「ふぅっ大満足だ、君は実に料理上手なんだな」
「へえっお陰でお腹いっぱいです」
「すまない、このような負担まで掛けさせてしまって」
「まあ、此処まで来て何もしない方が不敬ですから」
結局、夕食は三女神と堪能する事になってしまったランページ。三女神と言っても基本はウマ娘と変わらないのかよく食べる、折角作り置きする為に買ってきた肉も全て出してしまった。今は食後の酒盛りと言った所だ、酒好きのランページの家にはビール、ワイン、ウイスキー、日本酒などなどが置かれている。何を出したものかと思ったが、日本酒を所望されたのでそれを出す事になった。
「ンで態々飯食うために来た訳じゃないんでしょ、そんな事の為に態々三女神が来るとかありえないし……というか、マジで女神なんですか」
「今更過ぎる質問だねぇ子羊君、これでも私たちは本当に女神だよ。実在もするしこうして存在もある、何なら胸でも揉んで試してみるかい?」
「生憎そういう趣味はねぇっす」
「中身は、別だろう?」
見透かすようなダーレーアラビアンの言葉に肩を竦めて受け流す。確かに中身は男だが、数年もウマ娘として過ごせば嫌でも女らしくなる。今では女物の服装だって普通に着れるようにはなった、それでも進んで着るつもりはないが。
「詰まる所、どうして俺がランページになったのかでもお話するために来たと?」
「遊びに来ただけだが?」
ドシャァッ!!そんな音を立てながら崩れ落ちたランページが顔をこたつ兼テーブルに強打した。
「遊びに行くテンションで此処に来たのはお前だけだ、私を一緒にするな」
「あら、私もそういうつもりではなかったけど」
「ならせめてそいつを止める努力はしてくれ、ツッコミが私だけでは説得力がない」
如何やら真面目な要件もあるらしい、少なくともバイアリータークはそういうつもりで来てくれたようで助かった。この中で最も話が通じそうなのも確かに彼女だ。ゴドルフィンバルブも通じそうではあるが……何というか天然っぽいし、そういえばバイアリータークはシンボリ家とは繋がりが深かった。この真面目さもそういう事なのだろうか。
「真面目な話をするとだな……君の活躍の祝福、そしてウマ娘レースの躍進……我々としては君に対して感謝の意しかない」
「俺は何もしてないです。テメェがやりたい事を突き詰めていった結果がこれですから」
「だとしても、その結果は称賛されるべきものがある。走りたい舞台があるならばそれを作る、これはウマ娘として至極当然の事だからな……ランページも、喜んでいる」
その言葉が指すのは自分ではなく、自殺前のランページだろう。でなければそんな風には言わないだろう。
「ハッキリ言って、彼女の事は残念に尽きた。世界を変えられるだけの器がありながらも残酷な運命に翻弄された」
「
「冗談だろう、私たちはそこまで残酷ではないさ」
分かり切っている、残酷ならばドバイ前に姿を見せたりはしないし自分とランページを会わせるなんて事はしないだろう。敢えて、言ってみただけだ。
「私たちが今回来ましたが貴方の魂が最近よく表に出るようになっているでしょう、その事についてです」
「あ~……夢で双子の事見たりママ役が板につき始めたとかその辺りの事っすか?」
「そう、流石私の子羊君だ飲み込みが早い!」
「勝手にお前のにするな」
「良いじゃないか、減るものでもあるまいし」
魅惑的なウィンクをされる、
「ウマ娘にはウマソウルがある、そのウマソウルの強さには個人差はある。だが君には異なる魂がある、現役を退いた事でバランスが少し崩れているんだ」
「ウマソウルが小さくなったとか」
「違う、逆に大きくなっている。現役時代はウマ娘としての本能、レースに対するものでソウルが刺激されていたのを人の魂が抑えてバランスをとっていた。だが現役を引退した事で君は落ち着いた、だから無理に抑え込む必要性は無くなってウマソウルが大きくなってもそのままな訳だ」
理屈は何となくだが理解は出来る、放水をしなくなったダムに水が溜まり続けているようなものだろうか。そう思っていると手を出すように促された、そっと手を出すと三女神の手が重ねられる。
「おやおや随分と大きくなったものだね、フフフッ流石子羊君だ」
呟くダーレーアラビアンをバイアリータークが睨みを利かせて黙らせ、そんな様子を見てゴドルフィンバルブが笑う。そしてそんな時間が少し経つと手が退けられた。別段身体に変化はないような気がするのだが……
「特別な事はしてませんからね、唯少しだけウマソウルが落ち着けるようにしただけです」
「ハッキリ言ってお前が劇的に変わる事もない、これまで通りだ。これから起きるかもしれなかった可能性を防いだだけだ」
「……例えば」
「突然女言葉全開になっておしとやかなお嬢様になったりとか」
「ご病気疑われる奴じゃないですかいやだ」
これまでの自分の事を考えたら記憶喪失やら精神汚染を確実に疑われるようなものではないかと言葉を失う。流石のフローラでもこれには困惑するのではないだろうか……
―――それはそれで私はイケます!!
「なんか、今毒電波が……」
「私も変な物を受信したぞ子羊君」
「妙な物に好かれているな」
「あれも一つの愛ですね」
「別の意味で偏った愛っていうんですよあれは」
兎も角そんな事になったら冗談抜きで病院にぶち込まれるところだった。感謝の念しかない。
「しかし君は本当に面白い、見ていて飽きないよ。これからも私たちは君の事をずっと見ているよ」
「せめてプライバシーは守ってくださいよ」
「無論だ」
「当然です」
そんな言葉を返すと三人の姿が薄れ始めて来た、こうして見ると本当に超常的な存在なんだなと実感が出来る。
「それではな、食事は有難う」
「また来たいですね、その時はちゃんと連絡しますので」
「遠慮しろ……またな」
先にゴドルフィンバルブとバイアリータークが消えていく、二人の表情は極めて穏やかで優しい笑みだった。そして最後まで残ったダーレーアラビアンは最後に自分の手を握り込んだ。
「それじゃあまた会おう、今度は馬鹿な事を考えずにちゃんと全うするんだぞ」
「老衰まで生きてやりますよ」
「ならよし、じゃあね―――」
投げキッスをしながら彼女は消えていった、粒子のようになって消えていった三女神。まるで夢のような体験だったが手のひらに残った熱は幻などではない。三女神が使っていたコップを見た後に、また手を見た後に
「全く女神ともなるとマジで良い女だな……惜しかったかな?」
苦笑した後にランページは食器洗いを始めるのであったが、不思議と心は晴れやかだった。それは余韻のように残り続けていた……
「ランページさぁああんっおはようございま~す!!」
「おっと、相変わらず元気だなテメェは……おはようさん」
「―――ランページさんが挨拶を返して、くれた……だと!?これがまさか噂に聞くツンデレ!?」
「やっぱ死ねよお前」
「デレツン!?」
「お前なんかは無視」
「ハァッ☆」
翌日、フローラに遭遇するまでは。
引退後のメジロランページ
ある日、ランページがお気に入りの場所に腰を落ち着けている時の事だった。突然ランページが嘶いた。天に向けて三度、嘶いた。突然の事に様子を見ていた厩務員達は驚いたが、その後すぐにランページは眠りについた―――そのまま、安らかに旅立った。
奇しくもその日は、ランページにとっての曾孫……デビュー戦の日だった。そして鞍上は自らの相棒。そして曾孫と相棒が勝利を掴んだ時に彼女は嘶き、そして眠りについた。
37歳、競走馬としてはかなりの長寿であった。