貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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36話

「ラン、あの二人に会うって本当なの!!?」

 

練習が休みの日、ランページは気儘に過ごしていた。屋上に出てながらも寝そべりながら空を見上げてシガーを吹かしていると、そこへライアンが飛び込んできた。それに対して軽く首を振って肯定する。

 

「たづなさんから話が来て理事長の所行ってな、んで連絡が来たって言われたんだよ」

「でも本当に会う気なの!?」

「連絡来ちまったんだ、会わないとマスコミにリークされて面倒な事になりかねないからな。マスコミ連中は喜んで話を聞くぜ、何せジュニアクラス最優秀ウマ娘のスキャンダルだからな」

 

ケラケラと笑っているが本当にそれが起きたならば洒落にはならない、だからこそ洒落にする為に会うのである。

 

「でも!!」

「なあライアン、これは俺が漸く目的への第一歩を踏む事が出来るチャンスなんだ。如何してそれを邪魔すんだよ」

「それは……だって」

 

酷く意地悪な言い方だと我ながら思う、ライアンは自分の事を良く知っているし目的だって分かっている。それなのにどうして止めるか、自分の理解者である君が如何してと問いかけられるとととても弱くなる。

 

「だって、ランを自殺に追い込んだ元凶と会うなんて……お父さんとお母さんの遺産を持ち逃げした奴と……」

 

ライアンは不安なのである。叔父と叔母が直接的に自殺に追い込んだ、と言う訳ではないが自殺をするまでに追い込まれる環境にした犯人であるのは確か。そんな人間と会うのは親友、いや家族として許せるような物ではない。せめて誰かを入れておくべきだと思うが、それについては問題はない。

 

「別室にはたづなさんが待機してくれる事になってる、いざとなったら飛んできてくれるさ」

「でも……」

「それにライアン、俺があれに絆されるとでも思ってる訳?」

 

立ち上がってシガーを仕舞いながらも酷く心外そうな表情で見つめ返す。

 

「俺からしたらあれらは親の遺産持って行った上で俺を捨てた屑叔父夫婦な訳なんだぜ、最早保護者でも家族でもない。唯血が繋がってるだけの他人」

「……ゴメン、信じてない訳じゃないんだけど……」

「心配してくれるのは分かるさ、俺はお前に助けられたわけだしな」

 

実際に自殺している光景を見たライアンからすれば決着を付けるためとはいえ、その原因と会わせる事に拒絶反応を感じるのは致し方ないという物。だからその優しさは受け取っておく、だがケジメは自分でつけるのが自分らしさだ。そう思っていると屋上の扉が勢い良く開け放たれた。

 

「うぉっ!?」

「えっ何!?」

 

思わず声を上げながら驚くと、大粒の涙が屋上を濡らした。その涙を流している後ろから何やっとんねん!?という声が聞こえて来る、そして―――その涙を流している張本人は駆け出すとそのままタックルをかますかの如くランページへと抱き着いた。鍛えている筈なのに尻もちをついてしまった。その犯人は……

 

「ぅぅぅぅうっランページざぁぁぁぁん……」

「ク、クリーク先輩!?」

「あっちゃぁ……やってもうた……」

 

そう、抱き着いたのはスーパークリークだった。そしてその背後からはタマモクロスとオグリキャップが顔を覗かせた。クリークが勢い良く開けたせいか、扉は金具が外れて地面に倒れた。

 

「タマ、これ如何しようか」

「どないしよって……用務員のおっちゃんに頼むしかないやろ」

「分かった、私から話しておく」

「頼むで」

 

オグリがそう言いながらも階段を駆け下りて行くのを見送るとタマは酷く申し訳なそうにしながらもランページに抱き着き続けているクリークを見ながら言う。

 

「盗み聞きするつもりはなかったんやけど……一応止めたんやけど止めきれなんだ」

「いえ……何処まで聞いてました?」

「……途中から、せやけど実は予想はついててん。アンタがおとんのスーツを着てたとかでな」

 

そう言われてランページは納得したような顔をした、そうなると以前デビュー戦の時に自分を抱きしめた事も納得が行く。そんな前から自分の事についての目安が付いていたのか。

 

「うぅぅっ……そんなにつらい事を経験していたなんて……ううっ辛かったですね、苦しかったですよね……」

「あ~……取り敢えずクリークさん落ち着いてください。状況だけ見たらクリークさんの方が辛そうです」

「すいません、ご迷惑かけちゃいましたよね……」

「いえまあ……ちょっと嬉しいですけどね、俺の為に泣かれたら」

 

クリークとはタマからの繋がりで先輩後輩程度の関係性しかないのに、話を聞くだけで此処まで号泣してくれるのは嬉しさすら感じられる。が、その一方で凄まじい怒気を放っているタマも気になった。

 

「んでその夫婦が来るんやって……一発殴らんと腹の虫がおさまらんわ!!」

「タ、タマモクロス先輩私よりキレてないですか……?」

「こんな話聞いて素面でキレない方が可笑しいわ!!」

 

怒りのまま、前掻きを行ってしまうタマだが―――G1ウマ娘が怒りのままにそれを行った為に屋上の床に罅が少しずつ入り始めてしまっている。流石のパワーだと感心するが止めないと怒られかねない。

 

「タマさん、そうキレられたら当事者の俺がキレ難いですよ。ご安心してください、あれらには一生苦しみ続けて貰います」

「―――すまんかったわ、そんな家族が居るなんて思わへんかったわ」

「ランページさん……でも暴力はいけません」

 

タマに大してそう言うとクリークが顔をキリッとさせながらも此方を見据えて来た。

 

「どんな事をされようとも、同じことをしたら貴方も同じになっちゃいます。それこそが自分を苦しめるんです」

「分かってますよ、だから俺が求めるのは一生続く細やかな報復なんですよ」

 

どういう事をするつもりなのかと話すとタマは景気の良い笑いを空へと打ち上げて、クリークは安心感を浮かべつつも暖かな笑みを浮かべていた。

 

「そりゃいいな、細やかやけど一生続くわそりゃ!!一番の復讐は自分が幸せになる事だって聞ぃた事あるけど正にそれやな」

「ええ、とてもいい事だと思いますよ。悪い事をしたらちゃんとその償いをさせないといけませんもんね」

 

何方も笑いながらもランページに賛同する。タマはランページの肩をバンバンと叩き、クリークはよしよしと優しく頭を撫でてくれる。不思議とそれは心地良くて不意に家族の思い出を想起させた。

 

「―――……」

「どしたのラン、ボンヤリして」

「……いや、なんかクリークさんが母さんっぽいって思ってさ」

「まぁっ♪」

「あかん」

 

先程まで笑顔だったタマの表情が凍った。タマモクロスやオグリキャップ、イナリワンと激戦を繰り広げたとされるスーパークリーク。紛れもない強豪でおっとりとした性格で皆から好かれるウマ娘なのだが……ある種の致命的な欠点のような物があった。それは……誰かを甘やかしたがるという癖がある事。

 

「それじゃあ私をママだと思って甘えてくれてもいいんですよ♪」

「始まってもうた……」

 

全てを受け止め、許し、なぐさめてくれる甘やかし上手なウマ娘。時にはトレーナーさえもその母性に飲まれてしまう、しかもそれらが出来ないと調子を崩すという……その対象となったりもするタマはその事を理解しているがされたくはない、だがそのせいでクリークの調子が崩れるのは……と揺れる時がある。そしてランページがその対象になってしまうのか……と思った時に軽く苦笑しながらもクリークの頭を逆に撫でた。

 

「あらっ?」

「ありがとクリークさん、だけど俺のお母さんは死んだお母さんだけなんだ。だから貴方をお母さんだと思って甘える事は出来ない、仮令もう会えなくてもあの人以外をお母さんって思いたくはない……って俺の我儘だけど、そう思い続けたい」

「そう、なんですね」

 

一瞬驚きつつも、納得したように頷く。善意のつもりだったが、要らぬおせっかいだったのかも……と落ち込みそうになるのだが、直ぐにクリークの身体に寄り掛かった。

 

「だからさ、姉さんとして甘えてもいいかい?」

「―――っ!!はい、存分にお姉ちゃんに甘えてくださいね♪」

「程々にさせて貰うよ、でも頼る時は思いっ切りね」

「はいっ♪」

 

その光景にタマは顎が外れそうになるほどに驚いてしまった。あのクリークの甘やかしを受け流し切っただけではなく、姉として甘えると宣言した上でクリークもそれに了承した。様々な意味でショックが大きい光景に声も出なくなった。

 

「タ、タマモクロス先輩幾らなんでも驚きすぎじゃ……」

「それ程、なんや……クリークが、あんな事言うなんて……」

「ええっ……」

「タマ、連れて来た……って何かあったのか?」

 

戻って来たオグリは屋上でクリークに膝枕をして貰っているランページ、それを見て絶句するタマと苦笑いをするライアンと言う光景に思わず首を傾げるのであった。




母ではなく姉になったクリーク。まあどっちみちな気もするけど。
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