全く以て此処までよくもまあキャラの濃い面子ばっかりが本戦に上がったものだと思う一方で濃いからこそそれ相応の実力があるのか分からなくなってくる。頭を撫でてくるウマ娘から上手いこと離れてランページは思わず視界の端に映った大人向けのドリンクに目が行く。レジェンドレースの参加者向けの物だが……そちらには目を向けずにオレンジジュースを手に取って口に含む。
「ジュースで宜しいので?」
「自重してんだよ、俺はワクだが飲まなきゃそもそも酔わねぇからな。主催者が酔っぱらう訳には行かねぇからな」
「成程、独裁暴君って呼ばれているのに礼節は弁えている上に責任感もあるって事。これじゃあ独裁暴君なんて名前も不釣り合いにも思えますね」
「勝手に言ってろ、そんな事言う為に近づいてきたのか」
「勿論違う、お礼を言いに来た」
礼を言うならもう少し敬った態度と言葉遣いをしてくれても罰は当たらないと思うんだけどなぁ……と内心で思いながらもそちらへと向き直る。褐色の肌と栃栗毛のドレッドヘアが特徴的なウマ娘、確か姫路のトレセンからの出場者……
「知ってると思うけど自己紹介は自分から。マグナム、マグナムレオンよ、今日ここに来たのは貴方にお礼を言いたかったから」
「俺は何もしてない、やったのはお婆様とスーちゃんだ」
「貴方が動いたからこそあのお二人も動いた、直接的に動かしたのは貴方。だから礼は貴方に言う」
「好きにしてくれ」
マグナムレオンもURAの俗物の被害者というべきウマ娘、オーストラリアの生まれだが親の都合で日本へ。そのまま日本でデビューという段階でその才能を嫉んだ一部のウマ娘とその親がマスコミにあることないこと吹き込んででっち上げの記事を公表、それが俗物の目に留まってしまって彼女は圧力を掛けられて重賞以上のレースに出られなくなった。
「鬱屈とした日々に貴方は改革を齎してくれた、これが私にとっての最後のチャンス……」
「最後ぉっ?冗談だろ。チャンスなんて幾らでもあるんだ、大切なのはしっかりとアンテナを張ってそれを逃さない事だ。レジェンドレースはいつでもお前を待ってる」
そう言いながらもその場を後にするが、背後ではレオンが頭を下げているのが分かった。どうにもこういうのは性に合わない、合わないとしてもやらなければいけない事の方が多いのも大人の特徴だ……慣れた物だ、昔からの事だ。と思ったら酒がどうしても恋しくなってきた……一杯だけで貰うかな……
「ハハハハッいやぁ此処は天国ですねぇこんなにも美味しいお酒が目白押し、メジロのお家の御膝元なだけに。あははははっぐっだらなぁ~い♪こんなにも一杯の酒があってもう幸せ~♪日本酒もいいけど生中もあるしぃワインもあっておつまみも選り取り見取り~!!」
と思ったのだが、既にのん兵衛が陣取って酒盛りをしていた。形式的には立食のバイキング的な感じなのにどっからか椅子を調達してきたのかテーブルの一つを占拠して酒盛りに勤しんでいる。生憎彼女はレジェンドレースの出場者、巫女っぽい白いワンピースを着ている大和撫子な風貌しているのだが酒の山がそれを台無しにしている。そんな彼女に見つかったのか声を掛けられた。
「これはこれは~天下にその名が轟く名ウマ娘メジロランページ様のご登場ではあ~りませんか。どうです御一緒しません?あなたと一緒なんて凄い美味しいお酒になると思うのですが」
「飲み比べならせめて一対一、未成年者が居ない場でしようぜ。一応、本戦に進んでるって事はアンタもレジェンドの一角って事になるんだけどね―――ホウショウツキゲさんよ」
「あたしレジェンドって程でも無いんだけどねぇ」
ホウショウツキゲ。現役時代は地方レースを荒らしまくった後に中央に殴り込み、その暴れぶりから軈て『地方の軍神』とまで呼ばれていた。現在は実家のお寺で巫女をしつつインストラクターとして仕事をしているウマ娘。つうかお前軍馬だろと内心で突っ込んでおく。
「それにしても本当にこのメンバーで戦うって思うとなんだか面白くなりそうだね~トレーナーに勧められて出た甲斐があったよ」
「酒にありつけたからじゃないよな」
「それはある」
「おい」
「ニャハッ♪」
何というか性格が掴めない、単純に酔っているだけとも思えるが……まあ兎も角楽しんでくれているならば喜ぶべきだろう。
「あっそうだ、このお酒ってお持ち帰り有り?」
「厚かましいなおい」
まあ余ったら少しは有りという事にしておこう……本当にレジェンドレースに走る目的で来ているんだよなと思いたくもなるが、一瞬、彼女の瞳の色が変わったのを自分は見逃さなかった。その視線の先にあったのは―――マルゼンスキーと話しているウマ娘、何か因縁があるのかと思ったが直ぐに彼女は破顔した。
「いや、一緒に走りたいな~って思っただから気にしないでね」
「あっそ……まあ楽しんでくれ」
「もう楽しんでる~♪」
ああいうのを見ると本当に自分は酒に強い体質でよかったと思う、まあ彼女は僅かに顔は赤くなっていたが言葉は確りとしていたので完全に素面だと思われる。しかしこれではレジェンドレースの方も方で随分と濃い事に―――
「くぉらぁオグリィ!!少しは遠慮せんかい!!」
「しかしタマ、ランページは遠慮しないでお腹いっぱい食べて良いと……」
「他の連中の分は残しとけって意味だよ、アタシらだけで独占しちゃ申し訳が立たないからねぇ」
「そうか……分かった」
「此方のもおいしいですから、他のも回りましょう」
いや、レジェンドレースも濃いのは色んな意味で確定だったのを思い出した。これに加えてマルゼンスキーやTTGCやらカツラギエースも入るのだから当然、色んな意味で凄い事になるのは決定済みだった……覚悟していた筈なのに頭痛がしてきた。
「あの、大丈夫ですか……?」
「んんっ……ああ、あんがと気遣ってくれて」
差し出されたグラスにはジュースが入っていた、ニンジンジュースだ。それを軽く呷って喉を潤す、矢張りウマ娘としては酒よりも此方の方が身体が喜んでいるのがよく分かる。
「悪いな、確か……ヴェルトロ、いや
「何方もお好きな方で。今は日本語にも慣れましたので」
感謝をささげる相手はファイナルズに出場する長崎の一般校のウマ娘、ヴェルトロ。見た目からも分かる程におっとりとした性格をしたウマ娘だ、どっかの艦娘っぽい気もするが気のせいだろう、ンな事言ってたらウマ娘なんてどうなってしまうんだが。
「君から見てファイナルズはどう思う、突拍子もなくて驚いただろ」
「ええまあ……でも、嬉しかったですよ。私はトレセンに入れませんでしたから」
15で帰国するまではイタリアで過ごしていた彼女にとって日本のトレセンに入る為にもどうしても語学問題をクリアしなければならない。故にトレセン入学を諦めて一般校に進んだ事情も相応にあると聞く。
「出る事は悩みました、悩みましたけど……お父さんやお母さん、友達や先生が走ってって言ってくれて私はここまで来たんです。そんな皆の為に、勝つために来ました」
「そりゃまた素晴らしい動機だ、何だか羨ましいなそこまで背中を押してくれる人がいるってのは。俺なんて抑える前に大逃げかましたからな」
「あらぁっ」
そこから互いについて少しだけ話し合う事にした、ニンジンジュースのお礼という訳でもないが少しだけ話したい気分になったのだ。話しているうちにランページは自分のファイナルズとレジェンドレースが様々な意味で人生の転機や火種、切っ掛けとなれている事を知ることが出来て少しだけ……努力してよかったと思えた。
武士道(河童)様よりマグナムレオン、マイスイートザナディウム様よりホウショウツキゲ、yukikaze改2様よりヴェルドロを頂きました。有難う御座います!!
引退後のメジロランページ
ランページはメジロ及び日本競馬界に多大な貢献をしたとしてノーザンテーストに倣って専用の馬房と自由に出入り可能な専用パドックが用意された。が、基本的にリードホースとして当歳馬たちの面倒を見る事が仕事だったので、専用のパドックではあるが基本的に幼い仔馬達の遊び場、休養の為に帰ってきた子供や孫達の安息地として扱われていたがランページ自身もそれを望んでいる節があり、子供と孫達が傍に居る事を喜んでいた。