「なぁっバカなのそいつら?」
余りにも飾りつけもしないシンプルな罵倒に相手は目を白黒させていた。そんな彼女を尻目にニンジンジュースを呷る。
「それでなんで俺の権威が失墜するんだ、寧ろ俺が提唱したレースが今までURAが発掘も出来なかった新しい人材を発見出来たって事で俺として大成功な訳なんですけどねぇ……頭に血が上ってゆでだこになってまともな思考どころか情報処理すらまともに出来なくなったか」
「……あっ」
「気づかなかったんかい……まあそんな状況に置かれてたなら分からなくもないけどな」
話し相手になっているのは横浜のみなとみらいの一般校から本戦まで来たリッシュモン。彼女は如何にも苦労しているらしく、実家はフランスのワイン農家をしているらしいが不作と事業の失敗で経営が苦しくなった家を救うために日本の有力企業先に嫁いだらしい、今時そんな話があるのかと驚いたものだ。そしてそこでは連日嫌がらせやセクハラの毎日、しかもURAの高額出資者だったらしく、メジロランページの権威を失墜させるためにファイナルズに送り込まれたらしい。
「私だってあんな所に嫁ぎたくはなかったけど、家を救うためにはしょうがなかったのよ……」
「だったら俺が手を貸してやるよ、そうだなこの手で行こうちょっち待って」
「えっあっはい」
唐突に電話を掛け始めるランページ、直ぐに電話は繋がったのか話し声が聞こえて来た。
「もしもし、今大丈夫かな。うんパーティは楽しいんだけどちょっち嫌な話を聞いてな、そうそう、リッシュモンってウマ娘なんだけどさ―――そうそう、俗物の始末。分かったお婆様には俺から……あっ良いの?いやだ~もうスーちゃん大好き~愛してる~♪うん俺の名前も全開で使っちゃっていいからさ、何だったら殿下に連絡してフランスの御上にさ、そそっ流石わかってる~うん分かった分かった。それじゃあ今度一緒にご飯でも行こうね~は~い俺も愛してる~は~い」
明るい声色と言葉、そして表情と仕草とは裏腹に話の内容はとんでもないものばかりだった。辛うじて聞き取れた部分だけでもシンボリ家の相談役や殿下という単語だったような……とリッシュモンはとんでもない人に話を持ち掛けたのでは……と今更ながらに身体が震えて来た。
「待たせたな(ソリダス風)」
「大丈夫だけど、あの一体何をしたの?」
「ああ。メジロ家とシンボリ家共同でお前が嫁いだ会社に監査入れる事になった、ついでにお前さんの実家さんには俺がスポンサーになる」
「―――えっちょっと待ってなんかいろいろとあり過ぎて理解が追いつかないんだけど」
リッシュモンは別に自分の環境を変える為に話を持ち掛けたのではない、目的はエルグッツと話せないかという事を交渉するため。その為にまずは自分の事を話さなければと色々と話していたのに……それがあれよあれよと凄い事になっていった。
「俺の改革に乗じて組織の膿は一掃しなきゃならないってのがスーちゃんとお婆様の見解でな、くだらねぇゴミは捨てるに限る―――俺としても、君の状況は変えるべきだと思う」
「有難いですが、何故そこまで……」
「お前は俺だ」
「えっ?」
家の為に日本へとやって来た彼女の姿、そして悪徳企業に好き勝手される姿は……自分のもしもの姿にも映ってしまった。あの時自分が自殺をしていなかったとしても自分の未来なんてたかが知れている。良い様に使い潰されるか……慰み者として使われるだけだっただろう。
「それに俺はこう見えてもワインも好きでな、ワイン農家とも近々繋がっておきたいと思ったところなんだ。後日俺の方から連絡をお前さんの実家に寄こしとく……だから、お前は自分のレースと友人との再会に備え取ったらいいんだ、いいか余計な事は気にすんな」
そんな時、リッシュモンの携帯に連絡が入った。それは彼女のいる会社からだが……ランページは出なくていいと首を横に振りながら一枚の紙を出す。
「パーティが終わったら、このホテルに行け。そこにお前の待ち人がいる」
「エルが、此処に……」
「良いもの食って気分を気持ちを落ち着けてから、行きな」
そう言いながら、自分は歩き出す。そんな背中にリッシュモンは頭を下げる。
「有難う御座いました!!このご恩は絶対に忘れませんしお返しします!!」
「忘れてくれて構わんよ」
「絶対に、絶対に!!」
これは唯の自己満足だ、彼女の嫁ぎ先が余りにも屑だった故に叔父と叔母のように思えたからその怒りをぶつけたくなっただけ……大義名分はルドルフの全てのウマ娘の幸せを実現させる為……と言ったところだ。
『優しいことだな。たった一人のウマ娘相手にそこまでする程に暴君とは優しい存在なのか』
『優しくはない、組織に不必要なものを切り取って新しく綺麗なもので再生する。当たり前の事、其処に感情なんてない』
綺麗なネイティブイングリッシュにそれに合わせるように返した。それを聞いた者は興味深そうにも興味なさそうにも見える態度を作っている。
『ロックスミスだったか』
『ああそうだ、お前に興味があって留学したんだが……こんな面白い催し物をしてくれるとは思わなかったよ。楽しませて貰ったよ』
ファイナルズ及びレジェンドレースは国内限定にしているが、海外ウマ娘が参加する事は出来なくはない。日本に移住しているか、留学していれば出走資格は与えられる。ロックスミスの場合は後者に当たる。
『お前とも是非走りたかった、此方も悪くはないがそちらはもっと面白そうだ……留学期間の延長を申し出ている所だ。来年はお前と走りたいな』
『こちとら本業はトレーナーだ、その要望応えれるかは知らないけどな』
『応えるさ……分かるとも、お前も本心では走り続ける事を願っている。強い相手と……な』
思わせぶりな言葉を口にしながらも待っていると言い残して消えていくが、何を言っているんだが……普通に考えて来年は普通に余裕はある。何せデビューするのはマヤだけだし、それ以降が難しくなるだけだ。この辺りは上水流の成長具合にもよるだろう、しかしまあ走り続けたい事を願っているという事に関しては少しだけ思ったりはしている。だが自分は満足している。
「(ロックスミス……噂通りの問題児か)」
資料には自由奔放だが筋金入りの
「ウマ娘は何処まで行ったとしてもウマ娘ってか……まっ知ったこっちゃないけどな」
お前が自由であるように自分も自由にやらせて貰うと、パーティを巡っていく。そんなランページを見守るような視線を向ける二つの視線。着物に羽織と純和風なのに、なぜかその上から革ジャンを着ているウマ娘と緑の袖で中央が黄色い着物と、赤い帯、黒の袴と侍的な雰囲気を醸し出しているウマ娘。
「あの子がスーちゃんの言ったランページちゃんね……良い目をしてるわ、如何貴方のご感想は」
「悪くはない、寧ろ良い。良い後輩が育ったようで少しは安心できると言った所かな」
紛れもないレジェンドがランページを見る、その二人から見てもランページも紛れもない伝説に数えて良い。寧ろ、日本を次のステージに引き上げた立役者と言ってもいいだろう。そんな彼女が設立したレースに出るのもまた一興。そんな二人の名は―――ヒカルタカイ、そしてトウメイ。
天々羽矢様よりリッシュモン、トラセンド様よりロックスミス、h995様よりヒカルタカイ、幽々やよい様よりトウメイを頂きました。有難う御座います!!
引退後のメジロランページ
日本馬として初の凱旋門制覇、親子での凱旋門制覇を成し遂げているランページには凱旋門挑戦時には必ずと言っていい程に帯同馬としての交渉が入る。肖りたいのかそれとも海外から連れて来てほしいという要望でもあるのかは謎。幾ら輸送に強いと言ってもランページも年齢的に厳しいという理由から毎回断りを入れている、その代わりに遠征馬を一時的に預かってランページと過ごさせることはさせる。
これをすると何故か海外輸送に強くなる。実際、オルフェーブルもお世話になっていた。関係者によると「ランページが何かを教えているように見えた」との事。