貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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37話

「フゥゥゥッ……」

 

椅子に座りながらもハーブシガーを吹かす。テーブルの上には灰皿が置かれており、そこには既に吸い尽くされた吸い殻が何本も置かれていた。この部屋で待機する事1時間の間にもう何本も吸っている。それ程までに今、ランページの心は激しく動いている。

 

「んっいかん吸い過ぎたか、やれやれ主治医に怒られるな」

 

そう言いながらも新しくシガーの箱を開けた、今日ぐらいは勘弁して貰うとしよう。何せ大切な日なのだから……新しく吸おうと一本を出そうとした時、扉がノックされた。直ぐに扉が開けられたが、そこに居たのは生徒会長のルドルフだった。

 

「ランページ、いらっしゃったよ。既に応接室で御待ちだ」

「了解、んじゃこいつはそっちで吸うとしますか」

 

一瞬、部屋に充満していたハーブの香りの濃さに驚いた様子だったが直ぐに本題を進めた。部屋を出てルドルフの後に続くように歩く。

 

「私も隣の部屋で待機させて貰う事にしたよ、事情を知っている者としてね」

「ハハッシンボリまで味方とは、畏れ多くて震えちゃうな」

 

普段と変わらぬような態度を貫いているように見えるが、ルドルフはランページがかなり揺れているのが分かった。それはハーブシガーの匂いだけではなく普段以上のその瞳が鋭くなっているから。ジュベナイルフィリーズで走った時のような強い瞳、それと同じような心持でいるという事なのだろう。

 

「他にも待機してるんでしょ」

「ああ、たづなさんや理事長、他には南坂トレーナーらもご一緒だ」

「そりゃ結構―――さてと、数年ぶりの対面だな」

 

辿り着いた応接室、扉一つで遮られているというのにも分かる程にウマ娘の感覚と言うのは鋭く強い。間違いなく居る、朋一と明衣、自分の叔父と叔母が……思わず強く握り込んだ拳をルドルフが解きほぐすかのように握ってくれた。

 

「泰然自若、大願成就。今更君がそれを忘れるとは思えないが……細やかな報復、叶えてみせると良い」

「フッ……あんがと生徒皇帝、んじゃ行って来るわ」

 

軽く手を上げると、ルドルフは察したように笑いながらもそれに手を叩き付けた。そして直ぐにもう一度片手で強く握手を交わす、最後に笑い合うと彼女は隣の部屋へと入っていった。そして―――ランページは応接室の扉を開けて中へと入った。

 

「ランページ!!」

「大きく、なったなっ……」

 

応接室のソファには二人の大人が居た。一方は涙を流しながらも自分を見つめ、一方は自分の姿に感激を覚えたように腰を浮かせている。あれから数年経っているが忘れる事が出来る訳もない、紛れもない自分の叔父と叔母、朋一と明衣だ。

 

「これはこれは、随分とお久しぶりだな―――遺産持ち逃げした叔父さんと叔母さん」

 

その言葉に二人は驚いた様子だった、二人の記憶の中にあるランページは何時も暗くオドオドしていて消極的なウマ娘だった。だが、目の前にいるのは冷たい瞳を作りながらも此方を見つめて凛とした言葉を使うランページ。齟齬があり過ぎて本当にあのランページなのかとも思うのも当然。そんな二人を他所に対面のソファに腰掛けながらもハーブシガーを取り出した早速吸い始める。

 

「あ、貴方煙草を吸ってるの!?」

「G1ウマ娘がなんて事を!!」

 

ワザとらしく吸って見せたが効果はある、練習後などは吸ったりしているがマスコミに見られやすい時には騒がれるのも嫌なので控えている。G1ウマ娘がタバコを吸っているなんてブランドが下がると思ったのだろうか、ランページはやめない。

 

「吸うように育てた覚えがないってか、奇遇だな俺もアンタらに育てられた覚えはない。当然だよな、引き取って直ぐにどっか行ったもんな」

「……訳があるんだ、子供のお前には分からない位に大きな訳が」

「訳ねぇ、年頃のウマ娘を家に一人放置して連絡もずっとない位の訳があるので?」

 

一切引くつもりはない、どんな言葉を重ねようとそれを信じはしない。

 

「聞いて欲しいの、貴方を巻き込みたくなかったの」

「そうだ、お前は知らなかっただろうがお前のお父さんとお母さんには大きな借金があった。だから私達が―――」

「そんな事は聞きたくないし、アンタらの話に興味はない。今更会いに来た理由はどうせ金だろ」

「なっ!?お前、なんてことを!!」

 

朋一が机を叩きながらも立ち上がる、威圧するつもりなのか声も低くしながらも此方を睨みつけて来るが全く怖くない。叔父夫婦からすれば自分は両親を失った姪のままで止まっている、その姪がウマ娘として名を上げたから会いに来た。どれほどまでに変化したのかを理解せぬまま。

 

「明衣に謝れ!!明衣がお前の事をどれだけ思っていたのか!!」

「アンタらの事なんて如何でもいい、お父さんとお母さんの遺産、その相続権は俺にあった。さっさとそれを返して貰おうか」

「な、何を言うかと思えば……お前に管理出来る訳ないだろう!!?」

「出来るさ、信頼出来る人に頼む」

 

管理云々の話をして来る事なんてお見通しだ、その辺りも既にちゃんとしてある。

 

「私達が信用出来ないとでも!?」

「えっ信用されるに値すると思ってるの、本当に、数年間音信不通だったのに?」

 

虚を突かれたかのような顔をしつつ、一つ一つを確認するような言葉運びをするランページに強いストレスを感じたのか大声を出した。

 

「わ、私達はお前の!!」

「人間性の話をしてる、子供一人を放置してどっか行くやつに信頼なんてない」

 

朋一は何処か苛立ちを感じているかのように拳を握り始め、明衣は不安を感じ始めたのか分かりやすく目を泳がせ始めた。多少なり大きくなろうとも、自分達の知っているランページのままだと思ったのだろう。違う―――お前らが今の自分に変えたのだ、変えさせてしまったのだ。

 

「俺の人生にテメェらは必要ない」

「お前っ―――!!」

 

朋一が思わず殴り掛かろうとしてしまいそうになった時、応接室の扉がノックされた。咄嗟に拳を引っ込めると扉が開け放たれた、そこに居たのは……南坂だった、そしてその後ろには眼鏡を掛けた初老の男性が立っていた。

 

「だ、誰ですか今は話の途中ですが!?」

「カノープスのチームトレーナーの南坂です。ランページさん、御到着しましたのでお連れしました」

「あんがと南ちゃん、手間かけさせたね」

 

いえ、それでは……と南坂は部屋から出て行くのだが男は応接室に残った。朋一は出て行けと言わんばかりにその人を睨みつけるが、直ぐに付けているバッチを見て顔を青くした。そのバッチにはヒマワリ、そして天秤が中央にある。

 

「紹介するよ、俺がお世話になってるメジロ家お抱えの顧問弁護士さんだ」

「顧問弁護士です。この度はランページさんの担当弁護士をさせていただきます」

「「べ、弁護士……!?」」

「そう、遺産返還の正式な手続きを残したくてお願いしたって訳」

 

ランページはメジロ家の弁護士をトレセン学園へと連れて来ていた、そして理事長や南坂トレーナーと一緒に待機していてもらってタイミングを見計らって来て貰えるように話を付けていたのである。

 

「まず、御二人にはランページ様の保護者としての権利は認められませんね。ご本人様が付けていらっしゃいました家計簿や日記からそれは明白です、そして居住していらっしゃりましたアパートの大家や近隣住民の方々から数年の間お二人の姿を見なかったという証言も取れております。何か、其方から御座いますか?」

 

弁護士が目を向けた時、完全に二人は遠い目をしており敗北を見ている様子だった。弁護士はランページへと目をやる、それに肩を竦めるように応えた。そして応接室からランページが出た時―――彼女はこの上なく晴れやかな表情をしていた。そして南坂が肩を叩いた。

 

「お疲れ様です」

「ありがと……なんかちょっと疲れたな」

 

心が、と言うよりもウマソウルが疲労している気がした。この後、南坂から寮に戻ったらどうかと言われたのでその通りにするつもりだったのだが……偶然出くわしたクリークに膝を貸してほしいとお願いしたら快く膝を貸してくれたのであった。

 

「フフフッ如何ですかお姉ちゃんの膝枕は」

「……ああ、柔らかくて気分が良いよ……ああ、なんか楽になった気分だ……」

 

その気持ち良さに飲まれるように、瞳を閉じた。

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