貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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35話

「どうぞお入りください」

「失礼します」

 

たづなさんに案内されて通された理事長室、このトレセンの理事長に相応しい立派な内装をしている部屋に目を移すよりも先に目に入った人物へと目が行った。一見小柄な子供にしか見えないが、ウマ娘の為ならば喜んで私財を投ずることができる程にウマ娘を愛してくれている人がいた。

 

「歓迎ッ!!よくぞ来てくれたな、ランページ君!!」

 

歓迎!!とやたら達筆な字で書かれた扇子を広げながらも自分を出迎えてくれた人物こそがトレセンの理事長たる、秋川 やよいだった。実はノーザンテーストなんじゃないかという疑惑があったが実際は如何なのだろうか、あと帽子の上に乗っているネコが可愛い。

 

「まあまずは座って欲しい、話は喉と口を潤してからでも遅くはない!!」

「此方にお座りください」

「それでは遠慮なく」

 

来賓用の椅子と思われるそれに座りながらもその前に座って理事長に目を向ける、本当に幼女なんだな……と思いながら小さくネコが可愛い。そしてそこへたづなさんが紅茶を淹れて持ってくる、それで口と喉を潤すと直ぐに話を切り出してきた。

 

「単刀直入ッ!!君のご家族と思われる方から連絡が入ってきたのだ、名を朋一と明衣と名乗っていたが」

 

その言葉を放った時に、ランページの表情から光が消えた。真っ直ぐやよいの方を見ている筈なのに影が生まれたかのように何も映さなくなった。無、何も帰ってこないような虚無の表情があったのだ。それを真正面から見ているやよいは特に驚いた。無表情とは表情の変化にとぼしい、表情に表さない事を指すらしいがそれは誤り、本当の無表情とは本当に何もないのだ。

 

「……」

「ランページさん、ランページさん?」

 

たづなの言葉にも何も返答を行わない、喜びを浮かべる訳でも無ければ怒りを浮かべる訳でもない。唯々無がそこにあった、心配したたづなが肩に触れて軽く揺さぶる。

 

「ランページさん!!」

「―――ッ……すいません、ちょっと」

「いや大丈夫だ、寧ろ其方が大丈夫か?」

「……少し」

 

頭を抑えるようにしつつも大丈夫だと答えるが、その表情は一転して何かを堪えるかのような物になっていた。ランページの内側に溢れて来たのは、ウマソウルに刻まれた苦しみや悲しみ、寂しさだ。飲み込んだと思っていたが、名前を聞いて一気に蘇って来た。そして同時にヒトソウルがそれに怒りを覚え始め表情が険しくなっていくのを二人は見た。

 

「それで、その二人はなんて言ってましたか」

「君との面談を望んでいる、そして謝罪をしたいと」

「謝罪、謝罪と来たかあの夫婦……クククッ……何に対する謝罪なんでしょうね理事長、なんだと思います?」

 

顔を押さえながら、同じように抑えつけられた笑いを上げながらも問いかけて来る。その時点で察した、彼女とその二人は良い関係などではない、寧ろ最悪に近い関係なのだと。

 

「皆目、だがハッキリと言える事がある―――ランページ、君は会うべきではない」

 

幼く見える外見とは思えぬほどに凛々しく、力強い言葉と共にやよいは言い放つ。

 

「何があったかは知らないが、君の様子を見る限りではある程度の予測を立てる事は容易。故に言おう、面談するべきではない」

「私も同意見です。今のランページさんは普段とは様子がまるで違います、名前を聞いただけでそれでは……これから大切な時期に入りますし」

 

二人の言葉は何処までも優しく、暖かった。心から自分を心配してくれている、理由が分からずともこのトレセン学園の生徒の一人が苦し気にしているのだから理由などそれで十分過ぎる。

 

「君が望むのであれば、私の方で対処しておこう。何、これでも地位とコネはあるから安心したまえ!!」

 

と、扇子を広げるとそこには安堵!!と書かれている。一体どうやって変わっているんだというツッコミを入れたい、入れたいが―――

 

「折角の申し出ですけど……受け取れません。あれは俺の獲物ですから」

 

譲れない、それだけは譲れないのだ。望むのは自分の手で始末を付ける事なのだ、それを他人に譲るなんてあり得ない。その言葉を受けた二人は同時に険しい顔になった、そしてたづなも席に着くと聞く体勢を作ってくれた。

 

「ならば聞かせて欲しい」

 

思わず言ってしまった言葉、譲れないものを譲らない為に出した言葉を二人は逃さない。恐らく納得するまで返しては貰えないだろうし、連絡が来るために呼び出しがあるかもしれないと思いながらも事情を話す事にした。南坂からも何かあったら自分以外では、東条トレーナーかこの二人に相談すれば間違いはないというお墨付きもあったので素直に話す。途中で口を挟む事も無く唯々静かに聞いてくれている。

 

「「っ……!!」」

「にゃあっ」

「……済まないハテナ*1

「ごめんなさいハテナちゃん」

 

途中途中で二人は怒りに呑まれそうになっている時、理事長の頭の上のネコが一鳴きする。すると二人は我に返ったのか、謝罪しながらも話を聞き続ける。

 

「―――と言う訳です……」

「ニャ?」

「ありがとハテナ、もう大丈夫。ほれっ理事長のとこ帰りな」

「みゃあ」

 

自分も自分で話している時に険しくなっていたのか、途中で理事長のネコのハテナが自分の元までやって来ていた。それに癒やされつつも話し切った。

 

「そう言う訳であれらに報復するのが俺の目的なんですわ、なので理事長のお気持ちは嬉しいですけど」

「―――承知、だが……憤怒ッ!!到底許せる事ではない!!」

 

思わず机を殴り付けてしまう程の怒りを露わにする、それに驚いたのかハテナがランページの頭の上に跳び移ってしまった。

 

「理事長、落ち着いて……」

「だが、何故君がそれほどまでの苦しみを受ける必要があった!?家族であるのならば、本当に家族であるのならば支え合うのが当然!!ご両親を失っていたのであればそれが当然だ!!それなのに遺産を持ち逃げしただと、それなのにG1を勝利し最優秀ジュニア級ウマ娘に選出された途端に会いたいだと!?ふざけているのにも程がある!!」

「私も同感です。お金目当てに決まっています、虫が良すぎる話です」

 

全て言ってくれたやよいとそれに同意しながらもランページに絶対に会ってはいけないと注意するたづな、本当に優しい人達だ。まるでアサマみたいだと思わず思ってしまった。

 

「そう言って貰えるのは嬉しいですけど、俺はそいつらに報復をしたいんです。絶対的な後悔を」

「……如何やら意志は堅いようだ、加えて君のそれは正当のようにも思えるし復讐というには非常に細やかだ」

「遺産の返還というのも当然の権利ですし、でも本当に良いんですか?」

「俺はもうあいつらの家族じゃないです―――俺はメジロのウマ娘です」

 

そう言いながらも笑って見せると二人は漸く顔から力を抜いて柔らかな物を作るようになった。ランページは絶対に二人を許す気なんてない事を改めて理解出来たので安心した。

 

「向こうが会いたいって言うなら会ってやりますよ、下手に引き延ばしたり拒否すればマスコミに変な事を吹き込まれかねない。だったらさっさと話を付けるのが賢明です」

「ムゥッ……正論」

 

今、ランページは本当に大切な時期が迫っている。トゥインクルシリーズのクラシックの本番、一生の一度しか出られない三冠への道。それを得てから接触を図って来るかと思ってきたが、想定よりもずっと早かった。早いならば早いうちに片づけた方が自分としても学園としても得策だろう。リークをするよりも先に、処理する。

 

「では、此方としては何をしたら良いでしょうか」

「何でも言ってくれ!!力になると言ったのだからできる限りの要望には答える!!」

「それじゃあ面談の場所のセッティングをお願い出来ますか、聞き耳を立てられないように」

「可能!!」

「後―――」

 

そのまま話を詰めていく、途中途中やよいとたづなはキョトンとしながらも理解したようにお願いを聞いてくれた。そしてセッティングする時間などを加味して面談するのは―――2週間後に決定した。

 

「理事長、こんな我儘聞いて貰って有難う御座います」

「何、この程度造作もない!!」

「はい。普段は回転寿司を導入しようとしたりもっと凄い事してますから」

「何やってんすか理事長」

「ニャア」

「痛烈ッ!!?何故パンチするのだハテナ!?」

*1
ノーザンテーストは猫とのエピソードが有名だが、ネコは三代の繋がりがあった。ハテナは二代目、後姿が尻尾とお尻の穴でハテナに見えたからハテナという名前になった




ノーザンテーストと仲の良かったネコの初代は野良猫で、入り込んできた子が何時の間にかスタッフのアイドルになっていた、チビと呼ばれていたらしい。

二代目がハテナ。トウカイテイオーの担当の自宅に迷い込んできたとの事。此方は背中に乗ったりなどしていたが、ノーザンは騒がず乗せてあげていたとの事。

そして三代目、ノーザンに悪さこそしなかったがナリタトップロードにネコパンチを浴びせた。名前はジェイソン、心なしか勇ましい名前である。


ノーザンテーストだけではなく、引退馬とネコという組み合わせは多い。有名処では、ノーザンレイクファームのメイショウドトウとメトだろう。
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