間もなくに迫ってくるURAファイナルズ、レジェンドレースの開幕。後僅かしかない日程をランページは日々忙しく過ごしている、それこそ常に誰かと連絡を取り合っているかのような多忙さ。本当にトレーナーを始めたばかりの新人なのかと言いたくなるような姿だが、難なくそれらをこなしていくのは憧れるを通り越したホラー的なインパクトを周囲に与えていく。
「タイキ、今日はダートでの走り込みを追加するからね。マヤちゃんはサニーとステイと一緒に坂路、ステイは引き続きシンザン鉄装備のままな。エアグルーヴとドーベルとスズカは模擬レースだ」
そんなランページを支えているのはサブトレーナーの上水流トレーナー、元から優秀なトレーナーとしての評価を受けていた彼はランページという特異なトレーナーの傍に居た事もあって様々な経験を得ることが出来た事で新人の初々しさは完全に消え去ってふてぶてしさすら出て来た、ある意味のパワーレベリングをされたと言っても過言でもないのである。
「本当に凄いスケジュールだ……年末だというのに身体も精神も休まる時がないな」
エアグルーヴが思わずそんな言葉を言う、彼女自身もプレアデスの一員としてそれなりに忙しい日々を送って来てるがこれから有馬記念、そしてホープフルステークスと繋がっていく―――だけではない、ガチの年末は色んな意味で忙しいのに此処にぶち込まれた祭宴こそがファイナルズとレジェンドレース。この二つはホープフルステークス後に行われる事になっている。
「と言っても今日は今日で有馬記念、今回も今回でとんでもないメンバーが勢揃いです。有馬記念ってなんかランページさんの世代から毎年毎年凄い事になってますよね」
そんな言葉に部室の全員が頷いてしまった。流石にあれほどのメンバーが揃っている訳ではないが……今年のクラシックを沸かせたBNWは全員出走するしテイオーやマックイーン、イクノにブルボン、ライス、ネイチャ、ターボ、パーマーと……ほぼ全員がG1ウマ娘のようなメンバーで構成されている。来年には海外挑戦を掲げるテイオーやターボに検討中のタンホイザ、ドリームトロフィーリーグへの移籍を行うイクノ、マックイーン、パーマーと様々で今年しか見られないような対決になる。
「世間的には漸く世代交代が行われる、何て言われてますね」
「まあ否定しきれねぇだろ、何せあの世代が暴れ過ぎてたのが漸く落ち着くんだ。つってもその下も怪物揃いだ、新しくシニアに上がる連中がかわいそうな事だ」
ステゴの意見には皆が同意するだろう。BNWはシニアに上がり、新たにブライアンの世代がクラシックへと上がるがそこに立ちはだかるのはブルボンとライスを筆頭にした世代、近年の日本のトゥインクルシリーズの発展は世界的に見ても著しいと言われる。ある意味、レベルが低かったのが漸く上がったと遠回しに言われているような気もしなくもないが、日本の台頭に世界は喜んで迎えてくれるだろう。
「ンで我らが暴君様は何処行ってんだ?」
「ファイナルズの最終調整だよ、ガチの年末の日にやるんだから色々と面倒が起きてるんだって。と言っても文句を言っているのは一部の人間だけでその他の人達は新しい年末の楽しみが出来たって大喜びらしいけどね」
二日を掛けて行われる大レース、まさか本当にアプリのファイナルズみたいに有馬の後に行う事になるなんて事はランページ自身も思わなかったことだろう。
「ともかく、今日は俺達は観戦するだけさ」
「あ"~面倒くせぇなったく!!」
理事長室の一角、応接用のソファに腰掛けながらランページが思わず声を上げた。
「くっだらねぇ事ばっかに固執しやがって!!少しは頭まわして俺を利用して自分の立場に還元するとか考えねぇのかクソ共がぁ!!何が品位と権威あるURAの立場を脅かすつもりですか、だテメェらの椅子にどれだけの価値がねぇか分かってんのかガチで大統領とW長官に話通して潰すぞくそ共ぐがぁ!!」
「……荒れているなぁ」
「ええ、荒れてますねぇ……」
良くも悪くも顔が知れ渡っているランページ、そんな彼女が安心して仕事出来る場所は限られる。トレセン学園の中でもその場合はトレーナーとしての立場を優先してしますので安心して過ごせる場所として理事長が提供してくれた、のだが余りにもふざけた事ばかりを言ってくる外野の対処がありランページのストレスはたまり続ける一方だった。
「理事長、マジでURA潰していいですか。再建ならウーちゃんに御婆様にスーちゃんに話通せば行けると思いますけど!!」
「冷静!!それはそれで面白いがそれでトゥインクルシリーズなどが開催出来ないなどは問題である!!」
「理事長、その発言は普通に問題なんですけど……」
「はぁぁぁっ……すいません荒れました」
濃く淹れたコーヒーを喉奥に流し込んで落ち着く、これまでも妨害はあったが正式開催が迫ってきた今頃になって大きな波のようにそれらが押し寄せて来たのだ。既にウラヌスやお婆様やスーちゃんには連絡済みなので収まり始めているが主催者として処理しなければいけない案件もあるので完全に安心とは言い切れない。
「くっそ~これじゃあ有馬見れねぇじゃねえか……あの俗物共、俺にこれだけの苦労させたんだどんな苦しみを与えてやろうか……」
「私が許可する、派手にやり給え!!」
「既にウラヌスさんやメジロ、シンボリの大御所が動いてますからこれ以上如何派手にやれという感じもしますけど……なんでしたら私達でも動きますから」
「いざって時は頼りますよ……これでも大人ですので自分でやれる分はきっちりやります」
一先ずガチ対処する俗物とそれ以外は既に選別済み、それらは既にお婆様方に伝達済みだし何とかなるだろう。と言ってもまだまだ気を抜く事は出来ないだが……と思っていると理事長室の扉がノックされた。もうそんな時間かとランページは肩を落とした、自分はどんだけ仕事に集中していたんだと……ヒトソウルの社畜時代の経験が遺憾なく発揮されてしまっていることが腹立たしい……。
「理事長、お連れ致しました」
「ウムッ!!と言っても彼女は正確に言えばランページへ紹介した方でな」
「話は聞いてますけど……誰なんすか?」
此処で仕事をしていたのはもう一つ理由があった、理事長が自分に会いたいという人がいて是非紹介したいという事だったから。理事長からのお願いとあれば自分は時間を作る事は吝かではない、この人の紹介ならば変な人ではないだろうとは思っている。
「現在は大学に通っているウマ娘でな、ライブについてのプロデュースなど様々な事を学びながら夢のライブを開くために努力している。私の後輩でな、是非君に会いたいと言っているんだ」
「今お呼びしますね」
「へぇっライブを―――んっ?」
夢のライブ、プロデュースの勉強中、それらをしているウマ娘と言われて脳内を何かが駆け巡っている感じがした。そして案内されてきたウマ娘、緊張した面持ちをしながら耳をピク付かせている。左耳のリボンに鹿毛の髪……対面して理解した。彼女は―――
「は、初めまして!!ラ、ライトハローと申します!!メ、メジロランページさんに会えてと、とても光栄です!!!」
そう来たかぁ……と内心で空を仰いだ。