素直な事を言えばランページというウマ娘は基本的に大人を信頼しない。信用はする、だが信頼はしない。叔父叔母夫婦に両親の遺産を持ち逃げされた事もあるが現役時代のマスコミやらあれやこれやを踏まえてその気持ちはますます強固になっていった。佐々田、上水流などの同僚や沖野や東条などの先輩などは信頼はしている、南坂に至っては信頼の域を超越しているしそこにお婆様やスーちゃんなども該当する。
『パーティにマスコミとかいれんのぉ?』
『入れると言っても信頼出来る記者たちよ、メジロとシンボリ家の認可を与えてる会社のね。その認可も半年に一度審査を入れて更新したりもしてるから安心なさい』
『信頼できる記者なんていないでしょ、信用と信頼は別物ですよ』
『全くシニカルな孫ね』
故に取材などで重宝している記者連中とお婆様たちが許可した会社だけを入れた。それでもランページとしてはあまりいい顔はしない、前世からそうだがマスコミは大っ嫌いだからだ。一度ニュースの取材で帰宅中に話しかけられたが、拒否したのに無理やりにでも取材しようとしてきた。その時は迷わずに通報しようとしたら逃げだした。そんな中で自分が招待した者がいる。
鈍い光沢の有るマロンブロンドの髪色で前髪には星の白髪模様、深緑色の大きなリボンを付けたアイボリーホワイトのドレス帽を被っている。帽子に併せた同色ドレスに腰のベルトには、金メダルや爵位の勲章が掛かっている。身長は自分よりも高い、180を越えた位だろうか。お年を召しているように見えるが背筋が真っ直ぐだ。
「……並の人じゃねぇな、お婆様やスーちゃん……それ以上かもな」
口から勝手に零れ落ちた言葉に自分が驚いていた。そう認識した人物など数えるほどしかない、我が国の象徴である天皇陛下にドバイの首長陛下、アイルランドでお世話になった王族にアメリカのフリーダム大統領に並ぶという事だ。どんなウマ娘だとも考えるがあいにく自分はそこまで歴史に詳しい訳じゃない、競馬の知識はそれなりにあるが、ばんえいや障害競走方面の競馬知識はほぼ皆無だ。あると言えばオジュウぐらいだ。
「パーティ、お楽しめてますか?」
「―――あらっええ楽しませて頂いてますよ。やっぱり若いというのは良いわね、未来とエネルギーに溢れている」
話しかければ凛とした声が返ってくる、身体だけではなく精神的な意味で尊敬出来るのがこれだけで分かる辺り自分も色々と経験を積んだ結果だというのが実感できてしまう。
「未来なんて不確定なものに溢れてはいませんよ、溢れているのは単純に時間と活力。元々彼女達にはそれがあった、だが巡り合わせが悪いだけのせいでそれを発揮出来ずにいた。家族の為に動いた、実力はあった、言語問題があった、それでもやりたいという思いを引火させただけです。後はその炎をどう力を変えるかは個人の意思次第」
「随分と達観した視点で語るのね」
「一度死に掛けましたからね、いやでも達観はするし大人の世界に入ったなら達観しなきゃいけないものです」
それを聞いて、そのウマ娘は自分の目を見つめて来た。まるで矢で射貫くかのような鋭さを兼ね備えた眼光、酸いも甘いも噛み分けてきた積み重ねから生まれる貫禄が感じられる。そしてその瞳を持った彼女は何処か慈しみと困惑の色で自分を見つめ直した。
「その瞳に嘘はない、そういう目を見て来たけど貴方のそれは特に違う。死と生、その狭間を身を以て体験してきた、違うかしら」
「伊達にあの世は見かけてないって所です」
肩を竦めて見せる、記憶が戻ってからは苦労はしてない……とは言えないがそれまでの苦労は身体に残り続けている。それが彼女には大きく刺さったらしい、何かを噛み締めるかのように頷くと―――改めて彼女は名を名乗った。
「改めて自己紹介をさせて貰おう。ウラヌス、
「無理があるでしょそんな役職持ち」
「ハッキリ言いおるなぁ気に入ったぞ」
ウラヌス、1932年ロサンゼルスオリンピック馬術障害飛越競技の金メダリストである西竹一日本陸軍大佐の愛馬。この金メダルはオリンピックの馬術競技で日本が獲得した唯一のメダルである。このウマ娘の世界でもそれは変わらず、馬術競技の金メダリスト。URAだけではなくトレセンもウラヌスの設立したJAUUからの支援を受けている。ウマ娘一人ひとりの平和とウマ娘の社会活動に於いて地位を守る為に腐心し粉骨砕身の努力を惜しない活動レディ=ウラヌスまたはマザー・ウラヌスと呼ばれる程に尊敬を集め、ルドルフの理想も彼女の影響が大きいとされる。
「最近URAを揺るがす小娘がいて上層部が慌てふためいている所にアー子とスー子が腐った連中を排除して回ってると聞いたのでな、会ってみたいと思っていた」
「アー子にスー子って……よくもまあそんな風に呼べますねあの二人、俺でもスーちゃんが限界なのに」
「それは限界ではなく最高地点と言うのだよ」
ウマ娘としてもある意味で最高の記録を樹立したと言っても過言ではない人物、名前だけは一応知ってはいた……が、大物も来るであろうパーティで話しかけられるんだろうなぁと思っていた大物に自分が声を掛けた事になるとは思いもしなかった。
「何やら苦労はしてないか、しているなら支援してやろうぞ」
「と言われても……私はこれでも結構フリーダムにやらかしてる部類なもんで、強いて言えばURAが絡んできてウザいって事ぐらいですよ」
「それはさっさと現役を引退した事への嫌がらせだろう、私の方からも言っておこう―――売国奴か貴様ら、とな♪」
「ギャップで風邪引きそうっす」
そんな会話を繰り広げているランページとウラヌスに周囲の事情を知っている大人たちは戦々恐々としている。あのランページは、レディ=ウラヌスとすら平然と話が出来るのか……あの烈女と。メジロアサマ含むメジロ家首脳陣、スピードシンボリ含むシンボリ家首脳陣はじめ、華麗なる一族も、旧家メイショウ家、新進気鋭のサトノ家、寺社運営に尽力しているマチカネ家など古くからウマ娘を輩出する名家が束になっても抑え切れないリーサルウエポンとさえされるあのウラヌスと。
「配信も毎回見ておるぞ、私も出たいなぁ~」
「出してもいいけど、流石に貴方レベルだとガッチガチに準備したイベント位でないとダメそうな気がするんですが」
「ゲーム配信辺りでいいのに……まあいい、折角だ記者連中の前で一緒に撮影と行こう。私とも親密になったという事で威圧出来るぞ」
「あっそれいいですね、よ~し撮影したい記者どもこの指と~まれ!!」
が、相手をしているランページだって並のウマ娘ではない。凱旋門にBCクラシック制覇、天皇陛下やドバイ首長、アイルランド王族、アメリカ大統領とも直接顔を会わせて会話したり写真撮影をした程だ。最早並の肝の据わり方ではない、今更どんな相手が来ようとも怖くないのだろう。
糸田ひろし様よりウラヌスを頂きました。有難う御座います!!
引退後のメジロランページ
メジロ牧場は有珠山噴火による打撃を受けたが、ランページの活躍によって得られた賞金と産駒の活躍などによって持ち直す事は出来た―――がその一方で海外はこのニュースに大慌て。すぐさま、ランページ募金が行われた上に各国から何だったら我が国で預かりますと言った連絡が殺到した。
現在ではそれが形を変えて、ランページバースデードネーションが行われている。