ホープフルステークスも終了し、トゥインクルシリーズは終わりを告げる事になりそのバトンは来年へと持ち越されることになる。此処から行われるのはドリームトロフィーリーグ、トゥインクルシリーズでその力を見せ付けたウマ娘達が走る正しく夢の祭典―――である筈だった。次に行われるのはURAファイナルズ、及びレジェンドレースに日本は沸き立っていた。
あの世界最速にして最強のウマ娘として名を馳せ、現在はトレーナーとしてその手腕を振るっているメジロランページが主催し企画した特別な催しが間もなく行われようとしていた。普段ならば多くの人達は年末年始の休みを利用して田舎に帰省したり旅行に出かけたり、家でのんびりとする筈なのだが今年の年末は酷く慌ただしかった。逆に都心へと向かう新幹線や高速バスの予約は後を絶たなかったりと慌ただしい。
「そうだ、そういう風に対応して貰ってくれ。付き添いのトレーナーさん達には済まないがホテルに着いたら一旦トレセン学園に連絡して貰ってその後に時間を取って貰うんだ。こんな行事だからこそ連携が大事なんだ、そうそうだから頼むよ。ああはいランページ、あっやだもう電話くれるなら前以て言ってくれればいいのに」
きっとプレアデスの皆と忘年会に興じたりするだろう立場になった筈なのにランページの日々は忙しさに満ち満ちていた。このレースは自分が企画し発案したのだから当然と言えば当然なのだが……それでも忙しい、それでもこなす辺りは流石と言うしかない。
「ああうん分かった、なら伝えてやってくれ―――その気があるなら俺は俺が持ちうる全てを以て戦ってやる、その時には俺は一切の躊躇もせずに全てを利用する。その覚悟があるなら立ち向かってこい、とな」
職員室に木霊するランページのドスが利いた低いが留まる事もなく浸透するその声に、全員が震えた。それはベテランの六平ですら思わず唾を飲んでしまう程の迫力に満ちていたものだった。恐らく普段からよく口にする俗物関係の事なのだろうが……全てを利用するという言い回しは中々しないものだった、そんな彼女にコーヒーを淹れた南坂が近寄った。
「お疲れ様です、お相手はスピードシンボリさんですか?」
「いやウーちゃん」
「ウー……さん?」
「ああ、ウラヌスってウマ娘」
「……また、とんでもない人とコネクションを得ましたね……」
写真で分かっていた事だが、それを間近で口にされると言葉が出なくなる。あのウラヌスをウーちゃんと親し気によるウマ娘なんて身内を除いても世界中探しても彼女だけだろう。
「ウーちゃんに世話になりっぱなしになる訳にはいかない、だから俺の背後の事を分からせればいいって事にした」
「メジロ家とシンボリ家かい?」
上水流トレーナーがそんな事を言う。ランページの後見人としては日本のウマ娘かいとしては破格のコネがあるメジロ家とシンボリ家がある、これでもまだちょっかいを出せる家は存在する。社会的な地位としての規模が同格がそれ以上の所がURAに高額出資をしていたりする、だから場合によっては手に負えない事だってある。
「いや、大統領とFBIとCIAの二長官にアイルランドの王室、ドバイの首長やら」
「そうだった……君にはそれがあった……」
「いざって時は俺はお前らのせいで日本に居たくなくなったって海外に出る。こうなったらどうなると思う?」
「お前さん、エゲツねぇ事考えやがったな……」
思わず六平がそんなことを呟いたが、それは職員室中の総意だった。ランページは自らの力でその価値を証明しそれは世界中が認めるところ、いざ日本に居たくないと言えば世界中からスカウトが集まるだろう。そして仮に海外に行ったとすれば日本中から俗物は批判を受ける事になる、それこそ致命的な打撃になって身の破滅は免れないだろう。
「エゲツなくないさ、だって回避の選択肢と方法を事前に伝えてある訳だしこれから仲良くしていきましょう、ねっ?っていう風に手のひらを返しさえすれば俺は何もしないし俺を利用して利益だって得られるわけですし」
「それをそいつらが簡単に取れると思ってるのかい、此処までお前さんに文句を言う奴らって事は凝り固まった考えの石頭共だぞ。つまり頭何てそう簡単に下げないしこのまま無言を貫くだろうよ」
「なら静かでいい、但しその場合は俺を利用する事が難しくなるだけですぜ」
だからエゲツないと言ったんだ、と肩を竦める六平。高額出資者が最も恐れるのは自分たちの地位の喪失だろうが、同時に自分たちの利益を失う事だって恐ろしい。だからこそランページとの協調路線を取った者達が得られている大きな見返りは絶対に欲しいだろう、だが……それを得る為には自分たちが気に入らないと小娘に頭を下げなければならない。何方にしろ俗物たちのプライドはズタボロになるのだ。
「さてと、俺はファイナルズ出走予定の皆様に顔でも出してくるか。上ちゃん悪いけどプレアデスのこと任せるぜ」
「分かってるよ、サブトレーナーとして務め上げて見せるよ」
「おっ頼もしくなっちゃってまあ、お姉さん嬉しいよ、今度サービスしてやるよ」
投げキッスをしながらも職員室を出ていく彼女を見送った上水流トレーナーはため息交じりに珈琲を飲み干すと素直に南坂トレーナーに頭を下げた。
「すいません南坂さん、困ったときは素直に頼らせてください」
「勿論ですよ、どうせならランページさんの前で意地なんて張らずに言って下さればいいのに」
「一応年上の悪あがきって奴です、これでも23なのに年下扱いってのは如何にも……なんか姉に弄られてるみたいで嫌なんです」
「ハハッいいじゃねえか、何だったら俺も手伝うぜ。スピカ的にも山は越えたからな―――まあ俺も俺で取材の対応で出来る事は少ないかもしれないけど」
「だったら言うんじゃないわよ、リギルも手伝うから何時でも言ってね」
「老い先短い年寄りも上手く使ってみな」
男の意地、年上の足掻き、それをすると決めながらも上水流トレーナーはランページのお陰で出来た縁に素直に感謝しながらも仕事をするのであった。目標は彼女がレジェンドレースに出れる、安心してプレアデスを任せてくれるような立派なトレーナーになる事。その第一段階として偉大な先輩である南坂トレーナーに認めて貰う事から始めよう。
都内の一角にあるホテル。そのホテルへは次々とウマ娘が集っていた。中には本当にここで合っているのか、此処に泊まっていいのか顔を青くしている者も多い。此処はメジロ所有の超高級ホテル、それを今回はランページがURAファイナルズとレジェンドレースの宿舎として貸し切っていた。ロビーへとやって来たウマ娘達は主催者たるランページの姿を見て興奮したり、笑ったり、いよいよだという事をその身を以て実感した。
「ようこそ諸君、さあもう後戻りは出来んぜ。URAファイナルズ、レジェンドレースはいよいよ開幕だ、今日はその前夜祭だと思ってくれ」