遂にゲートインの時が来た。次々と収まっていくウマ娘達、最後に大外枠にフローラが入る。大外だと分かった時に思わず、自分はにやけてしまった事を覚えている。何せランページが大外だったことが多かったからだ、自分もよく覚えている。なぜかよく大外を引くのである、普通は運が悪いと同情するのだが彼女の場合は大逃げ故か大外の不利も何のそのだった。自分もそれに肖りたいものだ。
『さあG1ジャパンカップが今ッ―――スタートしました!!綺麗なスタートですが一人、いや3人大きく飛び出したウマ娘がいる!!ツインターボだ、ツインターボ!!エリザベス女王杯の覇者たるトリプルティアラのツインターボが前回のジャパンカップと同じく見事なスタートを切りました!!そしてそれに続くのは鉄の貴婦人イクノディクタス、そして大華アグネスフローラ!!これはなんとも、メジロランページのジャパンカップを思い起こさせる展開になってきました!!』
矢張り飛び出したターボ、だがそれはフローラにとっては可愛い姿だ。あの人を師匠と仰いで大逃げをする姿、簡単にその背後に付く事も出来るがターボのペースはランページよりも激しいので自分の事はよく見ておかなければならない。そして自分の背後にはイクノ、思えば彼女との対決もランページとの歴史か。
『4番手には秋の天皇賞を制した名優メジロマックイーン、絶対の帝王トウカイテイオー、レガシーワールドが続きます。そのやや後ろにライスシャワーとナイスネイチャ、マチカネタンホイザが連なります。そして此処にエルグッツとオルタナティブセブンが控えています、スタープリンス、ゴーストチャンス、ウイニングチケットと続きますがやはりというべきか、このウマ娘の出るレースは必ず超ハイペースとなっております!!』
このレースのペースを作るのはターボ、そしてターボが作るレースのテンポと言えば超ハイペースしかありえない。海外のウマ娘からすれば最後のスパートを残す気もない大逃げにしか映らない、日本にはラビットはないと聞いたのにあるじゃないかと思う中で過るのは大逃げで世界の頂点に立ってみせた暴君の姿である。そう、あのウマ娘の登場でラビットウマ娘がそのまま逃げ切って勝つレースも増えているので全く油断できない。
『おっと、此処で海外勢がペースを上げてきました。間もなく半分を切る所ですが此処でペースを上げて先頭集団を捉えようというのでしょうか』
『何せ先頭はツインターボですからね、メジロランページの活躍で逃げウマ娘に対する認識は海外ではかなり変わっているようですから当然の反応でしょう』
ある意味では正しい、だが何て可愛い行動だろうとフローラは薄っすらと口角を持ち上げてしまった。ターボを捉えたいのだろうが、こんなところから上がっていってしまったらラストスパートで使える力は著しく減少して、まともなスパートはかけられない。分かっていないのはランページと対戦経験がない彼女達だけ……他は静かに自分のペースを貫き続けている。
『さあ残り1000mを切りました、先頭はいまだツインターボが先頭。その後方にはアグネスフローラとイクノディクタス、此処でライスシャワーが4番手に上がってメジロマックイーンは一つ下げまして続いてトウカイテイオー。レガシーワールドは此処、その次にナイスネイチャにマチカネタンホイザ、エルグッツ、オルタナティブセブンにウイニングチケット』
このハイペースに既に脱落者は出始めている、無理に上げてしまったペースに身体はついていけずに後退していく海外勢。その中でも地位を保持し続けるのはオルタナティブセブンとエルグッツ。対戦経験者は伊達ではないと言わんばかりだ、だがここで牙を剥き出しにしたのは―――見に来ている祖母の為に走るウマ娘。
『此処でオルタナティブセブンが上がっていく!!一気に3番手にまで上がって来たぞ、このまま先頭を捉えられるか!?』
ラストコーナーでオルタが仕掛けて前に出た。一瞬の隙、僅かに外に膨らんで出来た隙間を縫うかのように飛び出していく。だがそれは他も同じ、此処で出たのならば最後の直線で勝負だと言わんばかりにその号砲を切ったのはターボだった。
「真・ドッカンターボだぁぁぁぁ!!!」
己の意思と感覚で完全に制御できるようになったドッカンターボ、不規則でセオリーを無視するかのような加速をするそれを制御したターボは並のG1ウマ娘では捉える事が難しいレベルで一気に加速するのだが、此処に集うのは並のG1ウマ娘なのではないのだ。マックイーンが、テイオーが、ライスが、ネイチャが、タンホイザが、チケットが―――イクノが一斉に仕掛けていく。
『さあ直線に入った、ツインターボ先頭!!このまま逃げ切るか、G1連勝なるか!!?いやオルタナティブセブンが一気に上がっていくぞ、これが凱旋門出走ウマ娘の実力だと言わんばかりの物凄い追い込みだ!!一気に2番手にまで上がるが、い、いやエルグッツも来た!!凱旋門を制したウマ娘が今度こそ勝利を我が手にせんと上がってくるぞ!!!だが日本も負けていない!!差はほとんどない、ツインターボはこのまま逃げ切れるのか!!?』
目の前にいるのは3人、エルグッツ、オルタナティブセブン、ツインターボ。その全員の走りを目に焼き付ける、そしてそれらの挙動を理解しながらも身体を動かしていく。解析が終わったと言わんばかりに瞳が閉じられる―――刹那、全身に力が漲ってくるのを感じながら瞳を開けた。そこには4人のウマ娘がいた……先程の三人、そしてその先を走る尾花栗毛のウマ娘が見えた瞬間に暴走させるかのように解き放った。
『さあエルグッツが今、ツインターボを完全に捉えて抜いた!!いやオルタナティブセブンが前に出た!!オルタナティブセブンが先頭、いやエルグッツも再び抜き返すぞ!!ツインターボはもう苦しいか、ツインターボの先頭は此処で終わりか!!エルグッツかオルタナティブセブンか―――い、いやっ!!!彼女がいた、独裁暴君のライバル、アグネスフローラ、アグネスフローラが一気に来た!!!イクノディクタスも上がってくる!!マチカネタンホイザも一気に来る、トウカイテイオーとメジロマックイーンも負けじと上がる!!レガシーワールドも必死に食らいついている!!アグネスフローラ、アグネスフローラがエルグッツとオルタナティブセブンを完全に捉えたいや差した差したアグネスフローラが僅かに前に出た!!僅かなリードを守り切れるのか、いや守り切っているそのまま、そのまま、ゴールイン!!!!アグネスフローラ、ジャパンカップを再び制しましたぁぁぁぁぁ!!!2着オルタナティブセブン、3着にイクノディクタス!!4着にエルグッツ、5着にトウカイテイオー!!!』
走り尽くした、出せる限りの全てを出し切ってフローラはゴールした。その果てに凱旋門すら制したウマ娘を下して見せた。頭がぼんやりと霧が掛ったかのような深い深い疲労感が襲ってくる中でそれは聞こえて来た。
『そしてタイムは―――2:21:9!!?前年のトウカイテイオーの2:22:1よりも更に、メジロランページのワールドレコードに肉薄してみせたぞアグネスフローラ!!これがランページ世代の力だと言わんばかりの見事な走りでしたぁっ!!!!』
それは、ジャパンカップで叩きつけたワールドレコードすら越えた記録だった。フローラはこのジャパンカップでランページに勝利はしていた。それが分かるとフローラは大粒の涙を流しながらも空を仰いだ。そしてそのまま笑顔を浮かべたまま観客席に向けて手を振った。その先にいるのは―――
「見事だったぜライバル」
そう呟きながら手を振ってくれているランページがいた。それだけで、フローラは……満たされていた。
メジロラプター 牡馬
メジロランページの10年目の産駒。父はマヤノトップガン
名前の由来はトップガンから戦闘機へ連想。
小柄で穏やか且つ甘えん坊な性格で、母にも厩務員にも甘えていた。競走馬になれるのか?という不安を持たれたが、いざ調教をすると秘めたる野生が解放されるのか、名前通りの勇猛さを見せ、新馬戦から皐月賞まで一気に駆け上がるが、惜しくも2着。続くダービーでは母のような大逃げを打って大差勝ち、かと思いきや菊花賞では最後方から追い込みで勝利するなど父の変幻自在の走りを見事に受け継いでいた。
鞍上は母の鞍上も務めた水流添騎手。甘えて良い時とそれ以外の時を理解していて、小悪魔的な計算高さは母からの遺伝を感じる、との事。