「という訳」
「成程な……愚か者も居たものだな。そちらは私の方からも手を回しておくとしよう」
「そうして貰えると嬉しいですね」
「任せておけ、ウマ娘の幸せを叶えるのが私の仕事だ」
グラスが心地よい音を立てた、グラスに注がれたニンジンジュースと赤ワインを共に飲み干す。URAファイナルズとレジェンドレースの開催記念パーティで出会ったレジェンドを越えた存在とも言うべきウマ娘であるウラヌス、御方と表現するに相応しい人にランページは迷う事もなく通報する。対象はもちろん、リッシュモンに不当な扱いをし続けた会社とその持ち主である高額出資者の名前。メジロとシンボリで逃げ場なんて無いだろうが、後詰をお願いする事にした。
「最早死体蹴りにも思えますけどね」
「やるなら徹底的にだ、アー子とスー子は言うなれば突入部隊で私は正しく後詰だ」
「その後詰、ラストに燃料気化爆弾でも投下する気ですか」
「少し違うな、艦砲射撃だ」
「オーバーキルは確実なんですね分かります」
「死体蹴りは基本だ」
周囲からすればその話の内容はこの上ない程に恐ろしい。一歩間違えば自分達だってその対象になりえるかもしれない事が容易に想像出来るからだ、敵対さえしなければその対象になる事はない―――恐怖とは抑止力だと言わんばかり。
「やるなら徹底的にだ、一度思い知らせてその身に刻み込んでやるべきだからこそやるのだ。この私を怒らせる事の意味を、その愚行の果てに待つ破滅をその身を以てな」
「たった一人の小娘では世界を変えられないと侮った結果がこれか、高い授業料です事」
「これから担うのは若者だ、世界は整えてやるから感想を楽しみにしておくよランちゃん」
「そりゃどうも、俺はこれまで通りに自由にやるよウーちゃん」
そう言いながら二人は拳をぶつけあってからハイタッチをしてから固い握手をした、それを終えると自然と二人は離れていった。ランページは喉が渇いたと言わんばかりに新しいジュースを手に取って喉奥へと流し込んだ。最初は冷や汗だらだらだったが話してみれば何ともお茶目で素敵な人だった、色んな意味で百戦錬磨という印象が最初に出てきてしまうが……いい人だったに収束した。多分そんな感想を抱く自分は可笑しいのだろう。
「ぁぁっ……今日という日程、僕は神に感謝した日は無いだろうね。何故ならば―――貴方という星に出会えたのだから!!」
その言葉を聞いた時、あれオペラオーってまだ入学してないよね?という感想が頭をよぎった。来年の新入生が黄金世代だからまだ2年ある筈と思ってそちらを見るとマーベラスサンデーのように瞳に星を浮かべている金髪のウマ娘が自分に手を差し伸べるようなポーズをとっていた。オペラオーとフジでも混ぜた感じかな、と思ったがそれでは足りなかった。彼女は自分に跪くと手を取ってキスをしてきた。
「ああっ親愛なる陛下、貴方にお会いできたことを心より感謝いたします。そして僕の愛を受け取っていただけるでしょうか、貴方を一目見た時から僕の愛は貴方にだけ向く程に、貴方という女性は罪深い……僕が今まで抱いた数多くの愛を全て凌駕してしまう程に……」
ピルサドスキー殿下も加えるべきだった、そして彼女にとって不名誉だろうがフローラも混ざっている気がしてきた。というかよく見たら来ているドレスも凄かった、見事なまでに金ぴかだ。つけている装飾まで金尽くし、何処の成金だ、何処の英雄王だ。
「僕の愛に偽りはない、真実の愛だ」
「真実の愛って言葉ほど信用ならねぇって聞いた事ねぇか、数多くの愛って時点で信頼性もない」
「ならば証明してみせよう、僕はファイナルズを勝ち抜き貴方の下へと再び参上し再び愛を誓おう。僕の名はオーロジパング、如何かこの名を覚えておいていただきたい。それでは陛下、これにて……」
再びキスを落としながら彼女は去っていった、魅惑的なウィンクをしながら。しかしフローラ程の悪印象を抱かなかったのは初対面だからだろうか、それともドストレート表現だったからか、何処か演劇っぽい言い回しも当って妙に現実味がない。オペラオーな感じもしたが、海外遠征時に戦ったガルニエを思い出して致し方なかった。
「マジで何なん、色物ばっかじゃん。なんかあの戦闘狂が一周回ってマシに見えて来た」
「それは最早完全なマヒだ、正気に戻って頂けると此方も有り難い」
何とも言えない笑いと引き攣った口角を携えながらやって来た一人のウマ娘、葦毛のショートヘアーに右耳のみ濃い青色のカバーを付けているのが特徴的。
「失礼、先程から話しかけるタイミングを伺っていたのだがあの戦闘狂がマシと言われて思わず口を出さずにはいられなかった」
「あれよりも大分マシだと思うよ、いきなりキスしてくるような奴とは」
「否定しきれないな……兎も角これを」
差し出された紺色のハンカチ、そのままでいるのも心苦しいだろうという気遣いが感じられた。有難く受け取りながら手を拭く。
「彼女、オーロジパングはかなりの女好きだという話を聞いた。そこにウマ娘であるか否かという事は些細な問題に過ぎず、全ての女性を愛していると公言している。そんな彼女が全ての愛をも上回るという台詞を言ったのは意外だった、日本ではこういう時に何というのだろうか、マジ惚れかな」
「別にそういうのを否定する気はないし本人の自由だから好きにすればいいと思うし好意としては嬉しいんだが……俺としては子供を産む気はあるからそういうのは今の所ノーサンキューだな」
そんな答えに苦笑いを浮かべた。叶わぬ恋に対する労いなのか、それとも同情なのか分からないが彼女は改めて自己紹介を始めた。
「失礼、自己紹介が遅れてしまった。私はスティールヘイズ、先程貴方に接触したレース狂いと同じ留学の身……ではあるがあれのお目付け役というかブレーキ役を押し付けられていてね……専らあれがしでかした迷惑の後始末と謝罪が主な仕事かな」
「案外苦労してんだな……」
「それなりに、だがね……流石に戦友にこんな仕事をさせたくないと思って引け受けたんだが……チームの脱退を真剣に考えているよ」
重い溜息を吐きだした。何処か紳士的な雰囲気を醸し出すイケメンウマ娘だが、その実はかなり苦労しているらしい。
「何だったら貴方のチームに入れたらどれだけ幸福な事か」
「引き抜けって事かい?」
「それが叶えばどれだけ幸福だろうか……だがそうも出来ないからな、戦友を置いていく事は私には出来ない。その代わりに―――日本への招待状を戦友に回せれば嬉しい限りだね」
「手配してやるよ、苦労人の誼って奴でな」
「感謝するよ、貴方の事も戦友と言いたくなってしまうよ」
「呼んでくれてもいいぜ?」
冗談交じりにそういえばスティールヘイズは是非そうしたいが……と含みを持たせながらも良い笑顔で言った。
「憧れの人であり恩を受けた人を戦友などとは呼べないさ、それにまだ戦った事もない相手を戦友などと呼ぶのも可笑しな話だ。私はそろそろあれの見張りに戻らないといけないな、楽しい時間もこれまでだ。これを糧にこれからの毎日を頑張るとしよう。それでは」
頭を下げてからロックスミスの下へと歩きだしていく、このパーティでどれだけのウマ娘と知り合う事になったのだろう。漏れなくほぼ全員がキャラが濃いというおまけ付きで少し頭が痛くなってきた。
「だが保証された実力者ばかりなのも事実」
それだけで十分だ、レジェンドも期待が出来る者達ばかりだ……残念ながら適正やら出走の人数の関係もあるので全員と走る事は叶わないがそれでもいい。自分は満足の出来るレースさえできればそれでいいのだから……。
「よ~し皆集まれ、折角集まったんだ記念撮影と行こう」
全員集合を掛けての写真撮影を敢行した、その際に誰が自分の周りになるのかでまた一悶着になったのだが、結局ウラヌスが一喝して平等にくじ引きで決められる事になった。
「……まさか私とは、周囲からの視線が痛いな」
「なんか、すまん」
隣になってしまったスティールヘイズは周囲からの視線を受けて居心地の悪さを覚えたのであった。
マイスイートザナディウム様よりオーロジパング、トラセンド様よりスティールヘイズを頂きました。有難う御座います!!
今回でパーティは一旦打ち切り、他にも採用したウマ娘は適宜作中で明らかにしていこうと思いますのでお楽しみに!!
引退後のメジロランページ
活躍馬が悉くG1制覇をしていったので一部では大願成就の化身扱いをされる。その為か、仔馬が生まれた馬主やデビューを控えた競走馬を抱える厩舎関係者などが祈願に訪れる事が増えた。当の本人はそんなこと知らん顔でリードホースの役目をし続けていた、そして此処に預けちゃダメかな……という相談も殺到したとか。
訪れる騎手も多かったが、その大半のコメントは
「乗りたかった」
だった。