていた時期。だから自然と手が伸びてしまった、煙を吐くとちょうど青になったのでインプを発進させる。

 

「端的に言えば―――俺に執着したウマ娘だな。対俺だけ考えてレースに出走して、俺と戦い続けた。だがそれゆえにあいつはあのジャパンカップを獲れた、そして今は世界を相手に戦える実力者に成長している。今度、あいつは海外のG1を狙うらしいが……案外いい所まで行くと思ってる、もしかしたらG1獲るかもな」

「おおっ想像以上に高評価だ」

「まあ、明確な現役時代のライバルだったからな……」

 

実力の一点においては彼女とイクノ程、ライバルとして信頼している相手はいない。問題なのはそのライバルの人格が全く信頼できない点だ。

 

「ハッキリ言って、俺の全盛期はラストランだったと思う」

「凱旋門やBCクラシックではなく?」

「ああ。なんというかな、レディやダイナには悪いんだが……こればっかりは年季が違うって奴だ」

 

間違いなく、自分にとっての最高到達地点はラストランだったと断言出来る。最高のライバル達と最高のレースが出来たあのレースこそが全盛期だ、きっとあの場で自分は敗北したとしても絶対に後悔もしなかっただろう、寧ろ喜んで敗北を受け入れて勝者を祝福した事だろう。

 

「あれで色んな意味で落ち着いてくれてりゃいいダチになってただろうになぁ……」

「そうなったら私も貴方を自分の部屋に招待出来るし、カフェやポッケにも自慢出来ただろうに……」

「「はぁっ全く以てうっとおしい」」

 

本当に息の合う二人だ。お互いにそんな事を思いつつも休日を全力で楽しむのだった。そしてその日はちゃんとタキオンを自宅まで送っていたのだが……そこでフローラとばったりと遭遇してしまった。如何やら休みを利用して帰ってきたらしい。互いに無言だったが、タキオンが遠慮するように家の中に入るとランページが先に口を開いた。

 

「意外だな、お前が飛びついてこないなんて」

「これでも羞恥心はあるんですよ、流石に実家の近くでやる訳ないじゃないですか」

「じゃあトレセンでもやるな」

「それはそれ、これはこれ」

 

擬態は上手いから厄介だ本当に……。

 

「ジャパンカップへの準備は良いのか」

「フフッ勿論連覇を狙いますよ」

「出来るのかお前に、あの面子に勝つことが」

 

思わず素になってしまった。客観的に考えてもジャパンカップに出走するメンバーは並ではない、テイオーやマックイーンも出る訳だしイクノも平然のようにエリザベス女王杯から出走する訳だし……それを言われると痛いと言わんばかりに顔をそらした。

 

「まあうん、頑張ります。どんな相手でもランページさんの相手をするより容易いと思いますので」

「仮にも凱旋門ウマ娘相手にそれが言えるってお前も大分度胸付いたな」

「えっでもランページさん引退してるじゃないですか」

「本気で言ってんのかお前」

 

何言ってんだこいつ、と若干引く。フローラは本気で分かっていないのか首を傾げつつも出走ウマ娘の名前を列挙していく。

 

「それで海外からはエルグッツ……ああそうかっ彼女も凱旋門制覇してましたっけ!?」

「忘れてやるなよ……浮かばれねぇ、マジでエルの奴浮かばれねぇ……」

「だってジャパンカップで負けてるし凱旋門じゃあランページさんのワールドレコードで完全に存在感薄くなってるんですもん」

「もうやめて、エルちゃんのライフはもうゼロよ!!」

 

 

「―――何かしら、今私のプライドというかなんというか、尊厳的な何かに槍が刺さったような……」

 

 

「まあうん、ジャパンカップ頑張りますって事で」

「誤魔化せてないからな?ったく……」

 

頭を掻いた後、ランページはインプの扉を開けながらフローラの事を見た。その何処か鋭い視線にキュンとする自分を必死に制しながらフローラは見つめ返す。

 

「負けんなよ、俺のライバルって看板背負うんだったらな」

 

そう言い残してランページは帰っていった。その言葉はフローラにとって大きな力になる事は間違いないだろう、その言葉を胸に刻んで彼女はジャパンカップへ向かう―――

 

「良かったね姉さん、ランページさんから良いコメント貰え」

「―――タキちゃん私頑張る」

「……鼻から滝のような鼻血がなければ本当にカッコいいのに……」




繁殖牝馬、メジロランページのデータ

メジロランページの血統はハッキリ言ってブラッドスポーツと呼ばれる競馬においてはうまみは少ない。強いて言えば母父のシンザンにしか価値を見出せない。その一方でアウトブリードとしては高い地位を収めていた。

メジロランページ産駒の特徴は頑丈且つ賢く、芝ダート両刀が産まれ易い事。これは産駒というよりも調教師やオーナー側にとっては頭を悩ませる原因にもなった。
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