「やれやれ全く、マヤまで泊まりやがって……」
「ムフ~ランページさんのお料理とってもおいしかった!!マヤ、ビックリしちゃった!!あんな世界もあったんだね!!」
「分かってくれますか、本当に凄いんですよ!!」
結局、フローラとの併走の後に峠に走りに行くことになってしまったランページ。そのおかげで変えたばかりのタイヤは酷い有様だった、普通に走る分には問題は無いだろうが早めに交換が推奨されるぐらいには摩耗していた。よく世話になっている店が自分の店をさり気無く宣伝してほしいという事で配信のスポンサー的な位置に定着したのだが……まさかこんなにも早くお世話になる事になるとは……尚、配信でその店を出した結果、売り上げがその週の売り上げが今まで一月分に匹敵する結果になったらしい。
「という訳でスズカ、今日の俺はマヤの母親って事になってる。暫定的にお前も俺の娘って扱いで振舞うが構わないか?」
「はい大丈夫ですお母さん」
「適応はえぇなおい」
当然今日もしっかりと変装しているランページ、マヤがいる時は誤魔化しが利きやすいという事で親子設定を多用する事になった。マヤも何だかんだでランページとの親子ごっこを楽しんでいる節がある、そして今日からはスズカも自分の娘……結婚していないのに二人のウマ娘の母になってしまった。
「ニンジンジュース、3個お願いします」
「はいよ」
「ママ~マヤ早く飲みたい~」
「はいはい今貰うから、はいスズカの分」
「うんありがとお母さん」
「おやまあ可愛いらしい娘さん方ですね」
「フフフッ自慢の娘ですよ、色目はメッですよ」
「こりゃ手厳しい!!奥様のはサイズアップしますんでご勘弁を」
売店のおじさんの軽口をいなしつつも二人の適応っぷりにも半分呆れている。そして思った以上に女らしく出来ている事にも若干呆れる、自分もウマ娘なのは変わらないという事か……と思いつつも手を引っ張って先に行こうとするマヤと少しだけ前を行くスズカと共に進んでいく。
「ママ~抱っこ~」
「あらあら、マヤってばレースになると甘えん坊さんになるわね。いいわおいで」
「だって見えないだも~ん♪」
マヤもこの時ばかりは役得と言わんばかりにランページに抱き上げられるのをよしとしている、これでもスズカよりも年上なのに……スズカもそれに嫉妬する訳ではないが此処まで素直にランページに甘えられる姿だけには尊敬の意を示す他ない。あんな風に積極的になれたらいいなぁ……と思いながらランページの隣を守るかのように確保するのであった。
「さて、ジャパンカップは誰が勝つのかしらね」
自分が走ったジャパンカップ、そこからフローラが勝ったジャパンカップ、テイオーが2センチの激闘を制したジャパンカップと日本のウマ娘が制し続けている。だが今年は違う、凱旋門制覇ウマ娘であるエルグッツが来ている。それ以外にも海外ウマ娘も挑みに来ている、あの暴君に挑戦するためにと。そんな彼女らを迎え撃つために今年も日本の最強メンバーと言っても過言ではない面子が揃えられた。
『来る舞台は伝説、待ち受ける栄光の前に立ちはだかるは不敗の神話!!今年もジャパンカップが始まります!!このジャパンカップにやって来た海外ウマ娘、その全てが独裁暴君たるメジロランページのワールドレコードに勝つために来たと豪語しておりました。矢張り彼女たちにとっての敵は彼女なのかと思わされましたが―――そんな彼女たちを一蹴したウマ娘もいるのも事実!!さあ伝説が生まれるレース、ジャパンカップが始まります!!』
繰り返された言葉と共に地下バ道から次々とウマ娘達が出てくる。
『さあ一番手はエリザベス女王杯で見事に勝利を収めた3代目トリプルティアラのツインターボだ!!それに続くは同じくカノープスのダービーウマ娘のナイスネイチャ、漆黒の祝福 ライスシャワー。安田記念三連覇の鉄の貴婦人イクノディクタス、そして今度こそG1勝利を我が手に、万能奏者 マチカネタンホイザ、そして今年のダービーウマ娘のウイニングチケット!!カノープスが自らのチームの大将の栄光を守る親衛隊が如く続いております!!』
「G1連覇目指すぞ~!!」
「アタシも勝ちは狙いに行くつもりだからね~負けないよ」
「ライスも、負けない……」
「無論私もです、ライバルの名誉を守るのも私の仕事です」
「私も今度こそ勝つぞ~えい,えい、むん!!」
「うおおおおっ勝つぞぉぉぉ!!!」
カノープスの全員もやる気に満ちている、これは期待できる。だがその期待だけでは簡単に勝てないのがジャパンカップの恐ろしい所だ。並のG1ではないのがこのレースなのだ。
『次にやって来たのは去年のジャパンカップの覇者、ツインターボとシルバーストーンの激戦は語り継がれる伝説の1.7㎝の攻防!!帝王、トウカイテイオー!!そしてそれに続くのはメジロ家の名優、メジロマックイーン!!トウカイテイオーの怖い怖い敵であります』
「フフンッ今年も勝つのはボクだもんね」
「そうはいきませんわ、私ですわ」
飛躍し続ける帝王と高みへと昇り続ける名優、この二人はどこか似ているが似ていない。そんな二人の登場に沸き立つ中で遂に海外ウマ娘がその姿を現す。海外の強豪たちが狙いを定めるのはメジロランページのワールドレコード唯一つ、他のウマ娘など眼中にない―――
『こ、此処で来たぁぁぁぁ!!あの伝説の凱旋門に出走し敗北はその一度のみの優勝候補の一角、オルタナティブセブン!!敗戦の借りをワールドレコードを覆すことで返そうとする一人であります!!」
「そんな事で勝てれば苦労などしない、全力でこの場にいる全員と戦う」
煽り文句と裏腹にオルタは別にワールドレコードに挑戦するために来たわけではない。ただここで走りたかっただけでしかない、あの暴君の伝説の地で。そして……自分の過去と本当の意味で決別するためにここに来た。VIP席の視線の一つ、こちらを見つめる人に笑顔で返す。あの人の為にも自分は走る。
「またここに来れた……そして今日こそ―――私が勝つ」
『遂に来た……この地の伝説は彼女無くしては語れません、凱旋門制覇を達成し独裁暴君と真っ向から挑んだ数少ない伝説の一人。エルグッツが再び姿を現したぁぁぁぁぁ!!!』
エルグッツの登場に一気にレース場は過熱した。再びあの日のようなレースが見られるかもしれない、という期待が抑えることが出来ないほどに熱狂が巻き起こっていく。誰もがエルグッツを警戒する、海外から来ている者も含めて―――だが最も警戒すべきウマ娘が来ていないと日本勢は思った。そのウマ娘は最後になって登場した。
『そして来ました。この地の神話を作り上げたウマ娘は彼女とイクノディクタスなくては語れない、メジロランページと真正面から戦い続けた猛者、ジャパンカップウマ娘、アグネスフローラぁぁぁぁ!!』
完璧に仕上がっているフローラ、その登場を見た東条は胸を撫で下ろした。精神的な充実を図ったランページとの併走、全力でやってしまったのであの後はケアに追われて大変だった。僅かでも疲れが残っていないかと不安だったがあの堂々たる姿を見れたならばもう何も言う事はない。が、フローラの脚が止まった。
「ママ~誰が一番になると思う?」
「そうねぇ……誰が勝っても可笑しくないわね、スズカは?」
「えっと……分からない、でも私はあそこの誰よりも速くなりますお母さん」
「フフフッ素敵ね。貴方ならそうなれると思うわよ」
視線の先にあった物、それは母親を演じているランページの姿だった。以前見たママみを感じさせるなんて生易しいものではない、あそこにあるのは純然たる母の姿だった。なんて色気なんだ、言葉の節々からにじみ出る母性と清楚な服装が醸し出すのは命が生まれた前から感じるもの。それを目の前にしたフローラは内から色んな物が沸き上がってきたがそれを一度抑え込みながらもゲートへと向おうとするのだが―――
「ほらお姉ちゃんがこっち見てるわよ、応援してあげて」
「は~いママ♪」
「はいお母さん」
「―――私、今日死ぬかも」
アグネスフローラ、ジャパンカップ出走直前に尊死寸前に陥った。
メジロスザク 牡馬
メジロランページの8年目の産駒。父はエルコンドルパサー。
名前の由来は父に倣って飛ぶような名前にした。
凱旋門制覇馬と最も凱旋門制覇に近かった馬の産駒という事で話題を呼んだ。新馬戦から順調に勝ち上がるとNHKマイルを制覇、その後にはなんとクラシックで凱旋門に挑戦。2着の大健闘で日本を沸かせた、そして翌年再び凱旋門に挑戦し見事に制覇。日本馬としては史上2頭目の凱旋門制覇を成し遂げた。
鞍上は
凱旋門制覇時には、大粒の涙を流しながら相棒の名を呼びながら感謝し続けた。