貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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活動報告に新しいお知らせを掲載いたしました。

ご興味があるから下記のURLからどうぞ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=305557&uid=11127


366話

基本的にランページは定時で学園を後にする。他が残業している中一人だけ帰る事もあるがそれは自分の仕事をキッチリと片付けているので帰宅するのは当然の権利である。そもそもトレーナーというのはそれぞれが受け持つ担当ウマ娘に関する仕事を主とするので担当する人数が多ければ多い程に仕事は増える、チームトレーナーを務めるのならば当然の事。

 

「上ちゃんそろそろ上がれるかい?」

「もうちょっと……うん終わった、ランページさんはネメシスの方もあるから大変でしょ、手伝うよ」

「いやこっちも終わってるから気にするな」

「さっすが」

 

それを聞いて周囲のトレーナー陣は信じられないといった顔をする。何故ならばあのサンデーサイレンスがコーチを務めるチームネメシスの統括チーフまでをも兼任しているのだ。しかもサンデーサイレンスは書類仕事には一切関与してくれないので実質的にそれらを取り仕切っているのはランページ唯一人なのである。二つのチームを同時に取り仕切ってなんで自分達よりもずっと仕事が早く終わるのだと言った顔をする。

 

「ホント速いなぁ……なんかコツでもあるの?」

「前以てパターン構築してそれに沿って仕事が出来るように準備しておくことだな、後はそれの作業に慣れる事」

「割と本気で仕事を終わらせるためのコツしか言ってないね、他の先輩方とは何なの」

「俺より仕事が出来ないだけだろ」

 

その言葉はさながらキリストに突き刺したロンギヌスの槍の如く、彼らの心を抉った。自分よりも仕事が少ないのに仕事量が圧倒的に上である自分の方が早上がり出来るのは詰まる所其れに尽きるのである。

 

「如何する、今日はこの後行くかい?」

「あ~ごめんこの後さ、メンテナンスに出した車を取りに行かないといけないんだ」

「そりゃしょうがねぇな、つうか何でメンテ出してんの。ターボでも後付けしたん?」

「普通に車検だよ」

「じゃあ車検でええやん」

 

そんな事を言いながらトレーナーの職員室から出ていく二人を残されたトレーナー陣は恨めしく睨み付けるのだが、これも全て自分達の不甲斐なさ故なのだと直ぐに気付いてしまい、直ぐにガックリと肩を落としながら仕事を片付け始めるのであった。

 

「まいど~ランページちゃん、今日はこれからこれかい?」

「仕事も終わったから家でじっくりと晩酌よ、上ちゃんと飲み行こうと思ったんだけどよ車検に出した車取りに行くってフラれちまったよ」

「カッ~あの若造もこんな別嬪さんの誘いを振るなんてもったいねぇことするなぁ!!一緒に取りに行った後にどっか飯に誘うとかすればいいのによ」

「煽てても追加はしねぇぜおやっさん」

「たっはぁバレたか!!」

「ニャハハハ~まったね~」

 

トレセン近くの商店街で酒と食材を調達しながらも帰路へと就く。自分程のウマ娘が一介の商店街で買い物をする、何て事が知られたら大スキャンダル―――と言いたい所だが、現役時代からここを利用している事は既に周知の事実なので問題なし。実際報道陣が押し寄せた事があるのだが、商店街の皆さんが邪魔だ!!と口を揃えて他のお客さんの邪魔だから帰れ!!と一喝、そしてそのことが偶然別件で生放送をしていたTVクルーが撮影して別の意味で大騒ぎになったのは良い思い出。

 

「さてと上物のお肉が買えたし今日はとんかつと行こうかな~♪」

 

資産的にはかなりの物を持っている筈なのにランページの生活は基本的には極めて平凡、口座には現役時代のレース賞金がいまだに高く積まれており使われるのを待っている。と言ってもランページは既に一軒家とインプレッサを一括で買っているし十分に贅沢はしていると認識している。とんかつを食べようと思えば何時でも食べる、これだけで自分は幸せな毎日だ。と思いながら家へと帰ってきた。

 

「ただいま~」

 

誰もいないはずの家でもそんな言葉は止まらない。返答はないのに、お猫様でもお迎えしようかな……と思っていた時だった。

 

「お帰り~」

「うんただいま……ん?」

 

返答があった。この家に入れるとすればスペアキーを渡しているお婆様かスーちゃん位、だがあの二人が勝手に家に入るとは思えないし聞き覚えない声に警戒レベルが一気に跳ね上がった。思わずそっと家へと上がりながら懐に忍ばせたスマホでいつでも警察を呼べるようにしつつも、ランページ鉄を手に持つ。いざという時はこれを投擲する、ウマ娘の力でこれを投げられれば痛いでは済まないし外れてもガラスなどは平気で割れるのでご近所さんに異常を伝える事も出来る。リビングへと一気に踏み込むように入るとそこに居たのは―――

 

「やぁっランページ、こうして会うのはドバイでの飛行機以来かな?」

 

どこか陽気そうな笑みを浮かべた褐色の肌と流星入りの赤毛を持つウマ娘

 

「どうも~貴方の事はいつも見守らせていただきました」

 

笑みを湛え続ける青の美しい髪を持つウマ娘

 

「許可なく自宅に入ってしまった事は申し訳ない、悪意などはない。ただ此方の都合として屋内である事が望ましかったのだ」

 

唯一罪悪感を感じているのか謝罪を述べている鹿毛のショートヘアと左目の切り傷が特徴のウマ娘。その三人のウマ娘を自分が知らない訳がない、いや今を生きるウマ娘が知らない訳がないのだ。史実では世界中のレース場で走っているサラブレッド競走馬の多くは父系を遡るとある3頭に行き着くとされており、その3頭を三大始祖と呼ぶ。

 

それこそがダーレーアラビアン、ゴドルフィンバルブ、バイアリーターク。この三つの名前である。この世界においてウマ娘の始祖とされ神格化されているウマ娘、トレセン学園では三女神の像までもがある程の存在だ。

 

「はぁぁっ……イギリスで悪霊を見たと思ったら今度は三女神が降臨したぞおい……」

「仮にも自殺前の自分を悪霊とは随分な言い草だと思うぞ子羊君」

「悪霊で十分です、自殺なんて最大の親不孝をやろうとしたくそやろうなんて」

「余り卑下する言い方をするな、あんな状態では正常な判断など出来もしないだろう」

「同感です」

 

平然と会話が成立してしまっている……そしてイギリスで見たランページの事を確りと分かっている、これは夢でもなければ幻覚などではない……つまり、目の前に居るのはガチの三女神という事になる……いったい自分は何処に向かっているのだろうか。

 

「あ~えっと、色々と突っ込みたいところがある訳ですけど取り合えず、三女神の皆さんなら確かに家の中が一番でしょうね……そこは取り合えず納得します。うん」

「助かる」

「それでえ~っと……これから夕飯なんですけど、食べます?」

 

一先ず、やる筈だった行動をして自分を落ち着かせることにすることにした。三女神を食事に誘ってしまった、字面にしても意味が分からないし誘っていいのだろうか、黄泉戸喫的な事になって困らせたりなんてことは―――

 

「おや良いのかい?それは嬉しいなぁ、献立は何だい?」

「おい図々しいぞ」

「おやっ要らないのかい?」

「……興味がない訳ではない」

「あっお手伝いしますよ~」

「食えるんすね」

 

如何やらないらしい。寧ろ、食事を期待していたような節すらある。作り置きしておこうと思って大量に買った肉がまさか役に立つとは思いもしなかった……まあいい、取り合えず準備に掛かろう。

 

「とんかつにするつもりですけど、大丈夫ですか?」

「好き嫌いはないから安心してくれ」

「ああいや、宗教とかそっち方面で聞いたつもりなんですけど……」

「それで崇拝される側である私たちが言うから大丈夫ですよ」

「ソレモソッカ~」

「ツッコミを放棄したい気持ちは分かるが確りしてくれ、私を一人にするな」

 

この後、三女神と共にとんかつを揚げたりキャベツをスライサーで千切りにしたり、みそ汁に興味津々な三人を見たりと色々な事がありながらも無事に夕食は完成した。

 

「お~これが日本の食事なんだね、実に美味しそうだ」

「フム……栄養バランスもよく考えられているな」

「口に合えばいいですけど」

「フフフッ貴方が作ってくれた物ですもの、おいしくいただきます」

 

そんなやり取りをしながらも、ランページは三女神と共に夕食を取るという事になったのであった。箸に悪戦苦闘しつつもなんとか頑張りながら美味しさに感心するバイアリーターク、フォークでとんかつを頬張るダーレーアラビアン、みそ汁をじっくりと味わいながらキャベツにマヨネーズかドレッシングで迷うゴドルフィンバルブという光景がランページの視界には広がっていた。

 

「……なんだこれ」




皆がいい加減三女神降臨するんじゃね?っていうから期待に応えてみた。


引退後のメジロランページ

頭が良いとされたランページは誰にもサービスを欠かさず愛想も良かったが、極端に嫌がったものが一つだけあった。アイドルである。男だろうが女だろうがアイドルを嫌いそれらが取材に来ても塩対応を貫いた。故かアイドル嫌いなアイドルホースと呼ばれた。

が、某農家系アイドルがどさんこを連れて道草をするという企画で偶然訪れた際には酷く喜んだので何が違うんだと各位は首を傾げたという。
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