アグネスフローラ、ジャパンカップ二度目の勝利。ここ数年のジャパンカップのレベルは異常の一言、それもこれも全ては独裁暴君たるランページのせいとも言えるのだが……それに負ける訳にはいかないと同年代の友や後輩たちが力を付けたのも確かな事実、それは日本のウマ娘のレベルが確実に世界へと肉薄していることを意味していた。
『アグネスフローラさん、この勝利をどなたに届けたいですか?』
「ランページさん以外にいると思ってるんですか?」
インタビューでシレっと発言するフローラ、余りに淀みなくノータイムの返答に質問した記者だけではなくほぼすべての記者が固まっている。フローラの隣の東条は頭を抱えたくなった。がその一方で笑っている記者たちもいた、それはランページが馴染みにしている記者たちだった。その答えを聞いて彼らは勝手に声を上げた。
「でしょうね。貴方はずっと対ランページを掲げて走ってきたんですものね」
「執着せずにいれば、最多重賞勝利も樹立可能だった事だろうに。でもそれだからこそ貴方ですもんね」
記者からの初めての理解の言葉ににこやかに笑った。
「如何して今の私があるのか、そんな理由は一つですから、私の強さは結局の所あの人に直結してしまう訳です。そして私は漸く―――あの人を上回る事を一つ作ることが出来た……これで漸くチームリギルのメンバーとして遜色なくなりましたかね」
「何言ってるの、貴方の事をリギルとして不足だと思ったことは一度もないわ。そんな風聞を気にしていたならば無駄だったわね、あんな物事の本質を見抜けない戯言なんて気にするだけ無駄よ」
生放送でもあるその現場、それを見たものは驚いた事だろう。あの真面目な東条トレーナーが記者やテレビカメラの前であるのにも拘らずにここまで率直な言葉を発するなんて。
「次走は如何します?」
「そうですね~……今年は終わりかな、来年の海外戦線に向けて色々と備えたいですし」
そう言われて納得の息が漏れる、最近のウマ娘の出走スケジュールはかなり過密な傾向がある。それも元を正せばエリザベス女王杯からジャパンカップというスケジュールを組んだウマ娘のせいなのだ、あれだけ激走したのだから次に備えて休養をとったとしても可笑しくは―――
「なんだ休みか、ならいい話があるんだけどねぇ」
そんな声が聞こえてくる。インタビューの会場となっている部屋の扉が開けられてそこに寄りかかっているウマ娘が発した声だった。その声に思わず飛びつきそうになるがそれを必死に制止する、というかそうしないとおハナさんに前言撤回されてリギル脱退を命じられかねない。そこにいたのは勝負服を着ているメジロランページの姿だった。
「あら珍しい、貴方がこんなところに来るなんて」
「現役時代はよく来てたんすけどね、まあ俺の事はどうでもいいんすよ。フローラ、お前今年はもう暇って認識でいいんだろ」
「えっ?ええまあ、そのつもりですけど……取り合えず休養からの海外戦線準備のトレーニング、ですかね?」
「そうね。その為にも休養後にはメンバーを揃えた模擬レースでも組もうと思ってたんだけど」
「なら、良いのがありますよ」
そう言いながらもランページはワザとらしく懐を探る、そこにあるのは一枚の便箋。それをスナップを利かせて手裏剣のように投げるとそれは寸分違わずにフローラの手の中に納まった。
「おおっ……ンで何ですかこれ?」
「レジェンドレースの特別推薦枠の招待状だ、出走レース枠は開けておいた、好きなレギュレーションに出走すればいい」
基本的にレジェンドレースやファイナルズは予選を勝ち上がっていく方式だが、ランページには主催者兼企画者の特権で特別推薦枠という者が存在している。尚、当本人はそんなものがあるとは全く知らなかった。URAの現理事長が用意してくれたらしいのだが……今回はそれをフローラに贈呈する事にした。
「俺は一応芝中距離にエントリーする」
「へぇっ……嬉しい限りじゃないですか、もう来ないと思ってた貴方を倒すチャンスが巡ってくるなんて」
「抜かせ、伊達に無敗を貫いたわけじゃねえんだ。それにお前が勝ったのはあくまで過去の俺だ、しかもシニア前のな。漸く追いつけた位で勝つなんて抜かすな」
「いいじゃないですか、勝ってやりますよ。初黒星をプレゼントしてあげますよ」
「言うようになったじゃねえか、あぁっ?」
とジャパンカップの優勝インタビューだったのにランページとフローラはバチバチにやり合い始めた事で、既にジャパンカップの優勝の話題は薄れつつあった。栄光あるジャパンカップが……そしてなぜランページが此処まで言うのかというと別の理由がある。
「それと、お前に負けてやるわけにはいかないかもしれねぇ。つうか普通に負けるかも」
「あらっ随分弱気ですね?」
「芝中距離レジェンドレースの面子舐めんなよお前マジで、マルゼン姉さんとかエースさんにTTGも参加するんだぞ?」
「―――何それ怖い、魔境かなんかですか」
先程まで闘争心むき出しの表情だったのが一気に真顔へとなった。記者たちにも何それ修羅面子……と言葉を失っている。
「これで会長やらもこっち来たら如何しようかと思った位だわ……」
「あのやっぱりこれお返ししてもいいですか?」
「クーリングオフは受け付けておりません」
「そがぁっ!!」
先程まで喜んでいた筈の招待状を思いっきり床へと叩き付ける。ランページと再び走れるのは嬉しい、嬉しいけれど他面子が冗談抜きで頭可笑しいのである。勝てる気がしないの一言しか捻り出せない。
「まあお前が出なくても俺はライアンとの再戦を楽しませて貰うだけだけどな」
「~っ分かった分かりました!!私も出ますよレジェンドレース!!出てやりますよこん畜生ぉ!!!おハナさん練習メニュー組むの手伝ってください!!」
「分かってるから半泣きになるのやめなさい、気持ちは分かるけど」
「そういう訳でインタビューの続きどうぞ~それでは皆様、気を強く持って善行を積むのだぞ~」
そんな言葉を言い残して去っていくランページ、荒らすだけ荒らして消えていった。まるで嵐のような展開だった……そんな中でフローラは思わず天を仰ぐ……が内心では荒ぶりまくっている気持ちを抑えるので必死だった。
「(やっばっランページさんの香りが招待状からする……宝物にしよっ)」
というかトリップしてるだけで既に気持ちは完全に立ち直っていた。
「あっママ~どこ行ってたの?マヤ、置いていかれちゃってプンプンなんだから!!」
「私も心配してたんですよ?着替えて何処かに行っちゃって……」
「少し野暮用を済ませて来たの、ごめんなさいね二人とも。お詫びに夕ご飯は特製ニンジンハンバーグにしようかしら」
「わ~いマヤニンジンハンバーグ大好き~!!チーズも入れて~♪」
「はいはい」
そして、元凶は着替えるとそのまま娘役の二人と合流して悠々と自宅へと引き上げていくのであった。
メジロスタンピード 牡馬
メジロランページの11年目の産駒。父はメジロパーマー。
名前の由来は新しい熱狂を作って欲しいから。
種牡馬引退が決定したパーマーの最後の相手としてランページが選ばれ、メジロが誇る大逃げコンビの子供として誕生。両親からの遺伝で逃げを得意とするが、波があり大逃げする時もあれば、抑え気味の逃げをする事も。一緒に走る馬の騎手からすれば極めて予測しづらいだった。走ってみなければ分からない逃げは作戦としては有効だったことは事実。皐月賞では大逃げをし勝利、ダービーでは先行よりの逃げで3着、菊花賞では溜め逃げで勝利と二冠馬となった。そしてランページ産駒としては珍しくダートが大の苦手だった。
鞍上は